4ー8
「達也……すまん、俺はお前をっ!」
「荒木……良いんだ。お前だけが背負い込む事は無い……と言うとでも思ったかぁ!」
「今回ばかりは本当にすみませぇん!!」
俺は今、教室で荒木が夏休みの宿題をしているのを監視している。
何故、俺が夏休みの課題をしている荒木を監督しているかと言うと、簡潔に荒木が夏休みの課題をせず、居残りになっているからである。
「なんでお前の宿題を俺が監督として付かないといけねぇんだよ……」
「なんでだろうなぁ〜」
「お前がやって無いのが悪いし、途中で脱走して逃げるお前が悪い!」
「そんなはっきり言わなくても……良いじゃん」
「あぁ?誰のせいで俺がお前の監督にいると思ってるんだぁ?言ってみろ」
「……全て俺の責任でございます」
夏休み終わりの登校日、綺麗さっぱりと荒木は夏休みの課題をやっておらず、いつも仲が良いと言う俺が荒木を監視する様に頼まれたのだ。
本当なら、午前中に帰れるところ、荒木の監視で帰れなくなったのだ。
「ほらぁ!手が止まってるぞぉ!」
「ひぃ〜!すいやせ〜ん!」
「ここの問題、字が汚い!ここの漢字は間違ってる!」
「い、いや。別に字が汚いのは……」
「この場において、お前に拒否権は無い!お前は俺が言っている通りにすれば良いんだ!」
「い、イエッサー!」
荒木からの飛び火で怒りの頂点に達した俺は、この時間を使ってとことん荒木を更生させてやろうと、心から強く決めたのだ。
今までは甘く見ていたが、今日から!荒木をビシバシッ!と厳しく接する事にした。
「お前の甘ったれたその根性を、叩き直してやるよ……覚悟しておけ」
「あぁ……神は俺を見放したのか」
「ここは仏教国だ」
「神様自体居なかったのか……」
その後、三時間に続く荒木の課題は終わりへとついた。
あれやこれやと言っていた俺自身も疲れて、椅子の背もたれに体重を預け、小さくため息をついた。
「やっと、終わったな」
「………」
「荒木が……し、死んでいる」
「……生きてるぞ〜、勝手に殺すなぁ〜」
「あ、生きてた」
荒木は腕を組んで、枕のようにして寝ている体勢へとなっていた。荒木の頭の近くには課題の宿題の教科書やノート、プリントなどなどが重なって置いてあった。
現在の時刻は、午後の2時。もう他の生徒は帰っており、ご飯を食べているのか、ゲームをしているだろう。
「後は、終わった課題を担任に提出って……大丈夫か?荒木」
「ぜぇんぜぇん!だいじょ〜〜ぶれぇす!」
「大丈夫じゃねぇな、こりゃ」
フラフラと上半身を動かしながら、ビシッと敬礼しながら目が死んでいた。
それと同時に荒木のお腹からグゥ〜〜!と言うお腹が空いたよー!と言う知らせのチャイムが聞こえた。
「腹減った」
「この後、マックでも行くか?今日のお前の頑張りで奢ってやるから」
「マジっすか……神様はここにいらっしゃったのか」
「拝めるな、手を合わせるな。全く……」
昼飯は俺が奢ると言った途端、荒木に光が戻ったようになり、俺に対して手を合わせて何度もお辞儀をし始めた。
これからビシバシッと厳しくして行こうと決めて筈なのに、どうしても荒木には甘くなってしまう。
(て言うか、飴と鞭になってねぇか?俺一人で鞭を与えた後に、奢ると言って飴を与える……まさに飴と鞭だな、うん)
なんだか一人二役をしている俺に対して、感心していると、ガラガラッと教室の前の扉が開いた。
様子を見に来た担任かと思ったが、その予想は遥かに超えて、違っていた。
「やっほぉ〜!裕くん、やってるかぁ〜い!」
「……お邪魔します」
担任の先生では無く、私服姿の竹本と結衣だった。
竹本と結衣は普通に課題を終わらせている為、先に帰っていたのは知っていたが、まさか学校に来るとは思っても見なかった。
「裕くん、終わった?」
「おう、なんとかだぜ!」
「三時間は掛かったけど、荒木はキチンと終わらしたぞ。二度と俺を巻き込んで欲しくは無いけど」
「……達也……お疲れ様……はい」
「ん?この袋はなんなんだ?」
渡された袋は、コンビニの袋で中身を見てみると弁当とお茶のペットボトルが入っていた。
「はい!裕くんの好きなしゃけ弁当です」
「……達也の好みが……分からないから……一応、唐揚げ弁当」
「おお!神様の他に天使様までいらっしゃっていたのかぁ!」
「おぉ、唐揚げ弁当か。丁度、腹が減ってたし、ありがとな」
昼飯も食べていない俺達にしたら、竹本と結衣が弁当を持ってきてくれたのは素直に嬉しかった。
元々、マックに行く事は無かった事にし、担任の先生に終わった課題を出すのは、弁当を食べてからにしようと決めた。
「なんか、不思議だね。こうやって私服で教室にいるの」
「……確かに……ちょっと……緊張する」
「美味い……まさか、こんなにコンビニの弁当が美味いとはっ!感謝感激でございます」
「そうだな。コンビニとかは栄養バランスが偏っていると聞いた事はあるが……美味しいのは変わらないな」
放課後の教室で、コンビニの弁当を食うのはないかと初めてで良い経験が出来たと思った。
そんな美味しそうに食べている俺と荒木を
竹本と結衣はお互いに向かい合い、肩を竦めて軽く笑った。
「そんなに美味しいの?」
「あぁ、疲れた後のご飯ときたら……美味いに限るよ」
「そんなに美味いんなら、私にも一口頂戴」
「良いぜ、何が良い?」
「しゃけ」
「やらん」
「あはは!分かってるよ。そうだなぁ〜、このウィンナーを貰おっかな」
「あいよ」
竹本が選んだウィンナーを荒木が割り箸でパクッと食わしていた。竹本は、その後ウィンナーを美味しそうに頬を緩めながら噛み締めていた。
その光景を、隣で見ていた結衣は少し考えてパクパクと食べている俺に話しかけてきた。
「……た、達也」
「ん?どうした?」
「……その弁当……美味しい?」
「おん、美味いが……それがどうした?」
「……そ、そう……私も……一口貰っても……良い?」
「別に良いぞ。何が食べたい?」
「……え、え〜と……この……卵焼き……良い?」
「良いけど……どうやって食べる?」
「……そ、それは……達也が……食べさせて……くれたら……良い」
「い、良いのか?俺なんかが……」
「……達也が……食べさせてくれると……もっと美味しく……なる……と思う」
一応、本人の結衣からあ〜んをしても良いと許可を得た為、ご希望通りの卵焼きを結衣にあ〜ん、させて食べさせた。
食べさせられた結衣はあ〜んされた後、美味しそうに食べて頬が緩み、卵焼きを噛み締めていた。
「おいおいお〜い!お二人さん、お熱いねぇ〜!お姉さん羨ましいよぉ〜!」
「達也……お前は、一歩大人の道へと上がって行ったのか」
勿論、俺の隣には荒木。結衣の隣には竹本がおり、一部始終を瞬きする事無く見ていたのだ。
そんな二人に俺は気づいていたが、結衣は気付いていなかったらしく、持ってきた鞄で顔を隠してしまった。
「もぉ〜!結衣ちゃんったら可愛いんだからぁ〜!」
「……〜〜っ!!!」
「達也よ……お前は罪な奴だせ」
「バカップルのお前らには言われたく無い」
この光景を数日前に見たような気がしたが、俺は気にせず、弁当を食べ続けた。
勿論、俺の顔も熱く赤くなっていた事は秘密だ。
ーーー
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