第100話 書き割り魔道具

 来る女性、来る女性、全て女性が痩身魔法を求めて店にやってきた。

 効果の程はどうなのかと思うのだが、腹が減っているイコール痩せていっている証拠だそうだ。

 そんな安直な結果で良いのかとも思うのだが、本人が良いと言っているだから仕方ないだろう。


「痩身魔法下さい」

「はいよ、銀貨三枚ね」


 今日も大繁盛だ。

 他人に魔法を無料で教えたり、呪文を書いた紙を複写する奴が大量に出て来そうなものだが。

 どうやらこの世界にとって魔法は祝詞だと信じられているらしく、複写するのは後ろめたいらしい。

 元の世界だと神社のお札をコピーするような感覚か。

 それも令和ではなくてもっと古い価値観が蔓延してた時代の感覚が近いだろう。

 呪文屋も鑑札があってもぐりの呪文屋は殆んどいないとタルコットに聞いた。


 呪文を無料で教えるのは親しい間柄だけで、教えるのは親愛の証だとか。

 グバートとダッセンに教えちまったな。

 まあ、両方とも同性愛の気はないから心配ない。

 リタリーにはミニアが教えた事になっているから問題ないだろう。

 キャラナはなんとなく問題ない気がする。

 勘違いされたりしないように魔法をやたらめったら教えたりするのはやめとこう。


「こんちは」

「はい、こんにちは」


 おお、久しぶりの男の客だ。

 派手な衣装に身を包んで何となく芸人を思わせる。

 最近の客はスライムの応対に驚かない。

 どうやらそれが店の売りになっているらしい。

 ライラスの思惑が大当たりしたようだ。


「無茶にも答えてくれるって」

「そんな事、言った覚えはない」

「でも、女生徒がそう噂してたよ」

「まあ、いい。希望をどうぞ」

「宴会で目立ちたい。とにかく目立ちたい。そうでないと講師の試験に手心を加えてもらえない」

「ああ、宴会の幹事を任されたのか」

「そうなんだ。教授が多数出席するから、点数を稼がないと」

「よし、目立つ一発芸を教えてやろう。明日までに仕入れといてやる」


 さて、一発芸なんて知らん。

 魔法で解決してやる。


void main(int argc,char *argv[])

{

 char statue[3000]; /*像の領域*/

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 int i; /*カウンター*/


 for(i=0;i<3000;i++){

  statue[i]='\0'; /*像のデータ初期化*/

 }


 mp=magic_make(statue,sizeof(statue),IMAGEBLOCK); /*像を魔法として登録*/


 i=0; /*カウンターをゼロに*/

 while(*(argv[1]+i)!='\0' && i!=3000){ /*外部からのデータが終わるか 像の領域が尽きるまで*/

  statue[i]=*(argv[1]+i)|HOLOGRAPHY; /*外部の情報を像のデータに入れる。幻影属性を付ける*/

  i++; /*カウンターを一つ増やす*/

 }


 magic_trans(mp); /*現象化する*/

}


 名付けて幻影魔法だ。

 これは魔道具の方が良いだろう。

 三百文字の呪文は唱えるのに少し時間が掛かる。

 緊張のあまり呪文を間違えても事だしな。


 次の日。


「仕入れられましたか。一発芸」

「ああ、魔道具になったが問題はないだろう」

「さっそく試してみても」


 魔道具を手に取り試しに、14センチの鳩の幻影を出す男。


「うーん、動かないといまいちですね。大きさもしょぼい。複数だせないと」

「注文が多いな」

「できますか」


「出来るか出来ないかで言ったら出来る。だが、魔石が大きくなってしまう」

「高くなるのはちょっと」


 以下の二行を追加して魔道具を作った

magic_spread(mp,20.0); /*二十倍に薄く伸ばす*/

time_wait(60*100);


 動かないなら壁で良いんじゃないかと考えた。

 まるで、書き割り魔法だ。

 これで勘弁してもらった。


 三日後。


「あの、魔道具を沢山売って下さい」

「宴会が大成功だったのか」

「いえ、芸は大失敗です」

「じゃあなんで魔道具が必要なんだ」

「教授が生徒に教えるのに使いたいと」


 えっと、どういう事だ。


「教えるって?」

「イメージを絵で伝えたいって時に使うんです」


 ああ、なるほど。

 プロジェクターの代わりね。

 じゃあ、レーザーポインターなんてのも流行るかもな。

 さっそく作ってみた。


int main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法の定義*/

 while(1){

  mp=obj_make(1,IMAGECOLUMN,HOLOGRAPHY); /*円柱のホログラフィを作る*/

  while(touch(mp)==0){ /*触るまでループする/

   time_wait(1);

  }

 }

}


 ちっと不便だけどホログラフィに触ると再設定するように作った。

 本当は自由に動かしたい。

 出来るか出来ないかで言ったらできるけど、とりあえずはこれで良いだろう。

 魔力コストも少ないので魔道具にぴったりだ。


 それからタルコットの所には学園から、書き割り魔道具の注文が沢山はいった。

 意外なものからヒット作が生まれるんだな。

 一発芸から大人気魔道具か。

 こういう仕事も視野を広げるにはいいのかもな。

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