リードブルム

 次の日。サイ達は昨日ドラトーラとジェノバイクが模擬戦を行なった草原よりも更にイーノ村よりも離れた草原に来ていた。


「ふむ。この辺りでいいだろう。サイ君のドランノーガは遠くにも被害を出してしまうからね」


 周囲を見回して言うフランベルク三世の言葉にサイが頷く。


「ええ、そうですね。でも本当に俺と陛下で模擬戦をするのですか?」


「もちろんさ。さあ、サイ君。ドランノーガとリードブルムを出してくれないか」


 まるでこれからお祭りに出かける少年のような顔で答えるフランベルク三世。ドランノーガとの模擬戦を心から楽しみにしているフランベルク三世を止めることはできないと判断したサイは、バルベルトとクリストファーに視線を向けるが三人同時に首を横に振られていよいよ諦めることにした。


「……分かりました。ではドランノーガとリードブルムを出しますので、皆下がってください」


 フランベルク三世達が後ろに下がったのを確認してからサイは「倉庫」の異能で収納していた二機のゴーレムトルーパーを現実世界に出現させた。


 一機は全身が紺色の竜騎士の巨像、ドランノーガ。


 そしてもう一機は全身が真紅の竜騎士の巨像。その下半身の竜はドランノーガの竜と比べて細身で前腕部のある場所に翼が生えており、上半身の騎士は右手に切っ先が地面に届きそうな長剣を持ち左手に大盾を持っていた。


 この真紅の竜騎士の巨像こそが初代フランメ王国国王がゴーレムオーブより作り出し、フランメ王国国王が代々受け継いできたフランメ王国の象徴であるゴーレムトルーパー、リードブルム。


 フランメ王国の首都の名前にも使われたこのゴーレムトルーパーは、このフランメ王国そのものと言っても過言でもなく、まさかそれと模擬戦をする事になるとは夢にも思わなかったサイはリードブルムを見上げながら呟いた。


「リードブルム……。やっぱり凄いな……」


 フランメ王国の男子にとって「ゴーレムトルーパー」とはリードブルムを指し、リードブルムは憧れそのものであった。だからこそもう何度も見たというのにサイはリードブルムを憧れの目で見るのを止めることはできなかった。


「ふふっ。そうやってリードブルムを見つめるのは構わないが、そろそろ君もドランノーガに乗ってくれないかな? ほら、君の可憐なパートナー達は既に準備ができているみたいだぞ」


 リードブルムを見上げて動かずにいたサイにフランベルク三世が声をかける。見ればサイに従うホムンクルスの女性達、ピオンとヴィヴィアンがドランノーガの足元でサイを待っていた。


「あ……! すみません。分かりました」


 サイがフランベルク三世に謝罪してからドランノーガの元に向かうと、ピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼの四人が同時に礼をして己の主人の青年を出迎えた。


「マスター。心の準備はできましたか?」


「そうだな……。正直分からないけど、せっかくの機会だからね。全力でやって胸を借りてみようと思う。……皆、力を貸してくれ」


『『はい。お任せ下さい』』


 サイがピオンの言葉に答えてから自分を支えてくれているピオン達にそう言うと、四人のホムンクルスの女性達は同時に一礼して返事をするのだった。

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