第12話 師匠ってなに?

 藤田くんに言われてLIN□を開く。緊張しながらも藤田くんからの通知を確認する。


[まどか、今日早く終わりそうだから夕食どう? ]


 まどか……は、やめて。思い出すから。わざと書いてる。からかってるのかな……そう思うのが適当かも。タメ口になってるし。


 既読に気が付かれたのか、通知が来る。


[社長のメモリカード来た? よく撮れてて噴いた]


 秘書課は何をしてるのよ……いや、社長は秘書に何させてるんだ! 藤田くんは、あのメモリカードをどこで開いて観たのよ! 仕事になってるの? ブランド部門暇なの!?


 完全に箸が止まってお弁当の完食を諦めた。


[そういえば


 動画観て気がついたんだけど


 付き合ってくださいとは言ったのに


 好きですって、言いそびれてた]


 藤田くんのコメントに動揺して、チェアをガタッと鳴らしてしまった。デスクに突っ伏して昼寝してた綾香さんが目を覚まして、私を見てボーッとしてる。


「あ、すみません。綾香さん」

「ん? いいのよ。起きたかったから」


 お弁当の包みをバッグにしまって、レストルームに行く。午後の仕事に気持ちを切り替えなきゃと。歯磨きしてメイクを直して廊下を出ると、井達さんに出会した。自分でもビックリするほどときめかない。カッコいいのになぁ。


 いつもの通り一礼して通り過ぎようとすると「あっ」と反応された。ブランド部門で藤田くんの上司でもある井達さんだけにその反応には嫌な予感しかしない。


「あの、何か……」

「師匠の」

「師匠? 」

「あー、すまん。藤田の」


 と、井達さんが意味深に笑うと手を振って去っていった。藤田くんの話を知ってるって事よね? 看過できない話よ。


 気になって放置するはずのLIN□に返信をする。


[師匠ってなに? ]

[井達さん?

 井達さんに俺、師匠って呼ばれてる]


[なにそれ]

[要はジーザスって呼ばれてる]


 井達さんのイメージが微妙に崩れる。


[なんで師匠? ]

[わんわんって鳴いたって話したら師匠って呼ばれるようになった]


 藤田、てめぇ!

 どこまで井達さんに話したんだよ!


「わんわん言え」って藤田くんを鳴かさせてエッチしたの話したわけ?


[最低!

 ブロック]


[ごめんなさい

 ブロックは本当辛いから

 またあとで]


 お昼休みが終わった。

 色々と終わった……


 きっと、井達さんの私のイメージは、『わんわん鳴かせの女王様』になってしまってるんだわ。最悪。


 それなのに、そう鳴きながら狂おしそうに顔を歪める藤田くんが妙にエロっぽくて……興奮したのを思い出しちゃう。私、頭おかしい!

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