サーシャの苦労

 玄関から聞こえてきた声はサイの妹のサーシャのもので、彼女は屋敷に入るとサイ達のいる居間に姿を見せた。


「お兄ちゃん達ここにいたんだー。って、あれー? お客様ー? 初めましてー。私ー、サイお兄ちゃんの妹のー、サーシャ・リューランと言いますー」


 居間にやって来たサーシャはそこにサイ達以外に初めて見る人、ビークボッドとジェラードとマリーの三人に気づき自己紹介をする。そしてビークボッド達三人もサーシャの方を見る。


「彼女がサイの妹か」


「サーシャ・リューラン。俺達と同じゴーレムトルーパーの操縦士」


「最近噂の『雷の戦乙女』とこんな早くに出会えるなんてね」


 ビークボッド、ジェラード、マリーの三人がサーシャの顔を見ながらそう言うと、サーシャはマリーの言葉に照れ臭そうな表情を浮かべる。


「あー、その名前ー、もう知っているんだー?」


「そうだな。最近活躍しているみたいじゃないか」


 サーシャが頬をかきながら言うとサイが返事をする。


 今から少し前、サーシャはモンスターに襲われた自国の砦を救うために自身のゴーレムトルーパー、ドラトーラで出撃をした。そしてその際に少しでも早く砦に向かうため「浮遊」の異能を使ってドラトーラを宙に浮かべて移動させ、これによりサーシャとドラトーラの存在はフランメ王国中に知れ渡ることとなった。


 その後サーシャによって救われた砦の兵士の話は軍から市民へと広まっていき、ドラトーラが電撃を放つ武装を装備しているという情報と「浮遊」の異能で空を飛んだ目撃情報から、誰が言い出したのかサーシャは「雷の戦乙女」と呼ばれるようになる。


 ドランノーガに続く新たなゴーレムトルーパーの登場。しかもその初登場が自国の兵士達を救うための戦闘ということで、サーシャとドラトーラの話はフランメ王国中の人間に広まっていて、サイ達もフランメ王国に帰ってすぐに彼女の話を聞くことになった。


「そんないいものじゃないよー? 元々お兄ちゃんの妹ってだけで皆に見られてるのにー、ドラトーラの操縦士って知られたらー、更に見られるようになってー。……もう息がつまりそうー」


 サイの言葉にサーシャは、士官学校で何とか自分に取り入ろうと見てくる同級生達や上級生、そして教師達の顔を思い出してうんざりとした表情になる。ゴーレムトルーパーの操縦士ともなれば、いつでもその手の人間は現れるもので、それを理解しているジェラードやマリーは同情するように苦笑をする。


 サイも士官学校にいた時は色々と苦労していたのだが、どうやらサーシャも兄とは違う理由ではあるが士官学校で苦労をしているみたいであった。

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