第62話 ミニア、意志を継ぐ

「よくも私の部下達を殺してくれたな」


 駆けつけた騎士は女性だった。


「敵。容赦なし」

「小さきテイマーよ。名乗らせてもらう。ブライシー騎士団団長、ユフィレーヌ・リトワースだ」

「聞きたい。村。なんで。襲った」

「村など幾つ滅ぼしたか覚えていない。必要な事だったのだ。謝るつもりはない」

「あなたに。どんな得が」

「ブライシー騎士団はな。幹部や隊長がリトワース王国の残党が主になって構成されていた。この戦争でもうリトワースの生き残りは殆んど居ないがな」

「それで」

「お前の居る国を滅ぼして、そこにリトワースを再興する予定だったのだ。名乗れ」

「ミニア」

「ミニア、お前にドラゴン抜きの一騎打ちを申し込む」

「なぜ」

「今回の戦争は駄目だったが、ドラゴンテイマーを討てば、まだ再興の目が残るからだ。死んでいった者達の無念を無駄には出来ん」


 俺はミニアに好きにしろと伝言魔法で伝えた。

 なぜなら敵討ちだからだ。

 ここで俺が問答無用でユフィレーヌを殺したら、ミニアは復讐心から解放されないだろう。

 復讐を終えたミニアが今後どう生きるかわからないが、きっと平気だと思う。

 人生の目標を失って生きる屍にはならないと信じている。


「受ける」

「もしお前が勝てば私が持っているリトワースの象徴である国宝の剣を好きにしろ。母国を滅ぼした国に持って行くなり売り払ったりしても文句は言わん」

「合図は」

「ドラゴンお前がやれ。ドラゴンを使わせないから丁度良いハンデだ」


 おれは頷いた。

 両者が離れて対峙する。

 俺は開始の雄叫びを上げた。


 ミニアは開始と同時にファイヤーボールの魔道具を発動。

 ユフィレーヌはファイヤーボールを切り裂いた。

 迫るユフィレーヌ。

 ストーンウォールの魔道具を使うミニア。

 石の板はユフィレーヌに簡単に切り裂かれた。

 そりゃそうだよ魔力30のストーンウォールは50センチの大きさしか出せない。

 面積をカバーするために薄く広げている。

 国宝の剣なんだから不思議パワーで切れ味が良いから余計に紙みたいに切り裂かれるのだろう。


 戦いはというとストーンウォールが斜めにずれていくのに合わせて目潰しの粉をミニアが投げた。

 ユフィレーヌが魔道具を作動させたみたいだ。

 突風が吹いて目潰しの粉が風に流される。


 ファイヤーボールを切り裂いた時からユフィレーヌは詠唱を始めていて、それが今完成した。


「ソクチス・キスチヒニカンガヌワワワワムレ・

ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

ニミカ・ニネマレ・

モチキニソ・けモセレ・

モセほモチキニソろモチノイゆキスチヒニカンネトニツイラハゆキスチヒニカンよネニモチキイイミイスキンよレ・

ハラスゆニほワレニねヌワワワよが・

ハラスゆマほヌレマねヌワレマれれよが・

キスチヒニカンガニムほキスチヒニカンガニムれキスチヒニカンガニれマけヌワワワムレ・

キスチヒニカンガニれマけヌワワワムほワレ・む・む・

モチキニソろカスチミトゆモセよレ・

カニモイろテチニカゆオワワワワよレ・む」




 魔法が発動してミニアが片膝をつく。

 どうなったんだ。

 他人の魔力には干渉できないから腸内細菌を毒にでも変えたのか。

 急いでさっきの魔法を解析する。


char gravity[10000]; /*重力*/

void main(void)

{

 int i,j; /*カウンター*/

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=magic_make(gravity,sizeof(gravity),IMAGEENERGY); /*重力を魔法として登録*/

 for(i=0;i<1000){

  for(j=1;j<10;j++){

   gravity[i]=gravity[i]+gravity[i+j*1000]; /*重力十倍*/

   gravity[i+j*1000]=0;

  }

 }

 magic_trans(mp); /*現象に変換*/

 time_wait(60000); /*十分待つ*/

}


 良かった毒ではないようだ。

 重力を強くする魔法だ。

 ユフィレーヌは勝ちを確信してゆっくりとミニアに近づく。

 時折、俺の方に目をやるのは俺が手を出さないか用心しているのだろう。

 ミニアは悪あがきのファイヤーボールを魔道具で撃つ。

 ユフィレーヌは魔法を切り裂きながら近寄る。

 そして遂にミニアの魔道具が尽きた。


 ユフィレーヌが剣を振りかぶり。

 そして振り下ろした。

 俺は勿論慌てないさ。

 伝言の魔道具でミニアから作戦を聞いている。


 ユフィレーヌの剣は重力10倍の重さに後押しされてもの凄い勢いで地面を叩いた。

 ミニアは剣の下には当然居ない。

 ミニアはというとユフィレーヌの後ろから突然現れて鎧の隙間から刺した。

 ミニアが使ったのは転移の魔法。

 これまでの戦闘で魔力を殆んど使わなかったのか。

 二十連発をいきなり撃っていた頃とは違うって事なのだろうな。


「ごぼっ。持っていけ。お前の勝ちだ」


 片膝をつき血を吐きながらユフィレーヌが剣を差し出して言った。


「この剣で。国を。作る。今日の。私は。ミニア・リトワース」

「そうかお前がリトワースを再興するのだな。好きにしろ。ごぼっ」


 ユフィレーヌが事切れた。


「本当に国を作るのか」


 俺は文字を出した。


「うん。明日。改名。明日から。ミレニアーヌ・ミレニアム」


 千年王国の話をそう言えば前にしたっけな。

 空想の国から名前をとったのか。

 まあ良いだろう。


 一日だけでもリトワースを名乗ったのは死んで行くユフィレーヌに対するせめてもの手向けか。

 国を興そうと考えたのはたぶんミニアが子供ながら、こんな事が二度と起こらない様にと考えたのかも知れない。

 リトワースの残党はミニアが国の象徴をもっていれば集結しそうな気もする。

 簒奪だと騒がれた時には一日だけリトワースを名乗る許しをユフィレーヌから得たとでも言うのだろう。

 名前を変えたのは村を滅ぼしたリトワースの名前が血塗られているからか。

 考えかすぎか。

 案外、復讐心が形を変えて、いたずら心を起こしただけなのかも。

 まあいいや。

 ドラゴンには関係ない。

 めんどくさい事態になったら、ミニアを背中に乗せてとんずらするさ。

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