第6章 湿原のドラゴン

第33話 産卵

 教習も終わったので、あの雌ドラゴンに伝言魔法を飛ばす。

 彼女はそろそろ産卵だから、森で卵を産んだ時には知らせると返事を返して来た。


 ミニアにCランク試験を受けさせる。

 Cランク試験はあっさり片付いた。

 試験はいつも討伐している魔獣だから朝飯前だ。

 筋力強化は使ってやったから、俺が手を出すまでもない。


 ミニアが依頼を受けて森に行く事になった時に俺に伝言魔法が届いた。


「今日、森で大事な事があるんだ」

「ついで。つきあう」


 俺は彼女を探して森を飛んだ。

 程なくして彼女は見つかり、その側に俺達は舞い降りた。

 既に一メートルぐらい卵が産んであった。

 産卵シーンが見たかったなどという願望はない。

 無事産まれて良かったという事だけだ。


「おう、もう産まれたのか。おめでとう」


 俺はドラゴンの言葉で言った。


「ありがとう。別に難産ではなかったわ」


「さっきから。ギャオギャオ。うるさい」


 ミニアから文句を言われた。


「小さいのは何怒っているの」

「驚いた。人間の言葉が分かるのか」

「ええ、祝福を受ければ分かるわ。さっさと祝福をやってしまいましょう」

「おう」


 卵に彼女が手を触れさせたので俺も真似して手を触れさせる。

 こうしなきゃという思いに駆られ何かを行使した。

 この感覚は隷属魔法の時と一緒だ。

 魂にアクセスしているな。

 俺の記憶を読み取ってこの卵に移しているのだろう。

 一瞬、魔法でもなんとか同じ事ができないかと考えた。

 その時稲妻が頭を駆け巡った。

 違う、既に祝福は魔法なんだ。

 これが竜言語魔法だ。

 そうに違いない。

 なら、ブレスも魔法か。

 ありえるな。

 飛ぶのにも魔法を使っているな。

 足音をさせないで歩けるところから重力軽減もか。

 後は何だ。

 筋力強化と皮膚を硬くするこんなところだろう。

 本能的に魔法を使うなんて。

 何て脳筋なんだ。

 ドラゴンにふさわしいと言えばふさわしいけど。


「どうしたの」


 考え込んでいる俺を不思議そうに彼女は見つめた。


「その卵! 何! ウィザ! 説明!」


 ミニアが痺れを切らし怒鳴る。


「俺の子だ」


 俺は文字を出した。


「ウィザ。嫌い。不潔」

「頼むから、そんな事、言うなよ」


 それから幾ら文字を出そうが伝言魔法を送ろうがミニアは答えない。


「なんか、とり込んでいるようだから、もう行くわ。縁があったら十年後に会いましょう」


 彼女がドラゴンの言葉で言った。


「待った。色々聞きたい事があるんだ」

「何」

「なぜ人間の言葉が分かる必要が」

「天敵だからよ。成竜を倒すのがもっとも多いのは人間よ」

「もしかして、魔法言語も分かるのか」

「分かるわよ。朧気にだけど」


 おお、俺と一緒だ。

 転生特典ではなかったのだな。

 ドラゴンはみんな持っているのか。

 朧気にしか分からない理由は人間が昔ほど魔法言語を使わないからだろう。

 昔は会話する頻度で使っていたのだろうなと思った。

 受け継がれていくうちに朧気になったと考えられる。

 おそらく間違っていないはずだ。


「あなた、ウィザって呼ばれているのね」

「正式にはウィザードだ」

「いい機会だから名前をちょうだい。欲しくなったわ」


 名前かぁ。

 名前、名前と。

 俺の子を産んだのだから夫婦みたいなものだ。

 ウィザードと対にするなら。


「君の名はウィッチだ」

「なんか気に入ったわ」

「もう。もう。もう。その女。何」


 ミニアが切れた。


「何って夫婦だけど」


 俺は文字を出した。


「やだ。ドラゴンは結婚しないわよ」


「「ガーン」」


 ミニアの声と俺のドラゴンの声が同じ内容で重なった。


「ミニア振られた」

「どういう事」


 涙目のミニアが希望の光を見たかの様に希望に満ち溢れ言った。


「ドラゴンは結婚しないんだってさ」

「夫婦じゃない。ふ。ふ。ふ。ふ。ふ……」


 ミニアが壊れた。


「許す」


 しばらく不気味な笑い声を上げていたミニアが言った。


「許してくれるのか」

「私。正妻。譲らない」

「ドラゴンと人間は結婚できないよ。でも一生側にいると誓う」

「それでいい」


「じゃあ行くわよ。次の産卵期にあなたが生き残っていたら、つがいましょう。本来は相手を毎回変えるのだけど特別よ」


 ラブコールとも取れる物を残してウィッチは去って行った。


「騎士の誓い。やって」


 ミニアがそんな事を言い出した。


「どうやるんだ」


 どうやらミニアが剣で跪いた俺の両肩を叩いて俺が誓いの言葉を述べればいいらしい。

 いや無理だろう。

 跪いた状態でも肩の位置は5メートルは越える。

 当然ミニアの手は届かない。

 こういう時は魔法だな。

 イメージはこんなだ。


char armor[20000]; /*鎧*/

void main(int argc,char *argv[])

{

 int i; /*カウンター*/

 char orbit[2000]; /*軌道データ*/

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=magic_make(armor,sizeof(armor),IMAGEARMOR); /*鎧を魔法として登録*/


 /*方向データ初期化*/

 for(i=0;i<sizeof(orbit);i++){

  orbit[i]='\0';

 }


 /*外部からの入力を方向データに入力*/

 i=0;


 while(*(argv[1]+i)!='\0' && i!=sizeof(orbit))

  orbit[i]=*(argv[1]+i);

  i++;

 }

 /*飛ばす*/

 magic_move(mp,orbit,sizeof(orbit));

}


 ミニアの鎧を魔法として登録。

 自由に移動させる。

 なんちゃって飛行魔法だ。

 自由に移動させる部分は前に考えたのを流用した。


 この呪文を完成するには『armor』対応する魔法文字を突き止めなきゃいけない。

 だが鍛冶魔法には鎧を作る魔法がある。

 そこから魔法文字を割り出した。

 『IMAGE』を意味する魔法文字はファイヤーボールを作る呪文から取ってきた。

 これであってるはず。


 魔法を発動するもミニアはぴくりとも動かない。

 失敗か。

 なぜだろう。

 納得がいかない。

 魔法は合っているはずだ。


 もしかして、俺がやったから駄目なのか。

 魔法を操る時、他人の魔法は操れない。

 当たり前だが、納得出来る。

 ミニアはミニア自身しか飛ばせないのかも。


 ミニアに呪文を教え実行すると俺の肩の高さの位置にミニアが飛ばされる。

 ガクンと停まり。

 ミニアは慌てて俺の肩を剣で叩いた。

 そしてもう一つの肩を叩き、着地。

 ミニアはフラフラだ。

 そりゃ魔法の飛ぶ速さで振り回されればな。

 締まらないなと思いながら、誓いの言葉を伝言魔法で述べる。

 あなたの手足となり一生あなたの騎士になる事を誓いますと伝えた。


「ふ。ふ。ふ・ん・とうに。期待します」


 フラフラになったミニアが返答した。

 俺はミニアの騎士になった。


 それよりも新しい法則が分かったのが嬉しい。

 自分の物にしか影響を及ぼせないのだな。

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