第134話 魔王軍vs闇の女神教団!

「何故こうなるまで放置していたのだ……」


 赤い甲冑を纏った男が、呆然と呟いた。


「それが……ユーティリットとの睨み合いに注力していた結果、例の教団は深く静かに、しかし恐ろしいほどの早さで広まったようで……」


「何と言う事だ。それに、これだけの早さで教えを広めるなど、まるで洗脳ではないか!」


「はい、申し訳ございません」


 頭を下げる女魔術師、イヴァリア。

 彼女を見て、赤い甲冑の男……シュテルンはハッとしたようである。


「いや、こちらこそ怒りをぶつけてしまい、済まなかった」


「いえ、こちらこそ……」


 二人でペコペコとする。

 そこへ、場違いな声が響いた。


「おやおや! 魔将ともあろうお方が下僕の魔物に頭を下げるとは、何事かな?」


「何者だ!」


 シュテルンが放った誰何すいかの声に、それは応じて姿を見せた。

 真っ赤な礼服を身に着けた、青い肌の男である。


「これはこれは失敬! 私はオルゴーン。多くの欠員が出た魔将の穴を埋めるため、オルゴンゾーラ様より命を受けて参上した者だよ。魔将、鮮烈のシュテルン」


 芝居がかった仕草で、大仰に両手を広げる。

 手にはステッキが握られており、仰け反っても被ったシルクハットは落ちなかった。

 彼は急に真面目な顔になる。


「あれは大変危険だよ。闇の女神教団……! よもや、神を解放しただけでは飽き足らず、勝手に神を連れ回し、それに属性を与え、しかも同胞たる人間たちの洗脳を行い魔物たちをも巻き込んでいく。……彼らは、魔物を忌むべき存在だと認識してはいないのか? あれは、かつてオルゴンゾーラ様と戦い、この世界のみを守りきった勇者たちとは明らかに違う。魔王様ですら想定もしていなかった連中だ……!」


 オルゴーンは吠えるように告げると、苛立たしげに足を踏み鳴らした。

 

「……何を言っている?」


「何を、ではない。君たちにオルゴンゾーラ様の言葉を伝えよう。ここで。そう、ここでだ! あの異常なる勇者たちを止めよ! オペルクが君に与えた全機能を用い、この世界に駐留する全ての手駒を率いて彼らを……レヴィアとウェスカーを討ち取れ! あれは、違う! 理解できぬ、危険な者だ!」


「新しい魔将とやらが、随分と冷静さの無い口ぶりで」


 イヴァリアがぼそりと、口の中だけで呟いた。

 シュテルンはそれを聞き取り、かすかに肩を竦める。


「良かろう。では、これより我が全ての眷属に伝える。不死の軍勢の全部隊を以って、かの者たちへの雪辱を晴らす。いでよ、我が眷属よ……!」


 シュテルンが告げると、彼の下に形作られていた影が、ぐにゃりと歪む。

 影は一瞬にして、部屋中を覆い尽くすほどの大きさに広がり、それは城全土へと展開していく。

 影の中から、無数の人影が起き上がってきた。

 髑髏の兵士。

 髑髏の騎士。

 髑髏の魔術師。








「レヴィア様、出迎えきたみたいですなー」


「おお!! そう来なくてはな!!」


 さっきまでボーッとしていたレヴィアだが、敵が出たと俺が伝えると凄くいい笑顔になった。

 心ここにあらずという感じで食べてた、揚げチキンのサンドイッチを一気に口に押し込むと、信者が差し出してきたお茶で流し込んだ。

 袖で口を拭く。

 うん、女王陛下お行儀が悪いぞー。


「わらわらと骸骨の兵士どもが湧いてきやがったな。人間が敵じゃなくて何よりだぜ」


 ゼインがポキポキと指を鳴らす。


「ですけれど、魔物だってこれまでのことを思えば、改心させることができますわ。キータス様をどのように使うかが鍵ですね」


 マリエルは、歩きながら周囲に魔法の展開をし始め、


「腕が鳴りますね。神の威光の元にひれ伏させて……と言いたいところですが、威光もへったくれもないですからね、もう。神々から委譲されたこの力で粉砕致しましょう!」


 クリストファが祝砲代わりに、空に向かって光の魔法をぶっ放す。

 教団信者たちが、やんややんやと盛り上がった。


「今回は、引き連れてるのの中に魔物もいるので、戦力になりそうだなあいける?」


 手近な魔物に聞いてみる。

 猛禽類の頭をしたマッチョな魔物だ。


「そりゃもう! 種族単体の能力ならば俺たち魔物にお任せですよ」


「そう? そんじゃ、適当に骸骨を押さえててもらえば。キータスも一気にズバーっとあの改心させる能力を使えるようになってきてるから」


「了解です大魔導様!」


 これは心強い。

 人間の信者を守るくらいはいけそうだ。

 俺たちは、やる気満々の信者たちを引き連れて、一路オエスツー王国王都へ。


 そして、お湯が水になる程度の時間で到着。

 迎え撃つように、王都側から溢れ出してくる骸骨兵士たち。


「はーい、ここで信者の皆さん! 戦えない人は魔物の人のサポートをするようにー。うわーだめだーと思ったら逃げてねー!」


「はーい!」


 俺の言葉に、とてもいいお返事が返ってくる。

 闇の女神教団の人々は素直で大変よろしい。


「じゃあ、私はキータス連れて、適当に魔物を改心させて回るね。行こ、ボンゴレ! パンジャ! チョキ! ビアンコ!」


「フャン!」『キュー!』「ぶいー!」「ウキー!」


 大きくなったボンゴレに跨ったメリッサが、前にキータスをちょこんと座らせて俺に手を振る。

 残る三匹のしもべも一緒か。

 今回の作戦の鍵はメリッサだな。


「任せた! んじゃあ、俺とレヴィア様は先行くわ」


「よし、ウェスカー飛んでもいいぞ! おっと、もう少し上に掴まった方がいいか? ほいっと」


「あっ! それは掴まる所が上すぎて大変なことに俺の後頭部で胸が。大変結構。グッド!! レヴィア様グッド!!」


 俺はテンションが上ってきたので、もう詠唱どころか魔法の名前も唱えないままにふわーっと浮かび上がった。


「……あれっ? 胸の感触が分かるということは、レヴィア様もしや鎧を身に着けていらっしゃらない」


「うむ。あの教団ローブの下に鎧をつけると、蒸れて蒸れて……。ということで、ウェスカーに乗りながら身につけるから気にしなくてもいいぞ」


「うーむ!! 鎧を付けてない方が感触が最高にいいんだが、それだとレヴィア様の身の危険がピンチ!! だが鎧を付けていると後頭部の感触が残念に……!!」


「そ、そんなに私の胸が好きか、そなたは!」


「大好きです!!」


「ええい!」


 なんかレヴィアに頭をぺちぺち叩かれながら、俺はぎゅんぎゅん空を飛ぶ。

 骸骨たちが、頭上を猛烈な速度で飛ぶ俺を指さしてわいわいと騒ぐ。

 矢や槍、魔法が降ってくるが、まあ当たらないよね。


 突っ込むのは、オエスツー王国の王城。

 上空から見ると、まだ大半が瓦礫だ。

 その中に小さめの館が出来上がっていて、ベランダに見覚えのある赤い鎧が立っていた。

 横にいる女魔術師も懐かしい。


「よう、シュテルン」


「来たか、レヴィア姫……いやレヴィア女王と大魔導ウェスカー。よもや、あの地で俺が相手をしたお前たちが、これ程までに長く魔王軍の障害として立ち塞がるとは思ってもいなかったぞ……!」


「そうだなあ。思えばなかなか付き合いが長い!」


「なにっ、もう到着したのか!? 待てウェスカー、まだ胸の鎧がだな……むむむ、おかしい、入らん……」


「レヴィア様、まだ胸が育ってるんですか。なんてことだ、けしからん素晴らしい」


 俺は大変興奮した。


「そなた、随分直接的に物をいうようになってきたな! めっ、だぞ!」


「痛い!」


 頭をポカリとやられた。

 魔物一体を粉々にぶっ飛ばす程度のチカラでやられたので、俺はひゅるひゅると落下していく。

 集まってきていた骸骨たちの中心に落ちたので、俺は落下ざまに魔法を使用する。


「“超至近クロースレンジ炎の玉ファイアボール・改リメイク”!」


 俺の眼前に生まれた炎の玉が、炸裂した。

 それが渦を巻きながら、周囲一帯にいる骸骨兵士たちを巻き込んでいく。

 無論、俺とレヴィアごと攻撃しているのだが、この程度では俺もレヴィアも全く応えないのだ。

 あちこちで、「ウグワー!!」という叫び声が聞こえたので、かなりたくさんの骸骨をやっつけたらしい。


 焦土になった地面に降りると、目の前でシュテルンの館が崩れていく。

 破壊された館のベランダから、赤い鎧と女魔術師が飛び降りてきた。


「勝負だ。ここで決着をつける!!」


「ええい、もう鎧はいらん! 望むところだシュテルン! この聖剣でかたを付けてやる!!」


「レヴィア様、一応シュテルンを改心させようという計画があるので……」


「何っ、手加減しろというのか!? 私はいやだぞ! せっかく暴れ……正義の剣を振るえるというのに!」


「本音が出ましたなあ。まあ勝ったらとどめだけはちょっと待ってて下さい」


「仕方ないな……」


 渋々という感じでレヴィアがうなずいた。

 ちょっと譲歩するようになった辺り、この人も色々成長してきた感があるぞ。

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