第155話 酒が怖い

 相談室クラブのドアがノックされた。


「どうぞ」


 くたびれたサラリーマンという雰囲気の男子生徒が入って来た。

 たそがれているな。

 何をそんなにたそがれているのか。


「こちらで悩み事を解決してくれると聞いたのですが」

「出来る事と出来ない事があるよ」

「もう、限界なんです。酒が怖い。怖いんです」

「ああ、宴会が嫌いなのか」


「そうではなくて酒に弱いんです。昨日なんかトイレの中で裸になって寝てました」

「それはな。分かるよ。分かる。取引先との接待は断れないものな」

「分かってくれますか。同士よ」


 なんでも寮の先輩の酒が断れないらしい。

 パワハラなんて言葉はここにはない。

 可哀相だな。

 おじさん、本気出しちゃうぞ。


char alcohol[100]; /*アルコール百立方センチ*/

void main(void)

{

 MAGIC *m; /*魔法定義*/

 m=magic_make(alcohol,sizeof(alcohol),IMAGEUNDEFINED); /*アルコールを魔法として登録*/

 magic_delete(mp); /*アルコールを消去*/

}


 アルコールを意味する魔法語『チリソラクラリ』は錬金術の本に載っていた。

 これが分かれば魔法は組める。

 コップ一杯分のアルコールがこれで除去出来る。

 魔道具にしておけば酔って詠唱を間違えるなんて事もないだろう。

 サンプルを渡して感想を聞く。


「駄目ですね。いきなり消えたら飲んでないのが丸わかりです」


 そうか消したのでは駄目なのだな。


char alcohol[100]; /*アルコール百立方センチ*/

void main(void)

{

 char water[100];

 MAGIC *m; /*魔法定義*/

 m=magic_make(alcohol,sizeof(alcohol),IMAGEUNDEFINED); /*アルコールを魔法として登録*/

 magic_delete(mp); /*アルコールを消去*/

 m=water_ball_make(1); /*水の玉生成*/

}


 アルコールを消した後に水の玉を作る完璧だ。


「今度はどうだ」

「テーブルでやると水が動いているのが、もろばれですね。飲むふりをしてグラスをゆすれば問題ないと思います。ありがとうございます」

「お役に立てたのなら、お礼はいいさ」


 後日。


「駄目でした」

「どんな状況だったんだ」

「先輩がグラスを持って酒を流し込んできました」

「悪辣だな。許せん」


 攻撃は最大の防御だ。


char water[100]; /*水百立方センチ*/

void main(void)

{

 int i;

 MAGIC *m; /*魔法定義*/

 m=magic_make(water,sizeof(water),IMAGEUNDEFINED); /*水を魔法として登録*/

 for(i=0;i<sizeof(water);i++){

  water[i]=ALCOHOL; /*水をアルコールに*/

 }

 magic_trans(mp); /*現象に変換*/

}


 水をアルコールにする魔道具を作って手渡した。


「隙を見て先輩のグラスの酒の水分をアルコールに変えてやれ。自滅はするなよ」

「ええ、これでなんとかなりそうです」


 これで駄目ならもう知らん。


 そして。


「魔道具を駆使して先輩を酔い潰す事ができました」

「ほうそれは良かったじゃねぇか」

「それがですね。酔った勢いで先輩が迫ってきたのですよ」

「えっ、個人の趣味に口を挟みたくはないが、災難だったな」

「至福のひと時でした」

「納得しているのならいいさ。でも男性同士だと教会がうるさいよな。それは魔法では解決できないぞ」

「先輩は女性です」

「そうか良かったな。末永くお幸せにな」

「それがですね。それから毎晩のように飲みに誘われて、魔道具に充填する魔力が足りないのです」


「知るかよ。友達に声を掛けて魔力を分けて貰え」

「そうか、その手が。でも、ただじゃ悪いな。割のいいアルバイト知りませんか」

「タルコットという商人に伝手がある雇ってもらえ」


 お前のような奴はこき使われてシナシナになれ。


「何から何までありがとうございます。結婚式には是非きて下さい」


 一人の男子生徒を幸せにしたが、なんとなく興が削がれた。

 相談室には当分のあいだ近寄らないでおこう。

 しばらく建国クラブに顔を出してないが、あっちはどうなっているのだろう。

 顔を出してみるとするか。

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