第8話 ガルト村に到着

「怪物だ逃げろ」


 あの街道から見えた柵のあった村に来てる。

 いきなり街に行くとパニックを起こされそうで不安だったから前哨戦だ。


「怪物違う。ウィザード」


 背中に乗ったミニアが声を張り上げるが村人は耳を貸さない。

 村のすぐそばに居座る事、一時間、代表が出てきた。


「ドラゴンよ、去れ」

「ミニア言ってやれ。やさしいドラゴンだと」


 ミニアの目の前に文字を浮かべる。

 俺はミニアに俺が文字を浮かべられるのは秘密にしろと言っておいた。

 ばれた場合、ミニアが魔法でやっている事にすると二人で決めた。

 一応の用心のためだ。


「良いドラゴン。人は食わない」


 いかんいかん、人間を見ていたら涎が垂れた。


「嘘だ。お前はドラゴンの手先で油断したところをぱっくりと……あわわ」


 俺が睨んだので代表は縮こまった。


「どんなもんかな。ミニア、動物を従えたりする職業はないのか」


 俺は代表が見えない位置に文字をだした。


「ある、テイマー」

「じゃあ、それだ」

「分かった」


 俺とミニアのひそひそ話が終わり再び交渉を開始した。


「私、テイマー」

「嘘を言うな、こんな若いテイマーがいるはずない」

「どうすれば。信じる」

「魔法名だ。そのドラゴンの魔法名を言え」


 何っ、魔法名だと。

 普通の名前と違うのか。


「魔法名って何だ」

「伝言魔法。あて先」


 伝言魔法、伝言魔法ねぇ。

 あれか念話の魔法か。


 確か『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

カイリ・けカセレ・

カセほカラセイミゆふキナニリシモチトカイスふよレ・

カセスニミカハゆカセネふ「ザンダリルだ。終わった。今から帰還する」ふよレ・

カソリラトイゆカセよレ・む』だったっけ。

 文章が入る場所は『ふ』で囲まれている。

 この魔法にはもう一つ『ふ』に囲まれている場所がある『キナニリシモチトカイス』だ。

 これが魔法名だな。

 この伝言魔法は金ぴかの上司あたりに繋がるのだろう。

 良い事を思いついた。


「『キナニリシモチトカイス』という偉い奴の魔法名なら知っていると言ってやれ」

「『キナニリシモチトカイス』。偉い人の名前」


 俺の言葉を読んでミニアが自信満々な態度で言った。

 代表が目に見えてうろたえる。


「なんでギルドマスターの魔法名を知っているんだ。俺は村長だから知っているが、ギルドの加盟者は高ランクじゃないと知らないはずだ」


 ギルドマスターって事はギルドがあるのか。

 高ランクって事は冒険者ギルドなのか。

 夢がある世界だな。

 人間に転生していたら冒険者になっていたかも知れない。


「知ってるから」

「これはこれは高ランクのお方。なるほど高ランクの従魔にふさわしい威容ですな」


 代表が揉み手して笑みを浮かべる。

 手の平を返したような対応だな。

 これから先の展開を打開するにはこのチャンスに飛びつく。


「ギルドマスター宛にドラゴンが会いに行くと伝言魔法で伝えるんだなと言ってやれ」

「ギルドマスターに。伝言。ドラゴン。会いに行く」

「高ランク様は伝言魔法を使えないので?」

「使えない」

「分かりました。ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

カイリ・けカセレ・

カセほカラセイミゆふキナニリシモチトカイスふよレ・

カセスニミカハゆカセネふ「ガルト村の村長です。今から高ランク様とドラゴンが会いに行くそうです」ふよレ・

カソリラトイゆカセよレ・む」


 これでなんとかなりそうだ。

 よし、先触れもなんとかなったし、お楽しみの解析タイムだ。

 伝言魔法を解析する。

 イメージはこんなところだな。


void main(void)

{

 TEL *tp; /*伝言魔法の定義*/

 tp=topen("キナニリシモチトカイス"); /*回線を開く*/

 tprintf(tp,"ザンダリルだ。終わった。今から帰還する"); /*メッセージを送る*/

 tclose(tp); /*回線閉じる*/

}


 大体あっているはずだ。

 実際、使うには魔法名と文章の所を書き換えれば良いが一工夫する。

 好きな文章を指定するのは前にやった。

 今回はこれに魔法名を付け加える。

 イメージはこうだ。


void main(int argc,char *argv[])

{

 TEL *tp; /*伝言魔法の定義*/

 tp=topen(argv[1]); /*外部入力で回線を開く相手を指定*/

 tprintf(tp,argv[2]); /*外部入力をメッセージとして送る*/

 tclose(tp); /*回線閉じる*/

}


 魔法を実行する時に相手の魔法名の後に伝言をイメージすれば伝言が届くようにした。

 詠唱は『ヒラニシ・モチニミゆニミカ・チスキソネソクチス・けチスキヒガムよ・が・

カイリ・けカセレ・

カセほカラセイミゆチスキヒガヌムよレ・

カセスニミカハゆカセネチスキヒガフムよレ・

カソリラトイゆカセよレ・む』だ。

 『手紙』をイメージしたら出てきた実行名『モチニリ』でコンパイルしておいた。

 また一つ魔法が増えたな、やりー。


 ところで魔法名ってどうやったら分かるんだ。

 ミニアは知らなそうだな。

 知っていれば俺の魔法名を知るために何かやったはずだ。

 後で誰か詳しい人に聞こう。


「なあ、ミニアは魔法を使いたくないか」

「魔法。危険」

「どこらへんが危ないんだ」

「詠唱。失敗する。自滅」


 ああ、プログラムでいうところのタイプミスだな。

 プログラムは1のところを2と打ったりするだけでも意味が違ってくる。

 意味が通らないのならエラーで弾かれるが、たまに通っちゃったりするんだよな。

 そうすると酷い時には暴走する。

 これと似た様な事が起きるのだろう。


「失敗が少ないやり方があるんだが」

「勧め。従う」

「そうか、そうか、後でたっぷり教えてやる。じゃあ空の旅と行こうか」


 代表に地図を見せてもらいギルドマスターが居る街へ向かって飛ぶ。

 しばらく飛ぶと城壁に囲まれた街が見えてきた。

 おお、見えてきたぞ。

 あれが辺境都市ヤオマクか。

 おーおー、門の外に大勢が詰め掛けてるな。

 ひょっとして俺を見るために来たのか。

 俺はサービス精神を発揮して低空飛行で群集の上をくるりと輪を描いて飛んだ。

 どよめきが起こる。

 人を踏みつけないように適当な場所に下りた。


「わしがギルドマスターのチュアランじゃ。お主達は何者だ。返答によっては討伐する」

「見習いテイマー、ミニア。ドラゴン、ウィザード」


 ミニアが胸を張って答えた。

 さあ、交渉の始まりだ。

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