5ー19




 アリス公演同時刻



 ブルーキャットのリーダーの山蘭、そしてベンガルとシャムは、公演館内に客として侵入する事が出来ていた。


 三人は怪しまれないように行動し、女性用トイレで待機し、予定時間までにいつもの仕事服に着替えていた。



「後……五分。ベンガル、そっちは大丈夫?」


「完璧。予定通り、私が管理ルームに入り、直接ハッキングする」


「シャムは、どう?」


「オッケーよ。リーダー」



 耳に付けている小型無線機に手を当てて、聞いてみると、外で待機しているソマリ、ネコ吉が何やら言い争いをしていたが、いつも通りなので無視する事にした。


 今回の作戦は、ベンガルが管理ルームに侵入し、防犯カメラのハッキング、警報装置の解除をした後、歌を歌っているアリスを観客の前で暗殺……。シャムは、ベンガルの護衛。


 外で待機している者は、もしもの時の為に待機させてあるが、今回は私一人だけでも行けそうな気がしてきた。



「………ふぅーー」

(けど、油断は出来ない。相手は、私達の組織よりも数倍巨大な組織だ。成功したとて、"報復"があるだろう)



 私は、今回の暗殺が終わった後を考えていた。アリスのバックに付いているのは、大企業アスタロトグループ。それは表の面。裏の面では………言わない方が良いだろう。


 大規模な組織であるにも関わらず、その組織の詳しい事は裏世界でも知られてはいなかった。とある噂では、知ってしまった者は、その家族、親戚、知人までもが殺されたと、聞いた事がある。


 しかし、その噂は諜報部"暗ノ道"が流した噂であり、他の組織から手を出させないように仕向けたのだ。


 アリスの公演が始まって、五分が経った頃、私達三人は行動に移す事にした。



「ベンガル、ハッキング出来次第報告」


「了解」


「シャム、ベンガルを守ること。サボったら……分かってますよね?」


「はいはーい。分かってますよぉ〜だ。そもそも来ないでしょ」


「……そうだと良いんですが」



 余裕な素振りをしているシャムを見て、不安になったが、最初がこの調子だと暗殺に支障がきたすと思い、その考えを捨てた。


 ベンガルが真面目な分、キチンと引っ張ってくれるであろうと思い、女性用トイレから出た私達は、二手に分かれた。



「………」

(スタッフが居ない……その代わりに、三人体制で、警備員が他方面にいる)



 アリスの公演前には、スタッフや観客などでロビーが埋まっていたが、始まった途端、アスタロトグループ社が用意した警備員が予想以上にいた。


 やはり、こちらの行動を読んでの対策なのはすぐに分かった。しかし、それ以上の物は見えない。公演館に、何かしらの細工はされているかと思っていたが、1週間だとそれは難しいかったのか、もうすでに細工してあるのか……。


 そう頭の中で、この考えていると、ベンガルから無線機に連絡が来た。



『報告。管理ルームに、侵入成功。ハッキングをくるから、数分待て』


「警備員は、どうしたんですか?」

(これだけいるのに、どうして入れたんだ?)


『う〜ん、それが、居なかったのよ』


「居なかった?警備員が?」


『そう。流石の私も怪しいと思うんだけど……』


「………シャムは、予定通りベンガルの護衛をして下さい」

(怪しいの分かる……でも、情報が足りない。ベンガルがハッキングするのを待つしか)



 公演館の心臓と言っても良い管理ルームに警備員が居ないとなると、どうぞ、ハッキングして下さいと言ってるものだ。


 いや、それともわざと?わざとハッキングしろと言っているのか、それならベンガルを止めるべきだが……今更、止める訳には行かない。


 頭の中で、自問自答していると、ハッキングし終わったと報告を受けた私は、心の中で、ベンガルの事を流石だと思い、ベンガルの言う通りに行動に移した。



『報告。そこの右を曲がるところに、暗殺対象が公演しているところに着く』


「分かりました。私が中に入り、暗殺し終わったら報告するので、外で待機してあるメンバーと会ってください」


『りょ〜か〜い』



 耳に付けてある無線機を切り、内ポケットに手を入れ、拳銃を取り出した。右手には、拳銃を。左手には、短剣を。自分のスタイルに装備した私は深く深呼吸した。




「ふぅーー……」

(いつも通り。いつも通りにやれば……出来る)



 いつもなら、この様に緊張などせず、己の感情を殺し、暗殺するーーだが、今回は違う。何かが違う。と思いながらでも、仕事ならば仕方が無いと思い、両手扉を思いっきり開けて中へと入って行った。








「………は?」







 中には入れた。しかし、そこには、




 それと、同時に入ってきた両手扉には防火用のアラームがなり、防火シャッターが閉め始め、急いで出ようとしたが間に合わなかった。



「クッ!!!」

(これは罠だ!!!どうしてだ!ここじゃ無かったのか!?だとしたら……別の部屋)



 急いでこの場から去ろうと辺りを見渡し、出口になりそうな窓などを肉眼で探してみたが、ここはそもそも歌や劇場などをする場所だ。


 勿論、防音が施されてある壁であり、窓などは無かった。それでも尚、出れる場所を探していると、ステージの前の席に二人の男が座っていた。



「おいおい……会長が敵さんが来るって言うから、待ってたら女かよ」


「そう言うな。彼女は、裏の世界で暗躍する殺し屋だ。油断は出来ん」


「ケケケ、それもそーだな」



 私はこの男をよく知っていた。



 一人の男は、深町ふかまち 炎悟えんご。アスタロトグループ関東支部の支部長だが、気性は荒く、幾度との喧嘩や騒動に自ら起こすので《鬼人》と呼ばれている。


 もう一人の男は、氷宮ひょうみや みちる。アスタロトグループ関東支部の支部長であり、気性が荒い炎悟と違い、冷静な性格で、比較的には喧嘩や騒動は起こさないが、喧嘩となれば、徹底的に叩きのめす事で《夜叉》と呼ばれている。



 警戒し、今すぐにでも殺しに行こうとしている私に対して立ち上がった一人の男は不敵に笑い、もう一人の男は小さくため息をついていた。



「お仲間は、いねぇのか?」


「……私、一人です」

(嘘だと気づかれるが、仕方がない。早く撤退して、合流しなーー)


「他のお二人は、管理ルームにいるらしいですよ」


「……!」

(な……、どうして)


「へぇ〜、なら、ここはお前に任してもオーケーか?俺はその二人とやってくるからよぉ」


「ダメに決まっているでしょう」


「………舐められたものですね」



 皮肉にも言い返してやると、終始不敵に笑っている男は、更に深く不敵に笑い、ゲラゲラと笑い始めた。


 そんな男を私は警戒しつつも、不思議に思い始めた。ゲラゲラと笑う男の隣にいるメガネをつけたクールな男は、大きくため息をついた。



「"万全を期して、二人で相手をしろ"ーーと会長から言い渡されてますけど?」


「そりゃ〜会長から言われたら、二人でやるしかねぇな。うんうん」


「はぁ……貴方も会長に酔狂ですねぇ。そう言う私もですけど」


「カッカッカッ!そりゃ〜、会長から受けた殴りの傷が未だ癒えてねぇし、俺を負かした男だ」


「強き者に従う……と言う事ですか」




 今は、アスタロトグループ関東支部として会長である達也に従っているが、元は2代目会長として達也がなる事を、この二人は反対していたのだ。しかし、なんだかんだで、今は従うようになっている。


 敵が目の前にいると言うのにも関わらず、余裕な雰囲気を出す男二人に怒りを宿すが、なんとか抑え、管理ルームにいる二人に連絡を取ろうとした……が



「出来ないでしょう?」


「……」

(電波を妨害されている……。だけど、外に出れば、繋がる筈だ)


「うちの社には、俺達でも知らねぇ奴が居るからなぁ……ま、俺はやれたらそれで良いんだけど」


「それで、繋がりましたか?管理ルームにいるお二人と」


「……」

(ベンガルとシャムの事はバレてる。ハッキングしたと、言っていたが………いや、今はこの状況を打開する事を専念しよう)



 男二人は、それぞれのスタイルになっていた。メガネをかけた男は警棒を持ち、不敵な笑みを浮かべていた男はメリケンナックルを握りしめた。


 まず、この二人を倒して合流するーーそう決めた私は、席と席の間の通路に立ち、ステージ前にいる男二人へと走った。



「さぁ!!やろぉじゃねぇか!!!」


「会長の命令を執行するっ!」


「………コロす!」

(願わくば、無事でありますようにっ!)



 



 



 公演館・管理ルーム




 管理ルームからキーボードをカタカタと叩く音が響いている。それも荒く、忙しそうに叩いていた。


 それもそのはず、さっきまで通信していた相手がいきなり聞こえなくなり、ハッキングしていた管理ルームのパソコンが効かなくなっていたからだ。



「どう?リーダーに繋がる?」


「拒否。無線機の電波が妨害されているし、管理ルームの機器が効かなくなった」


「それって……誰かからハッキングされてるって事?さっきまで言う事聞いてたのに……」


「返答。リーダーが公演内に入ると同時に、ハッキングして来た。外にいるニャン吉にも通信が効かない」


「て事は……私達がここにいる事がバレてるって事よね?じゃあ!早くリーダーのところに行かないと!」



 椅子を掴み、行こうと急かすシャムに対して、ベンガルはダメだと思いつつも、リーダーの安否が確認出来ない状況にいる為、心配でもあった。


 しかし、自分は戦闘色に向かない殺し屋だ。リーダーやシャムが実行し、ベンガルがそれを誘導するのが私の役目。


 ここで、リーダーのところへ行ったとしても、私達の事はバレてある筈だし、暗殺どころでは無くなる。警備員がこっちに向かっているかも知れないが、それは確認出来ない。


 そう思っていると、公演内部にある防火シャッターやその他の機器は動かせないが、公演内部の防犯カメラは画面に映し出す事は出来た。



「あ!リーダーが誰かと戦ってる!」


「復活。防犯カメラだけは戻った。私はここで指示するから、シャムは行って」


「でも……」


「平気。自分の身が危なくなったら、すぐに逃げるから……リーダーを助けに行ってあげて」


「うん……分かった!危なくなったら、本当に逃げるのよ!」



 そう言って、シャムは管理ルームから出て行き、リーダーのところへと向かって走って行った。


 行く道中にも、警備員が多数いる為、その指示と同時にハッキングされたパソコンを仕返してやろうと息を巻いていた。



「………」

(暗殺は失敗……兎も角、逃げる事に専念しないと)



 そう思いながら、また、管理ルームからキーボードをカタカタと叩く音が聞こえて来た。







 アスタロトグループ本社地下





 薄暗い部屋に無数のパソコンの画面の光が一人の少女を照らしていた。その少女は、鼻歌を歌いながら、両手に持っている丸いボール型をクルクルと回しながら、遊んでいた。



「〜♪〜〜♪〜〜♪」

(もう、そろそろ始まっているからかニャ〜ン♪)


『マザー、機体を回すのはやめて下さい。焦点が合わせられません』


「にゃはは〜♪回しても、仕事には影響は無いでしょ?」


『それもそうですが……』


「ニャら、遊ばしてくれニャ〜」



 そう言って、鼻歌を歌いながら手に持っているボールをクルクルと回し始めた。そのボールの正体は、諜報部管理AIである。


 その、AIの産み親がボール型の機体をクルクルと回している《シャチ》と呼ばれている少女だ。訳あって達也の会社に匿って貰っている代わりに、手伝いをする事になっているのだ。


 今も、そのボール型の機体のAIが公演館の管理ルームにハッキングし、妨害をしているのだ。その指示も会長である達也からの命令でやっている事だ。



「まったく、達也も達也だよ。優秀で天才的な頭脳を持ち、美少女と言う看板を背負っているボクでさえ、疲れる事はあるんだ」


『マザー。あまり誇張すると、後々、その分の負が来ると思うのですが……』


「君はボクの言う事を聞いてたら良いんだ!それでそれでねぇ〜達也がねぇ〜ーーー」


『これは、話が長くなりそうだ……しかも、同じ事を何度も聞かされて』



 管理ルームに複数のパソコンを使ってハッキングしないといけないのに、産み親の愚痴も聞かないといけなくと思うと、感じないが疲れると言う言葉が、浮かび上がって来た。


 例え、達也の愚痴を言おうが仕事として任された身であるシャチは、天才としてのプライドもあり、仕事をこなしていた。



『防犯カメラは、ハッキングしないでよろしいのですよね?』


「そーだね。ハッキングしないと言うよりも、を流しておいて」


『混乱を招かせる為……分かりました。偽の合成映像を作成したと同時に管理ルームに転送させておきます』


「ありがとぉ〜、これで、達也から文句は言われないはずだ……クククッ」


『終始音声を記録しているので、会長には後で送っておきます』


「ん?ベイビーちゃん?その音声をボクに渡すんだ。悪い事は言わない、今すぐにボクに渡さなさい」


『会長から音声がございます。(あー、多分聞こえていると思うが……サボったら減給な)だ、そうです』


「………オーマイガ」



 絶望したシャチは、手に持っていたボール型の機体を机の上に置き、急いでキーボードをカタカタと叩き始めた。


 元々、この音声はシャチがサボろうとした時用に作成した物であり、会長である達也が音声を録音したものでは無い。


 策士策に溺れるーーと言うのは、この人に相応しいなと思ったAIであった。



(今度からは、もっとバリエーションを増やしておきましょう)


「ふぇ〜ん!達也のバカァ〜!!!」






ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。



作者☆


この話を書いて思ったのが……甘さが足りぃん!!!恋愛と言う、ジャンルにも関わらず、戦闘と言いAIと言い、甘さよ!甘さが足りんのんよ!!!!


と、言うわけで、次回は甘さを入れておきます。





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