第五章

5ー1





 【高尾家・千夜自室】





 私は、義父から受け継いだ高尾家の仕事をしている。



 うちの高尾家は、分野に問わず数々の企業に関係しており、非合法である組織などにも顔がきく家でもある。


 その為、当主となった私はそれ相当の仕事があるのだ。私はまだ若いが、この仕事量は、肩が凝る程だ。


 しかし、その仕事も最初だけで段々と自分自身も慣れていくだろう。



「夏さん、この書類を秘書さんに渡しておいてください」


「分かりました」


「いつも、すみません。こんな事ばかり頼んで」


「いえ、私は好きで千夜様のお付きになっていますから、お気になさらないでください」


「ふふ、頑張り過ぎはいけませんよ?」


「そのお言葉、千夜様にお返しいたします」



 私は廊下にいる夏さんを呼び、とある企業に頼まれていた書類を秘書に渡すように言った。


 そして、また部屋には私一人になった。


 束になっていた書類の仕事は終わり、ひと段落しようかと思ったが、すぐ近くにある重なってある物を見て、小さくため息をついた。



「また、量が増えてますね……全く、お見合いには興味が無いと言っているのに」



 そう、重なって並んであるのは我が家の系列の物達の息子達や、企業の関係者達の顔写真が写ってあるお見合いの束だった。


 私が当主になったのは数日前なのに、この量のお見合いが来たのだ。


 私自身も、お見合いには興味が無い、したく無いと言っているのに……お年寄り共のせいで無理矢理送ってきたのだろう。



「はぁ、当主になって良い事も起きたのは確かですが……面倒な事も起きたのは確かですね」



 夏さんが帰ってきたらお見合い写真を片付けるように決めて、部屋の隅へと追いやった。


 私が当主になったのは、義兄である高尾 剛が義父の座に相応しく無い為に私がなった。



(まぁ……本当の目的は違いますけどね)



 書類も片付け、仕事は終わりにしようと決め、次にやる事は仕事の疲れを取る為に一枚の写真を取り出した。



「はぁ……、愛しの達也様……今は離れ離れでも、私は遠くにいる貴方を感じます。あ〜、会いたい、会いたい。今すぐ、この山から降りてリアルで抱きつきたい。この気持ちを達也様は分かってくれますよね」



 木箱に入れていたのは、スーツ姿で車に乗り込んでいる時の達也の写真だった。


 目が見えない私でもその写真を恍惚とした表情で見つめたり、自分の谷間へと入れたりして、遠くにいる達也の事を思っていた。



(はぁ……高尾家の跡取りで数日しかいなかったのに、どうして私は達也様のお部屋へと行かなかったのでしょうか)



 達也が高尾家の跡取りで来ていたので、泊まらせる為に用意した部屋に行かなかった事を今更ながら後悔していた。



「今度、会いに行きましょうか?でも、高尾家の当主が理由も無く、アスタロトグループの会長でもある達也様に会うのは不自然ですよね……」



 大小多数の企業や合法非合法を含める組織に関係している高尾家当主の私と数々の部門でトップを取っているアスタロトグループ社会長兼代表取締役の達也が会うのにはそれ相当の理由がいる。


 そんな事を考えていると、中庭側の襖から人影が見えた。



「そこにいるのは誰ですか?」



 高尾家の者達には夜間には中庭にいる事を禁じているにも関わらず、人影が見えると言う事は外部からの侵入者だと言うのがすぐに分かった。



「俺ですよ、俺」


「【鼠】ですか……こんな晩にどうしたんですか?」


「いや、ご報告しきたんですけど……お取り込み中なら出直しますけど?」


「もう大丈夫です。ご報告とやらを聞かせて貰いましょうか」


「了解しました」



 【鼠】と呼ばれた者は、襖の隙間から一枚の紙を私に渡してきた。その紙には、高尾 剛の顔写真が載っており、その他には素性、年齢、などが記載されていた。



「義兄は始末出来たのですね」


「はい、様の御命令通りに……」


「ここでは、当主と呼びなさい。また同じ間違いをしたら……分かってる?」


「申し訳ございませんでした。当主様」


「それより、この件で警察はどのようにして扱ったのですか?」


「一応、自殺に見せかけて起きましたが、一部の刑事はこの自殺に疑惑を持っておりました」



 でしょうね。そう簡単には殺人を自殺に見せかけるのは難しいですね。


 私は、当主になる前から【鼠】に剛が逃げた場合、始末するように言っておいたのだ。どうせ、義兄が逃げても行き場は無いはずですが……後々、他の組織で人質になって金を請求されても困るだけなので、早々に始末しておいたのだ。



「分かりました。警察の方には私から言っております。ご苦労様でした」


「それでは、ここで失礼します」


「ちょっと待ちなさい」


「はい」



 報告も終わった【鼠】に私は呼び止めてしまった。言おうか迷ったが、せっかくだし聞く事にした。



「高尾家の跡取りで、達也様に一番近くにいた貴方は彼にどう思いましたか?」


「自分の考えでよろしいでしょうか?」


「ええ、良くも悪く思っても構いません。貴方が思った事を言ってください」


「分かりました……そうですね。まず、第一印象は、ただの17歳の子供だと思いました」


「……それで?」


「会話をしていくうちに、冷静に未来を見据えている事が分かりました。高尾家の跡取りで、第一者の味方でも無く、第二者の味方でも無い、第三者の地位にいる上で冷静に観察しておりました」


「そうですか……他には?」


「他は、争い事は嫌っておりました。面倒くさいと言うのが口癖にもなっておりました。噂でも、お人好しとか弱者、卑怯者と良い話を聞きません」


「所詮、噂は噂。本当の達也様を理解していない。もちろん、貴方もね」


「……申し訳ございません」


「別に貴方を責めている訳ではありません。まぁ、達也様は確かに野心は無さそうですけど……余程の自信家よりも紳士で魅力の一つですから、良しとしましょう」



 【鼠】の回答に満足した私は下がるように言い伝え、襖から見えた人影は消えた。


 それを確認した私は、写真を谷間から取り出して恍惚の表情となり、眺めていた。何度も何時間も見ても飽きない写真に軽く口付けをして木箱の中にしまった。



「はぁ、愛しの達也様……いつになったら達也様の【物】にしてくれるのでしょうか。達也様の物にしてくれるのなら、高尾家の権限や地位を差し出すのに……」



 達也の事を思いながら震えている自分の体を両手で押さえながら感じていた。






「ああ、早く……貴方の【物】になりたい」








ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る