第41話 初めての同僚


 スーツに袖を通し、ネクタイを締める。

久々のスーツ。こんな感じでいいかな?


 鏡を見ながら自分の顔を見る。

うん、なかなかイケメンですね。先生っぽい。


 先日の夜の出来事は俺と雅の秘密になってしまった。

武本先輩に知られたら、きっと俺は海に沈められてしまう事になるだろう。

雅に高いおやつを買わされ、それで相殺となった。


 恥ずかしくないのかと聞いたら、そんな年でもないでしょと笑われる。

気にした俺がバカなのか?


 今日は支社に行き、人事の人と面接をする。

店長から話はいっているようで、雇用契約の何かがあるらしい。


 言われた支社のビルに行き、初めて訪れる会社。

扉を開け中に入るとまるで会社のようだ。当たり前か。

カウンターに電話があり、内線をかける。


「今日面接予定の片岡です」


『お待ちしておりました。今行きますね』


 しばらくするとスーツを着た女性が現れる。

おぉ、オフィスレディーだ。本物ですね。


「お待たせしました。こちらに」


 案内された応接室。

テーブルにお茶を出されたけど、飲んでもいいんだっけ?


「お待たせしました」


 今度は中年の男性が出てきた。

渡された名刺には人事部長の肩書。

部長さんって偉いのかな?


「初めまして。片岡と申します」


 席を立ち、頭を下げる。


「あー、固くならなくていいよ。では、さっそく書類を――」


 言われていた通りの書類を出し、履歴書をじっくり見ている。

何か言われるかな……。


「大学、中退したの?」


「はい、単位を落としてしまって、親にも話したんですが学費の面で……」


「そうか、まぁうちは学歴とか気にしない所だから。能力があれば問題ないよ」


 それはありがたいです。

このご時世、中退者はちょっとね……。


「早速だけど、これが雇用契約書。週休二日、夏季冬季休暇有、ボーナス年二回。福利厚生と労働時間。一度内容確認して。契約期間は半年。それ以降はつど更新ね」


 文字が細かい……。俺は騙されない様にしっかりと書面に目を通す。

親にも言われたけど、ハンコを押す時は細心の注意が必要だ。

特に気になるところはないかな?


「大丈夫です」


「では、ここに署名とハンコを」


 言われるまま名前を書きハンコを押す。


「今日から我が社の一員だ。お客様に喜ばれる仕事を心がけてほしい」


「はい! ありがとうございます!」


 その日は夕方に他の社員の人と打ち合わせがあるらしく、俺も参加する。

新しくパソコン教室を行うようなので、その説明をみんなで受けるようだ。


 会議室に集まった人。

ここにいる人はみんな同じ会社の人。

でも、俺は今日からの契約社員。みんな初めましてだな。


 しかし、集まった人は誰も口を開かず、シーンとしている。

緊張しているのかな?


 俺は夜の仕事の影響で人を見る目に自信がある。

その人の態度、話し方、目線などで何となくその人が見えてくる。

恐らくここに集まった人たち、知り合いとかいないんじゃないか?

みんな初対面なんだなきっと。


 しばらくするとスーツを着た人が教壇に立った。


「初めまして。人事部の加藤です。来週より皆さんには講師としてのお仕事をお願いします」


 加藤さんは受け付けから授業の進め方、実際に教えるパソコンの操作やソフトについて説明してくれる。

話を聞く限り俺でもできる内容でもあり、すでに知っている内容が多い。

これなら問題なさそうだな。


「では、来週からよろしくお願いします。時間割りについては今から配る用紙を確認してください」


 渡された用紙を見ると、いい感じでコマが埋まっている。

各店舗ごとに人を配置して、配置された人で一週間のコマを埋める。


 ……なぜ? なぜか俺の所は二人体勢。

しかも俺の方がコマの割合が多い。なんで?


「では、各教室ごとに集まって、軽く打ち合わせしておいてください。各店舗の店長にも同じスケジュールを伝えています」


 俺はペアを組むことになった成瀬(なるせ)という人を探す。

誰? どこ? 探すのがめんどい。


「成瀬さーん、どこですか!」


 響く俺の声。みんなが俺を見ている。

あ、そんなに注目しなくてもいいですよ。照れちゃいますから。

こんな時も普通にできるのは前のバイトの影響かもしれない。

堂々と最後まで視線の合った彼女の側に行く。


「成瀬さん?」


「はい。えっと、片岡さん?」


「です。よろしく!」


「……よろしくお願いします」


 メガネをかけたいかにも真面目そうな彼女。

見た感じすらっとしており、長い髪を後ろでまとめ、何となく女教師っぽい。

うーん、メガネを取って、可愛い服を着たら結構いい線行くんじゃないですか?


「じゃ、このコマの通りで初めはしてみようか?」


「私は良いですけど、この『ハードの設定』とか『ホームページ作成』とか、難しいのでは?」


「あー、大丈夫。ハード系は経験あるし、ホームページも作った事あるから」


「そうなんですか、すごいですね。私は表計算と文章作成しかできないから……」


「ま、そのうち覚えるよ。ソフト無料でもらえるしさ」


 先生がソフトを使えないのは困る。

会社から一本ソフトを貰えるので、俺は店長から事前にもらい、すでに体験済み。

これが、結構めんどくさい仕様でさっ!


 初日の打ち合わせも終わり、連絡先の交換をして帰る。

万が一急病とかで交代しないといけない時は、お互いに連絡を取り合うことになる。

支社を出て、一度店に顔を出す。


「店長! 来週からよろしくお願いします!」


「お帰り、これからよろしくね。早速なんだけど、これの組み込みよろしく」


「えっと、俺もう帰ろうかと……」


「いやー、片岡君がうちの店にいると助かるわー」


 マジですか?


「がんばります!」


 店長からのキラーパス。だが、俺には朝飯前の作業。

ソフトを覚えるのも楽しいけど、やっぱり組み込みとかハードの設定とかも楽しいよね。

おぉぅぅ! これは最新のグラボ!

電源を入れるとブルーに光るライトがいかしてるぅ!


 給料入ったら買っちゃおうかな!

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