第146話 首相が決まる

「セラリーナ、ダッセン、ライナルド、エイドリク、キャラナ、ヴィナ、国の事はお前ら六勇士に任せた」


 建国クラブの会合で俺はそう切り出した。


「丸投げでげすか」

「違うんだよ。俺には無理ってって事だ。俺は根っからの魔法使いなんだよ」


「好きにさせてくれるのなら頑張るのだ」

「何をするのか事前にひとこと、ミニアに言ってくれれば問題ない」

「薬草園を作るだけなのだ」

「いいわ、許可する」


「リトワース人の魔法を収集したいわね」

「魔法書にまとめてくれるのなら許可するわ」


「踊り子の公演をでげすな」

「却下よ」

「そんな酷いでげす。反乱でささくれ立った心を癒そうと思ったでげす」

「なら良いわ」


「兵士の訓練に加わりたい」

「ライナルドは脳筋なのね。邪魔にならないようにやりなさい」


「帳簿の整理がしたい」

「エイドリクは随分と変わった趣味ね」

「殺し合いは勘弁だ。帳簿づけして一生過ごしたい」

「良いわやって」


「私はメイドを統括するわ」

「さすがセラリーナ。奥向きの事は頼んだわ」


「これじゃ国が回らない。誰か首相をやってくれ」

「師匠、学生には無理」

「あーあ、無理か。どうしたもんかな。俺も帳簿づけが良いよ。計算なら魔法があるしな」


「そんな魔法、聞いた事がありません。教えてくれるのよね」

「ヴィナ、後でな。うーん、リトワース人の代表に任すか。それは反乱フラグだしな」


「彼らにも変わりたい人間がきっといるはず」

「そうだな、ミニアの言う通りだ。彼らを信じてみよう」


 俺は暗部とつなぎを取った。


「リトワース人でミニアを裏切らなそうな人物に心当たりが無いか。人望がある奴が望ましい」

「それですと、儀典長のアラスタがよろしいかと」

「よし会いに行こう」


 俺はアラスタの家の前に立ち扉を叩いた。


「開いてるよ」

「お邪魔する」


 部屋は質素で家具は机と椅子とベットがあった。

 随分と狭いところに住んでいるな。

 まあ、ミレニアム王国の家は急ごしらえが多いから、豪邸は無理だけどな。

 それでももっと良い家を所望できたはずだ。


 アラスタは中年の優しげな顔をした紳士だった。

 痩せ型で戦いとは無縁な感じで、かなり温厚な性格に見えた。


「奸臣との悪名高いホムンではありませんか」

「俺はな国なんてものは要らない。魔法開発だけしたいんだ」

「それで何のようです」

「首相をやって欲しい」

「それは宰相とどう違うのですか」

「権限は今のところかわらん。ただし議会が罷免出来る」

「そうですか。今のリトワース人の行動については思う所は大いにあります」

「やってくれるか」


「いいでしょう。引き受けます。ただし、あなたの正体を明かして下さい」


 そうきたか。

 どうするべきか。

 ホレイルの事で反省すべき事があるとすれば俺の正体を明かさなかった事だ。

 俺に野望が無いのを説明するに正体をばらす手は絶大だからだ。

 今回はこの男を信じて正体を明かしてみよう。


「信じるかどうかは分からないが、俺の本体はドラゴンだ」

「冗談ではないですよね。なるほど、でもそれだと何となく分かります」

「何が分かるんだ」

「ミニア様が絶大な信頼を寄せているのがです。ドラゴンならミニア様にとって生死を握っている存在です」

「そうだな。空中で放り出せば確実に死ぬな。そんな事はしないが」

「ドラゴンだから、富にも美女にも興味が無い。寿命も長いし一人で生きていける。なるほどあなたという存在が分かりました」

「分かってくれたか」

「でも、疑問が湧いてきます。ミニア様を保護する理由はなんでしょう」

「人間に興味があって、主人とするに見栄えが良かったから。ぶっちゃけ誰でも良かった」

「ドラゴンらしいですね」

「引き受けてくれるか」

「ええ、引き受けましょう」


 ところでこの男どういう男なんだ。

 頭はきれそうだが、いまいち分からない。

 少し聞いてみるか。


「ちなみに聞いていいか。儀典長とは何をする役職なんだ」

「外交使節を接待する部署です」

「じゃあ、宴会を仕切るという訳だな」

「それだけではないですが、概ねはそんな所です」

「今は仕事が無い訳か」

「ええ、リトワースが亡んでからいっさい仕事はしておりません」

「よくそれで人望があるな」

「あまりに暇なので人助けを少々」

「俺もあんたが少し分かったよ」


 後は議会に承認させるだけだ。

 反対しそうなリトワース人の議員は今はいないから、スムーズに事が運ぶだろう。


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