第十八話 雀は己の過ちを忘れている
……ここが、学校の校庭だというのは分かっている。
でも何かが違う。何かおかしいような気がする。
なんせ生徒の人数が少ない。
青組の半分以上がいない。
「……どうして、クラス合同なんだ?」
青組だけじゃない。
他のクラスの……一年生だけ?
いや違う。二年や三年の人たちもいる。数人だけど一応いる。
もしかして妖精が意図的に少人数を呼び出した?
(鏡夜が神社に入ったから?)
学校外でも容赦なく誘い出すのはさすが妖精と言ったところか。
まあ化け物と対峙しなきゃいけないのわ分かっているけれど……それにしてはこの状況は異様だ。
――――クラス合同で何かをされる?
妖精が何かを企んでいる?
「朝比奈様ぁ!」
聞こえてきた声に思考が止まり、反射的にそちらへ振り向く。
見えたのは、前世の……と言っていいのか分からないけれど、弄られた記憶の中にある。夕赤のキャラクター。
朝比奈陽葵に惚れて全てを捧げると言うに等しい男。それと同じく、陽葵の言うことならば命をかけてでもと動いてくれた信用できる人だ。
……そうだ。赤組がいるなら勝てる?
化け物でも容赦なく対応できた赤組なら何とかなるか?
(……いや違う。ここはゲームの世界じゃないんだ)
頬を強く叩いて、思考を無理やり切り替える。
じゃないと変なことを考えてしまいそうになる。
この前世の記憶さえ偽りの可能性だってあるのだから。
「朝比奈様!」
「……ああ。狼牙だったな。お前も来ていたのか」
「えっ!? まさか記憶が……!!」
騒がしい赤組の方をなんとなく見た。
狼牙は顔を青ざめ、陽葵は首を横に振っていた。
それ以外にも赤組の数人が――――陽葵を中心として集まっているようだった。
「……もしや雀が何か言っていたのか? ふむ。どうやら私の記憶はなくなってしまったようなんだ。入学式から今まで一人で過ごしてきたような感覚に陥っていてな。すまないが初めましてだ」
「グッ……ああ朝比奈様に何たる行いを……!!!!」
「落ち着け。それと雀は何処だ」
「ここにいるよ陽葵。それと小虎も連れてきた。……ああ、小虎っていうのは同級生の……マスコットだ」
「うぅー。ひ、酷いよ雀くん……僕はマスコットじゃないのに……」
俺よりも小さな身長をしている少年と、陽葵と同じく無表情であり身長は鏡夜ぐらいの雀と呼ばれた男。
小虎は可愛らしい顔をしていて、年上とかに好かれそうな小動物系の雰囲気を放っている。ふわふわの赤色に近い茶髪が跳ねていて、まるで仔犬のようだ。
それと雀は黒髪黒目の、何処にでもいそうな地味めの顔立ちをした男。
何を考えているのかすら分からない。陽葵より表情のない死んだ瞳をしたのが特徴と言えるだろうか。
(雀っていうと、陽葵にとっての中学時代からの親友の未雀燕……だったような。それに小虎も一ノ瀬小虎って名前じゃなかったか?)
……いや違う。それは前世の情報だろう。
だから信じない方がいい。
だというのに何でこう、前世の思考にいってしまうんだろうか。
(ああくそ。俺自身の感覚さえ全部信じられないとか頭がおかしくなりそう……)
頭が痛いのもそのせいだろうか。
なんだか嫌な感じだ。
しかも妖精の姿も現さないし……。
「紅葉さん」
「ッ――――なに、鏡夜?」
「ノートに書かれていた……クリスタルってあれのことかい?」
記憶の失った鏡夜が指を指したのは校庭の中央に位置するもの。
いつもよりとても大きくて透明なクリスタルの結晶に俺はただ頷く。
よく見れば青組は主要人物が全員そろっている状態のようだ。
野球部の部活の途中だったのかボールを手に持っている春臣。少しだけキョロキョロと周りを見ている夏。
黄組は……二人だけ?
あれ、天と桃子だけか?
というか桃子の中身ってそのまま?
それともアカネが入っているのか?
《さて、まずはルール説明ですね!》
――――妖精が現れた瞬間だった。
陽葵がその場から飛び出して木刀を片手に妖精に向けて振り下ろそうとしたのだ。
「朝比奈様ぁ!!?」
聞こえてきた悲鳴が、鏡夜の息を呑む音が。
それらすべてが静まった。
「ッ―――――――ああ、今。私を殺そうとしたな?」
妖精は何もしていない。
あと一歩前へ出て、あと少しだけ腕を下ろしたら妖精にぶつかるはずだった。
しかし陽葵はとっさに後ろへ下がった。
もう少しで攻撃できたのに――――天ではないのに、何かを察知したのか。
《駄目ですよー。もう、ゲームマスターたる私に牙を向くだなんていけない子ですねえ……》
妖精が陽葵を見てぺろりと唇を舐める。
そうして目が笑ってない顔で、嗤うのだ。
《あなたはもうちょっとで■■になれるのですから、遊びたいならもう少しだけ待っていてくださいねー》
そう言った妖精の意味が、分からなかった――――。
・・・
遠い遠い過去のお話。
例外を除いて、誰も知らないお話。
『なあここに――――もう!』
『私有地なんだからそんなことしちゃ駄目っすよー! なんか嫌な感じするっす!』
『へっへーん。もうやっちゃったもんねー!』
『あーあー……怒られても知らないぞ』
『お姉ちゃん怒っちゃうかもね』
『まあやっちゃったもんはしょうがないし、どうとでもなるわよ。怒られたならその時に謝りましょう』
『でもここが神社だったなら――――』
紅葉がぐちゃぐちゃになったのは、この後からだった。
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