第140話 SIDE:リトワース宰相ホレイル 安住の地、見つかる

 遂に安住の地が見つかった。

 喜べ、リトワースの民よ。


 こうしてはおられん。

 第一次入植隊を編制せねば。


 わしが忙しく準備をしていたある日。

 一人の男が尋ねて来た。


「ルルシャ族の族長ニコントです。こちらを頼れとホムン様から」

「奴に様などつけんでいいわい」

「ですが、恩人ですので」


「知っているか奴の顔を見たものはおらん」

「鎧を脱いだ姿を見せないのですか」

「あれな。あれはゴーレムだぞ」

「ええっ、ゴーレムなのですか」


「ミニア様の師匠だと言うから従っているが、ゴーレムを操って姿を見せんとは用心深い男だ」

「凄腕の魔法使いなのですよね」

「ああ、腕は立つ」


 忌々しい事にな。

 どこかで野垂れ死んではくれないだろうか。

 暗部を気安く使いおってからに。


「私達は何をすればよろしいので」

「魔道具を作る魔道具がある。それを使って魔道具を生産じゃ」

「分かりました」


 魔道具を作る魔道具を考えたのも奴だとミニア様に聞いた。

 魔道具の生産だけに首を突っ込んでおればいいものを。

 少し前など黒襤褸ぼろ衆との諍いを起こしおってからに。


 まあ、良い。

 いつかは隙を見せるだろう。

 その時は暗部を使い……おっと、いかんいかん。

 今はそんな事をしている場合じゃないわい。




 わしは第一次入植隊を率いてトンネルの入り口に着いた。

 どれぐらいの長さなのか見当もつかない。

 おお、その偉業。

 これをミニア様お一人で。


 学園で過ごされているのに何時の間に。

 トンネルの壁が溶けてカチカチになっている所から棒状に炎を放ったのだな。

 きっとこれは一瞬で成されたに違いない。


 入り口の柵を排除して、馬に乗りトンネルを進む。

 一時間ほどで出口に到達した。


「ミニア様によれば植物の魔獣が出現するそうだ。気をつけて進むのだ」


 植物魔獣は弱かった。

 数時間掛けて湖に到着。


 これは美しい所だ。

 ミニア様の居城を建てるのにふさわしい。

 そこには既に石の板が何百枚と置かれていた。


「まずは城壁を作るぞ」

「「「「「おう」」」」」


 物を持ち上げる魔法を駆使して城壁を作る。

 瞬く間に城壁が組みあがった。


 普通なら漆喰を使って固めていくのだが、石の板の継ぎ目はドラゴンのブレスで溶接するそうだ。

 ミニア様とドラゴンに栄光あれ。


 後はトンネルの所に詰め所が必要だ。

 とりあえず柵を元に戻し側にテントを張って野営させよう。


「ホレイル様、ホムンという男を何時までのさばらして置くおつもりですか」

「うむ、隙がないのだ。暗部よ、ホムンについての報告を」

「ゴーレムを監視した所、接触した形跡はありません。ゴーレムの改造メンテナンスはミニア様が行っております。暗部ではミニア様が本体なのではという考えが芽生えております」


「ご苦労。聞いた通りだ」

「本体の姿を現さない。姿隠しの魔法に匹敵する技ですね」

「ミニア様にそれとなくホムンの事を聞いているのだが、めぼしい情報は集まらん」

「ゴーレムを壊しても本体は無傷。厄介ですね」


「まことに」


 ひょっとすると暗部の言うとおりミニア様が本体なのかのう。

 いや、ミニア様がいくら超人でも自分の肉体と同時にゴーレムを操るなどできようか。

 ミニア様がゴーレムを操る利点がない。

 わしが想像するにホムンは年老いて動けない老人のはずだ。

 冒険者ギルドの人間の百歳を超えるという証言は嘘ではないと思うのじゃ。


「軽挙は慎むようにな。事を起こしてミニア様にへそを曲げられたら、目も当てられん」

「はい、みなにも伝えます」


「それよりここはどうじゃ」

「はっ、天然の要塞かと。内通者が出なければ何年でも戦えると思います」

「問題は山を越えてきた場合かのう」

「大軍に山を越えさせるのは至難の技かと。小隊ぐらいなら、各個撃破で充分だと思います」

「後は見張りじゃな。良い事を思いついた。ホムンに見張りをさせる魔道具を開発させようぞ」

「それは危険では」

「そこじゃ。見張りの魔道具を設置して、それとは別の暗部による見張りも立てる。そうすれば奴が裏切った時にこちらが優位に立てる」

「なるほど」


 なに、心配はいらんじゃろ。

 ミニア様とドラゴンがいれば万を超える敵が押し寄せても問題ないはずじゃ。

 次の目標はこの盆地だけで暮らしていける基盤を作ることじゃ。

 幸い土地は肥えているようだし、すぐに開墾できるじゃろう。

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