ジェラードの先制


「ぐうっ!? こ、これは……!?」


 ミッシェル達、ソル帝国側のゴーレムトルーパー四体は突然起こった爆発に翻弄されていた。


「これがドランノーガの砲撃か!」


 遥か遠方で、上半身の騎士の両腕と下半身の竜の両前脚から炎を吹き出しているドランノーガを見て、ミッシェルは苦々しく呟く。


 ドランノーガの報告はミッシェル達も聞いていた。しかし彼らは長年ゴーレムトルーパーの操縦士として活躍してきた経験から「ゴーレムトルーパー=高速で地面を走り近接武器を扱う兵器」という固定観念が生まれ、心のどこかで空を飛び遠距離から攻撃出来るというドランノーガの存在を疑っていたのだ。


 今のミッシェル達の状況は、そんな心の隙を突かれて生じたものであった。見ればミッシェル以外の三体のゴーレムトルーパーも、初めて経験するゴーレムトルーパーからの砲撃に驚き戸惑っていた。


「落ち着け! 幸い敵の攻撃は精度が低い! 一気にこの場から駆け抜ければ……?」


 そこまで言ったところでミッシェルはある違和感を感じ、足元を見てドランノーガに乗るサイの本当の狙いに気づいた。


「まさか……向こうは最初からこれを狙って……?」


「そういうことだ! 行くぞ、ヴォルダート!」


 ミッシェルの呟きに答えたのは、彼らがドランノーガの砲撃に翻弄されている間に急接近してきたジェラードであった。


 敵の接近に気づいたソル帝国側のゴーレムトルーパーは、急いで迎撃をするべく体勢を整えようとするのだが、その動きは鈍かった。ドランノーガの砲撃により地面が抉られ、砕かれたことによって足をとられているからだ。


 これがサイ達があえて正確に狙わずに砲撃を続けた理由。


 ソル帝国側のゴーレムトルーパーは、全て下半身が馬であり、平地であれば驚異的な疾走距離と速度を発揮する。しかし今のように荒れた状態の大地では、本来の速度を発揮できずにいた。


 そしてソル帝国側のゴーレムトルーパーとは逆に、ジェラードの乗るヴォルダートは砕かれた土地を苦にすることなく、まるで跳ねるように走りソル帝国側のゴーレムトルーパーに接近する。


「『ファング・シュヴェーアト』!」


『………!』


 ジェラードの言葉に応えてヴォルダートの下半身の狼の腹部辺りの装甲が左右共に展開して片刃の剣が一振ずつ現れる。片刃の剣には動物の牙のような無数の小さな刃が並んでおり、小さな刃はそれぞれ高速で振動をしてまるで獣の唸り声のような振動音をあげる。


「はぁっ!」


「まずい!」


 ジェラードの気合いの声と共にヴォルダートはミッシェルが乗るゴーレムトルーパーの横を疾走し、ヴォルダートの武装「ファング・シュヴェーアト」はすれ違いざまに敵のゴーレムトルーパーの装甲にいくつもの切り傷をつけるのだった。しかしミッシェルもただやられたわけではなく、攻撃を受けた瞬間にとっさに機体を動かし、攻撃のダメージを少なくしていた。


「ちっ、浅いか。まぁ、先制攻撃は成功ってことで」


 ジェラードは自分の攻撃が思ったよりダメージを与えていないことに舌打ちすると、再び攻撃をするために一度距離をとるのだった。

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