文字の誘導
華音ちゃんが寝てる間、俺達は大学のシャワー室を借りていた。
こう言うのがあるのが大学はありがたい。
コンビニで数日分の食料と飲み物を買い、拠点に戻ると楓と拓さん、あろう事か姉ちゃんまでいた。
由佳にアイアンクローされなくなったと思いきや、姉ちゃんが生みの親だって事を痛みと共に思い出す。
「戻ったか。翔太君。昨晩7名の警官が殺害された」
「殺害予告は警官を狙うって暗号だったんですよ翔太さん!」
「私と優子は別にやる事があるわ。黒の御使いを炙り出して、この先の大犯罪を防ぐ為に動くから、申し訳無いけれど後はお願いするわ。翔太君」
「帰らないなら帰らないって一言連絡位寄こしなさいって言ってるでしょあんたは!」
……。
ちょっと席を外した間に色々あった事を恥じるけど、皆が皆それぞれ動いててくれて良かった。
取り合えず整理させてくれと皆を宥める。
なるほど。
〇と×を組み合わせて警察の地図記号。
7人もの警官同時殺害。
黒の御使いと久遠逮捕までの期間、このPCPのシステムを警察側でも使用する。
警官を殺害して行ってると言う事は、奴らの準備が最終段階まで来てる可能性が高い。
だから楓と姉ちゃんはこの事件の後に起こるであろう事件の予防。
拓さんが来たのは、拓さん自らがここで捜査の指揮を執るって事だろう。
それなら安心だ。
仮に他の警官が犯罪者の仲間だって言うのは可能性としてあり得るから。
由佳と華音ちゃんにはその補佐に回って貰おう。
実質このPCPのシステムは由佳と華音ちゃんがほぼ使用してる。
「なら、私達はもう行くわ。時間が無いかもしれない」
「死んだら殺すから覚えときなさいよバカ」
焦りと暴言の中、楓と姉ちゃんは出て行く。
だったら俺はこの殺害予告だ。
○×を組み合わせて警察記号って言うのが正しいとしたら。
他にも何かあるかもしれない。
両小指を絡め、手を口元に当て、考える。
○×を足しても良いのなら。
そして誰が、誰を、いつ、どこでを指してるのだとしたら。
誰をが警官。
〇はどうやっても○、或いは0かもしれないけど、×の方は回転させれば十。
足してみれば女性を表す記号になるんじゃないだろうか。
或いは○×で連想できるのは。
○月×日。
不特定の日付を表す記号にもなり得る。
だとしたら。
○×を0と十に置き換えて考えてみる。
○月×日の0時10分、いつ。
10時00分かもしれないけど、それならわざわざ縦書きに○×を書いて送るメリットは何だろうか。
文字の順番は女性を表す記号にしても0時10分だとしても、違和感は無い。
確証は無いけど、文字の順番は変えちゃダメなんだろう。
警察の地図記号を×○の順番で書く人物は少ない筈。
だから○×なんだと当てを付ける。
その反面、矛盾が生じる。
警官が殺害されたのは21時。
○×の殺害予告の後に警官が殺害されたんだから、繋がりが無い可能性が追えない。
けど、同時に殺害されたと言う事は。
7人の実行者がいるって事。
それなのに殺害予告って形でメールをわざわざPCPに送るだろうか。
関連性がある筈なのに、このちぐはぐな感じは何だろう。
いや、違う。
警官を同時に殺害したのが黒の御使いによる複数犯の仕業だとするなら。
教唆した殺害予告に被せて殺害をしたって考えた方が良い。
だとしたら殺害予告を送ったのは。
皇桜花に殺人教唆を受けた別の人物。
そう考えればちぐはぐな矛盾点が2本の線で絡み合ってる構造に辿り着く。
PCPのシステムで追えるかは分からないけど、0時10分頃に何か事件、事故が起こって無いか。
それを見る事。
或いは警察側に何か情報が無いかを知れるかもしれない。
無かったら22時辺りに起こった事件。
これで結論付ける。
失敗は許されないけど、大丈夫。
やれると自分に言い聞かせる。
「確認しよう」
「モニターは任せて翔太!」
「はい。由佳さん」
殺害予告を盾に、敢えて目立つ犯罪を犯し、影で予告者は別の警官を秘密裏に殺害する。
利害が一致し過ぎてる。
実際には7名以上の警官が既に殺害されてるとしたら。
楓が焦ってる理由が痛い程に分かる。
後は黒の御使いの目的。
別の人物に殺害予告を出し、わざわざ自ら動いて来た事を考える。
そして失踪か殺人か分からないような事件。
弦さんが言ってたチンピラのいざこざが増えてる気がするって情報。
忘れかけてるヒントは無いか。
……皇桜花と対峙した時。
花園塔や崖の城。
犯罪を行う為に作られた施設を作ったのが、奴の祖父に当たる人物だとしたら。
そして今、警察の戦力を目に見えて削ってるかのような動き。
……。
1つの仮説。
仮説と呼ぶのも躊躇うようなもの。
けど、不穏要素を並べた時。
これ以外に思い付けなくなる。
楓に後は情報として伝えて、託す事にする。
「待たせたな翔太君。昨日午後0時過ぎに転落したと思われる事件が1件発生している。現場は信用できる警官と共に向かって貰うが、行くか?」
勿論、俺は頷いた。
手紙を片手に、初老の男は恐怖と焦りの表情だった。
部屋は全てが真っ白だった。
部屋の奥には机があり、マイクとワイヤレスタイプのイヤホンが置いてある。
「ようこそいらっしゃいました。吉文様」
だ、誰だ貴様は!
吉文と呼ばれた男は胸を抑えながら、機械声がした天井のスピーカーに向かって叫ぶ。
「主人が直接お話をしたいとの事です。イヤホンをつけ、お待ちください」
肩で息をした男は手紙を捨て、立ち去ろうとする。
「因みにですが、ここから立ち去ろうとするならば殺しますので」
歯ぎしりをし、辛うじて机の方へと歩を進める男の表情は、過去を思い出しているのだろうか。
イヤホンを取り付け、マイクに向かって叫ぶ。
何故あの事を知ってる!
声が返って来る事無い時間が続き、突然男が胸を抑え、蹲る。
ポケットに手を伸ばそうとするも、男はそのまま動かなくなった。
「1日私と行動を共にする感想はいかがかしら?」
控えめに言って最悪だ。
目的が無かったら勿論こんな事にはならないだろう。
「まあ、さっき頂いた翔太君からの情報を基に考えるのなら、まず私達がすべき行動は何かしら」
脳筋なあたしに聞く?
と思ったけど、これは遠回しに頭も意識して使わないとあいつに負けるってメッセージなのかは考え過ぎか。
まあ、あたしならその親族が犯罪を犯す為の建物を造ったのが事実だってするなら。
過去に。
それも戦前とかそれ位前に何があったのか。
そこから調べるのが手っ取り早いって思う。
「それなら優子は大昔に起こった事件を調べて頂戴」
ならあんたは何をするのか。
「私は昔の建築者を調べてみるわ」
なるほど。
建物を実際に見てないあたしには思い付く訳も無い事だ。
「以前翔太君を連れて、事件に巻き込まれた建物を改めて見てみたわ。建築物の特徴、様式がバラバラなのよ」
それが何だと言うのかさっぱり分からないあたしを見て、楓は頭を抱える。
「まあ、貴女昔からそうよね。勉強が出来るだけと言うか。それ以外は野生動物そのままよね」
失礼過ぎにも程がある。
ってか仮にも協力関係を結んでるんだからもうちょっと仲良く……気持ち悪いから言うのを止める。
「私も詳しい訳では無いけれど、建築物は建築者によって特徴が出るものが多いのよ。ここまでは良いわよね」
まあ、オンリーワンって言葉が一番的確だろうか。
「これらの建物に特徴があるかをまず見たけれど、それが無かった」
だったら別の人……あーなるほど。
犯罪を犯す為って言う目的の為に造る人が複数いる事は考えにくいって事か。
「そう。だからこれらの建物は1人の建築者によって設計された可能性が非常に高いわね。そして様々な国の建築様式を理解している人。そんな人は昔で言えば天才だったのでは無いかと私は考えるわ」
だから建築者を調べて行けば、それが分かる可能性があるって事か。
途方も無い作業じゃないのか。
「由佳ちゃんや翔太君に比べたら、そうでもないわよ。多分知らないだろうし本人も自覚が無いと思うから言っておくけれど、由佳ちゃんの知識はその量と質だけで言えば東大生も超えているでしょうね」
……。
翔太の頭脳はあたしも知ってるから、そこを敢えて言わないのも憎たらしかった。
心配ばっかりしてたけど、それが由佳ちゃんと翔太の想いの結果なんだろう。
「少しはやる気が出たかしら?」
元々あんたよりはあると、ぶっきらぼうに返しとく。
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