「キマイラ」
「ねぇ、そろそろこの部隊の名前を考えない?」
ミスト王国から来る軍人達への対策を話し合った後、クリスナーガはサイ達に向かってそう提案した。
「部隊の名前? 一体どうしてですか?」
「前に上の報告をした時、この部隊の名前を聞かれた事があったの。いつまでも『合同部隊』じゃ味気ないし、部隊の名前があった方が報告をする時にいくらか便利だからね。せっかくだからここで決めようかなと思って」
クリスナーガの言葉に、サイを初めとするこの部屋にいる全員は異論がないのか頷いた。
「しかし名前か……。どんな名前がいいかな?」
サイの呟きに部屋にいる全員が難しい顔となって考える。部隊に名前をつけるのは賛成だが、急に良い名前が浮かぶわけでもなかった。
「やっぱり分かりやすくて、カッコいい名前がいいよな?」
「そうだな。下手な名前をつけたらこの部隊を結成した四ヵ国全ての恥になるし、隊員達の士気にも関わるからな」
ビークポッドの言葉にジェラードが頷き、それを聞いていたマリーが口を開く。
「あと、この部隊の特徴を現した名前がいいわね。適当に語呂を合わせただけの部隊名じゃなくて、すぐに私達だと分かる部隊名がいいわ」
マリーの言葉に再び部屋にいる全員が難しい顔となって考え込む。
分かりやすくて、部隊の特徴を現していて、それでできればカッコいい部隊名。
そんな都合のいいものがあるのかとサイ達が思ったその時。
「……キマイラ」
今まで全く無言であったカーラが初めて言葉を発した。それを聞いてサイ達が彼女を見ると、ブリジッタの従者であるホムンクルスの女性は、相変わらずの無表情で自分の意見を口にする。
「キマイラ。部隊の、コードネーム、キマイラ、が、いいと、思います」
「キマイラですか。なるほど、良いかもしれませんね」
「確かに分かりやすい名前ですね」
「それに言われてみれば、この合同部隊の特徴を現しています」
「あと、それなり強そうで隊員達の士気が上がりそうな名前ですね」
カーラが口にした「キマイラ」という言葉はピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼの四人にとても好評のようだった。しかし彼女達以外の人間はどうしてキマイラという言葉がそこまでホムンクルスの女性達に好評なのか理解できずにいた。
「なぁ、ピオン? キマイラって、一体どういう意味なんだ?」
「え? ……ああ、マスター達は知らないのでしたね。キマイラというのは前文明時代に研究されていた、複数の生物の特徴を合わせて作り出される人工生物のことです。外見はその個体によって異なりますが、頭部を複数持っていたり、身体の一箇所から別の生物の身体が生えているというのが大体の共通点ですね。それでマスター? ここまで聞いて何か思い当たるところはありませんか?」
「何? 何か思い当たるって……ゴーレムトルーパーか!?」
ピオンの言葉に聞き返そうとしたサイは、言葉の途中で彼女が言いたい事に気づいた。
ゴーレムトルーパーは格機体によって外見は大きく異なるが、巨大な獣の背中に戦士の上半身が生えているという共通点があり、それはピオンの言うキマイラの特徴と同じだった。
「ゴーレムトルーパーを四体も使う部隊なんてここぐらいですし、それに四ヵ国の兵士が共同で合同しているという点も、複数の生物から作り出されるキマイラのイメージにピッタリだと思いますよ」
「なるほどな。言われてみれば確かに……」
そしてサイとピオンの会話を聞いていた皆も納得したように頷き、これによりサイ達合同部隊の部隊名は「キマイラ」に決定したのだった。
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