模擬戦の前日の会話
「昨日はお楽しみでしたね」
ブリジッタがサイの部屋に訪れた翌日。ソル帝国の砦の通路で楽しそうに笑いながら言ってくるピオンに、サイは呆れたような表情で言い返す。
「お楽しみってお前な……。俺はブリジッタに手を出していないぞ? そういうのは正式に結婚してからだってことはお前も知っているだろう?」
サイの言っていることは嘘ではない。ブリジッタが部屋に訪れた昨晩は会話をしていただけだった。
ブリジッタとの会話では、主に彼女が自分の思いを口に出し、サイはそれを聞いていた。
自分が子供の頃から懐いていたゴーレムトルーパーへの憧れ。
ザウレードの過去を知ったことの驚きと、ザウレードに乗ることで人々から恨まれるかもしれないという恐れ。
しかしそれでも自分はゴーレムトルーパーに、ザウレードに乗っていたいという願い。
それらの気持ちをサイに話しているうちに、ブリジッタは自分で自分の気持ちの整理をつけたのだった。
「というかお前も一緒にいただろ?」
このサイの言葉も嘘ではない。ブリジッタの話は、自分達の仕事を終えて部屋に帰ってきたピオン達も聞いており、彼女達の励ましもブリジッタが気持ちの整理をつける助けとなっていた。
「ええ、いましたよ♪」
「全く……」
サイに聞かれたピオンは楽しそうな笑顔のままに答え、それによりホムンクルスの少女の主人はため息を吐く。
「いや~、最初にブリジッタさんを見た時は焦りましたよ。長旅の疲れを癒すのは私達の
役目なのに、ブリジッタさんに先を越されたと思って」
「俺とブリジッタは婚約者同士だから、二人でゆっくりとしても不思議はないと思うけど?」
「それでもですよ」
サイの言葉にピオンは僅かに拗ねたような声で答える。ピオン達にも譲れぬ点があるらしく、先程のあきらかにからかっている発言もそこから来ていた。
「まあ、それでも良かったじゃないですか。ブリジッタさん、皇帝陛下の閲覧の時でも平気そうでしたし」
「まぁな」
今日の昼頃、サイを含めた合同部隊の主要メンバーはソル帝国の皇帝と謁見をしていた。その際に大勢の貴族や軍人が、ザウレードの操縦士であるブリジッタに複雑な感情を向けてきていたが、ピオンの言う通り彼女はそれらの自分に向けられた様々な感情に動じる様子はなかった。
「後はブリジッタさんだけでなく、私達の力もソル帝国の方々に見せるだけですね。確か模擬戦は二日後でしたっけ?」
砦の通路を歩きながら聞くピオンにサイは頷いて答える。
「そうだ。ソル帝国からゴーレムトルーパーが四体出てくるみたいだけど、やる以上は勝ってみせる。ピオン、サポートを頼むぞ」
「はい、お任せください♪」
ザウレードの件もありソル帝国の軍人達の信頼を得るためにも、初任務である模擬戦では絶対に負けるわけにはいかない。その事を理解しているサイ達四人のゴーレムトルーパーの操縦士は、自分達の実力を十全に発揮できる作戦を立てて準備を整え、そうしているうちに二日が経ち模擬戦の日がやって来た。
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