第42話 傷治癒魔法

「降りて下さい。お願いします」


 タルコットは村を見つけると大きな声で懇願した。


「利点」

「傷治癒の魔法をお教えします」


 俺は粘れとミニアに伝言魔法を飛ばした。


「もう。一声」

「病気治療の魔法もつけます。但し客を集めるのを手伝って下さい」


 ただでは転ばないな。

 客集めか。

 ミニアに何を要求するんだろう。

 なんとなく興味をひかれた。

 承諾の言葉をミニアに送る。


「成立」


 俺は村の前に着陸した。

 村人は思い思いの武器を手にして鞍から降りようとしている三人をポカンと見上げていた。


「商人のタルコットです。布、魔道具を取り揃えています。皆さんお誘いの上お越し下さい」


 タルコットはミニアに指示を小声で出した。

 敷物と商品をアイテムボックスから出して下さいって、それは別に構わない。

 その後に続いた言葉が問題だった。

 ドラゴンに踊りを踊らせてもらえませんか。

 何だって。

 客寄せは俺がやるのかよ。

 しょうがないドラゴンの短い後ろ足で踊れそうなので思いついたのが阿波踊りだった。

 記憶をほじくり返し一生懸命踊る。


「見て、見て、ドラゴンがパニックになっているよ。おかしいんだぁ」


 塀の内側に隠れていた子供が興味持って村の外へ出てきた。

 一応成功なのかな。


「なんとなく見栄えが悪いですな。ミニア様、別の踊りを」


 駄目なのか。

 じゃあ、今度はフラダンスだ。

 ドラゴンの前足はフラダンスを踊る様には出来ていない。

 もの凄く変だと思う。


「見て、ドラゴンが手招きしている」


 フラダンスが手招きに見えるのか。

 なら招き猫のポーズで良いんじゃないのか。

 俺は昔流行った動く招き猫よろしく招きドラゴンを演じた。

 これが馬鹿受け。

 タルコットの商品は次々に売れていく。

 客足が止まったので俺は早く魔法を寄越せとミニアに伝言魔法を送った。


「報酬」

「ミニア様のおかげで沢山売れました。これが報酬の魔法です」


 俺はミニアの頭越しに覗き込んだ。

 よし解析だ。

 傷治療魔法のイメージは。


void main(void)

{

 TEL *tpi,*tpo; /*体の定義*/

 tpi=topen("魔法名.body"); /*体を開く*/

 tpo=topen("temp"); /*仮体を開く*/

 healing(tpi,tpo); /*傷治癒*/

 tclose(tpi); /*閉じる*/

 tclose(tpo); /*閉じる*/

 system("copy /-Y temp 魔法名.body"); /*体書き換え*/

 tpi=topen("魔法名.body"); /*体を開き直し*/

 body_remake(tpi); /*体を元に体を再構成*/

 tclose(tpi); /*閉じる*/


}


 この呪文魔法名が分からないと使えない。

 非常に使いづらい。

 なんとかするのも今後の課題だ。

 病気治療の方は後でゆっくりとみる事にした。


 ミニアは村の子供達と仲良くなり遊び始めた。

 たしか村に住んでいたのだったな。

 村が懐かしいのかも知れない。


 しばらく魔法の事を考えて目を離していたら、ミニアは指を咥えていた。

 なんだ赤ちゃん返りか。


「むっ。指切った」


 そうか指切ったのか。

 どれ見せてみなさい。


 少しだけだな。

 ポーションはもったいないからさっき覚えたばかりの魔法を使うか。

 魔法を使うと傷がかさぶたになった。

 こんな感じか。

 これだと重症は治らないな。


「わーん、私も切った」


 ミニアと遊んでいた女の子が泣き喚いた。

 見ると少し深い傷を手の平に負っている。

 なんの遊びをしているんだ。

 木の棒とナイフがあり、木屑が散らばっていた。

 木剣でも作ろうとしていたのかな。

 それよりも治療だ。


 普通の魔法だと不味いかも。

 旅に出る前にタルコットに貰った実行できない魔法にこんな魔法があったのを思い出した。

 イメージはこうだ。


void healing(TEL *tpi,TEL *tpo)

{

 int i; /*カウンター*/

 char s[256]; /*読み込みの領域*/

 while(tgets(s,256,tpi)!= NULL ){ /*たぶん体読み込みが尽きるまで繰り返す*/

  i=0;

  while(s[i]!='\0'){ /*データが終わるまで繰り返す*/

   if(s[i]==SCAR ){ /*傷なら*/

    s[i]=SCAB; /*肉体をかさぶたに*/

   }

   i++;

  }

  tputs(s,tpo); /*体を出力*/

 }

}


 傷治療魔法の中身だな。

 これだと傷をかさぶたに置き換えているだけだ。

 駄目だな。

 女の子には悪いが少し待ってもらう。

 手早く呪文を改良した。


void healing2(TEL *tpi,TEL *tpo)

{

 int i; /*カウンター*/

 char s[256]; /*読み込みの領域*/

 char healthy; /*正常なデータ*/

 healthy=SCAB;

 while(tgets(s,256,tpi)!= NULL ){ /*体読み込みが尽きるまで繰り返す*/

  i=0;

  while(s[i]!='\0'){ /*データが終わるまで繰り返す*/

   if(s[i]!=SCAR && s[i]!=SCAB){ /*傷でなければ*/

    healthy=s[i]; /*正常として登録*/

   }

   else{ /*傷ならば*/

    s[i]=healthy; /*肉体を正常な物にする*/

   }

   i++;

  }

  tputs(s,tpo); /*体を出力*/

 }

}


 前の魔法と違うのはどんな深い傷も治るはずなんだが。

 何か落とし穴がありそうだ。

 そうでなければあんな中途半端になっていないはずだ。

 とにかく女の子魔法名をつきとめて魔法を行使した。


 あちゃー、失敗だな。

 なぜなら、傷は塞がったが、肉が盛り上がっただけだ。

 皮膚は出来ていない。

 おまけに血がにじみ出ている。

 そりゃそうだよな訳の分からないイメージをコピーしただけだ。

 もう一度今度はかさぶたを作る魔法を実行した。

 盛り上がった肉は瘡蓋に覆われとりあえず応急処置は終わった。


 女の子は泣き止み再び木剣作りを再開するようだ。

 田舎の子はこういう無茶をやらかしてナイフの使い方を覚えるのだろう。

 ミニア、仲良くなったのは良いがそろそろ行くぞ。

 タルコットさんは撤収の準備も済んで少し焦れているから。

 ミニアが帰りにも寄る約束をして俺達は次の村に向かった。

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