9・はじめてのけっとう

「はー……やっと終わった」


 戦闘訓練が終わった後、昼食を取って、午後の授業。他の国の歴史や、ちょっとした数字の問題をやらされて……最後の授業が終わってみんな帰ろう! ってなった時、私はだれるようにうつ伏せになって、少し頭を休める事にした。

 午後の授業は、眠らないようにするのが精一杯だった。全部家庭教師の人に教わったところで、真新しい事がなかったのが原因だった。


「ティアちゃん。疲れた?」

「……どっちかと言うと、眠かった、かな」

「あはは、私も」

「でしょ? もうずっと前に通った話だもの。もっと先に進まないかな……」

「でも、私達みたいに家庭教師がいた人ばかりじゃないから……しょうがないよ」


 そう言われたらなんとも言えない。ここは平民も貴族も同じだから、授業の内容も必然的に合わせる事になる。だから……私達のように先に行きすぎてる子は、どうしても退屈を感じてしまう。


「でも、明日は魔物についてだし、明後日は魔導の話らしいから、そんなに退屈しないよ!」

「……そうかな?」


 ――そうだと良いけど、期待は薄そう。特に魔導は教わる事なんてそもそもない。


 この世界の魔導っていうのは、私の知ってるのと全く一緒なんだもの。頭の中でイメージを膨らませて、魔力とそのイメージを世界に表現する言葉を紡いで発生させる。それが私の知ってる魔導だ。

 それは家庭教師に教えてもらった時にはっきりわかってるし、実際試してみた。正直、戦闘訓練の時よりも目立たないように気を使わないといけないことは目に見えてる。


「……とりあえず、帰ろうか」

「うん!」


 考えるだけで気が重くなるような出来事はまた後回しにして、さっさと家に帰ろう。


 ――


「――、――!!」

「……あれ、なんだろう? 向こうの方で何か言い合いしてるみたいだけど――」


 学園の出入り口から少し離れたところ。人気の少なくなったところで言い争ってる集団がいた。見たところ女の子と男の子五人……ってところだけど……嫌な予感しかしない。


「ティアちゃん……」

「……大丈夫。私がついてるから」


 女の子の方が一歩下がってるのを見た私は、ゆっくりそっちの方に向かって歩こうとしたんだけど……リュネーがそれを止めようとしてきた。

 私が彼女を宥めるように優しく言って、そっと頭を撫でてあげると、少し不安は和らいだようだった。


「だ、だからここは――」

「私の言った事が聞こえなかったのか?」

「早く来い!」

「や……!」


「ちょっと待ちなさい!」


 狐人族の男の子が竜人族の女の子の腕を引っ張ろうとするのを、怒りが混じった声で遮ってやった。

 私の声に苛立つような視線を向けてくる五人の男の子と二人の女の子の間に割って入ると、男の子側の視線がより一層険しくなった。


「……なんだお前は? 邪魔するな」

「嫌がってる女の子を無理やり連れて行こうとするのを、見過ごせるわけないでしょう?」


 睨み返してやると、男の子は面白くなさそうにリーダーっぽい少し赤の混じった金髪の狐人族の男の子に指示を仰いでるみたいだった。


「それでは君が私の館に来てもらおうか。そこのご友人と共にな」

「なぜ?」

「決まっているだろう。私の遊び相手になってもらいたいのだよ。父はルシェクル王国の伯爵を戴いている。逆らったら……どうなるかわかるだろう?」


 目の前の男の子の言葉を聞いて、私は思わず『また……』と頭が痛くなってくるのを隠せずにいた。こういうのばかりじゃないって事はリュネーが証明済みなんだけど、こんなのとまた出会うことになるなんてね……。


「生憎、全くわからないわね。それより、その下卑た顔、なんとかした方がいいわよ?」

「き、貴様ぁっ!」


 私の言葉に腹を立てた狐人族の男の子が掴みかかろうとして……それを貴族の馬鹿息子が手で制した。


「……そこの平民を庇うのは良いが、私に逆らうという事が、どういう事かわかっているのか?」

「この学園ではそんなものは関係ない。でしょう?」


 ため息をついて両手で『やれやれ』みたいなポーズを取ってるけど、それをしたいのはむしろこっちの方なんだけど。


「はははっ、それは詭弁だ。君もわかっているのだろう? 貴族というものに平民は逆らえない。それは紛れもない事実だ」

「貴方がそう思うのならそうなんでしょう。貴方の世界ではね」

「……これ以上私を怒らせない方がいい。君の為にも、な」


 貴族の男の子を馬鹿にしながら呆れた表情を向けると、馬鹿息子は凄みを効かせた顔つきで私の事を威圧してきた。……全く意味ないんだけどね。


「地位でなんとも出来なかったら今度は脅し? 程度が低い事」

「……良いだろう。そんなに恥をさらしたいのであれば、望み通りにしてやろう」


 ビシッと指を突き付けてきた貴族の男の子はにやり、と一瞬下卑た笑いを浮かべて宣言してきた。


「私――ルドゥリア・エスカッツは君に決闘を申し込む」

「……良いでしょう。決闘、してあげようじゃない」


 私に向かって身の程知らずな発言をしたこと……後悔させてあげる……!

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