本題未突入

『『サイ……! 俺は今日ほどお前を羨ましく、妬ましく、そして殺したいと思った日はない……!』』


 暗黒領域での戦いで捕虜にしたクリスライドとグレドプテラ。これらを奪還する為にやって来るミスト王国の軍人達の対応を考える為、合同部隊のゴーレムトルーパーの操縦士達、それにクリスナーガとビークポッドは宿泊用の建物の一室に集まったのだが、そこでサイは血の涙を流さんばかりの表情を浮かべたビークポッドとジェラードの二人に殺意すらこもった嫉妬の言葉を投げかけられた。


「お前らもかよ……」


 全くの同時に同じ台詞を言うビークポッドとジェラードにサイは疲れたように呟く。今日は朝から同じ合同部隊の隊員達から強い嫉妬の感情をぶつけられていたのだった。


『『当然だろ! 昨日一晩中、ピオンと散々楽しんで! 何だ、俺達への当てつけか!?』』


 サイの呟きにビークポッドとジェラードは全く同時に彼を指差し異口同音に叫ぶ。それを聞いてサイを初めとしたこの部屋にいる面々は、ここまでくると呆れるのを通り越して感心するな、と思った。


 そしてビークポッドとジェラードが言った通り、サイが朝から合同部隊の隊員達から嫉妬の感情を向けられている理由は昨日のピオンへの「ご褒美」、一晩中続いた情事にあった。情事の物音やピオンの喘ぎ声は駄々漏れとは言わないが宿泊用の建物に泊まっている隊員達に届き、合同部隊の隊員のほとんどは独身の男で更に言えばピオンはその容姿から隊員達から人気があったので、サイへの嫉妬が起こったのである。


「あ、あの……。昨日はどうだったのですか?」


 サイがビークポッドとジェラードの二人と言い合っている横で、ブリジッタが若干赤い顔をしてピオンに小声で質問する。彼女が聞いているのはサイとの情事のことであり、ピオンは口元に笑みを浮かべると自分も小声で質問に答えた。


「凄かったですよ。というか激しすぎたくらいです。ブリジッタさんもマスターと寝る時は覚悟した方がいいですよ? 特に胸の心配を。マスターってば巨乳好きですから胸から手を離してくれなくて、昨日はこの自慢のお胸がもげるかと思いましたよ」


『『………!?』』


 ピオンの言葉にブリジッタと横でこっそりと話を聞いていたクリスナーガが顔を赤くして絶句する。ブリジッタもクリスナーガも巨乳であるから、将来自分の婚約者と肌を重ねる未来を創造したのだろう。


「……全く何を話しているのよ? ミスト王国の対策を考えるんじゃなかったの?」


 今も言い争っているサイ達や、顔を赤くしながらピオンの話を聞いているブリジッタとクリスナーガを見て、マリー未だに本題に入れていないことにため息を吐く。しかしそんな彼女もピオン達の会話に興味があるのか、頬を少しだけ赤くして耳をすまして聞いていたのだった。

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