3ー3





「昼ぶりだな、達也」






 目の前には、スーツ姿でニヤリと不敵な笑みを浮かべている香坂 澪がいた。

 

 その後ろには、手間取って焦っている海堂がおり、香坂のせいだと言うのは見てすぐ分かった。



「で?今夜はどんな用件でしようか、代表取締役さん?」


「夜の時も香坂で構わないよ。私と君の仲だろ?」


「はぁ……まぁ良いや。そこに座って少し話そうか」



 俺と香坂は迎え合うように座り、少し話をしようとした。一対一で話したいと言って海堂には出て行ってもらう事にした。



「すみません、会長……」


「お前が苦労した事はよく分かる。けど、今はこいつと一対一で話したいから数分だけ時間をくれ」


「分かりました。それでは失礼します」



 海堂はそのまま会長室から出て行き、この部屋には香坂と俺しか居なかった。

 俺は聞きたいこともあり、さっさと本題に入ろうとしたら香坂はニコッと笑った。



「君が言いたい事は分かっているよ。瀧川の事だろ?」


「流石は、行政関連の者と太いパイプを持っているだけはあるな」


「ふふ、そう褒めると照れてしまうだろ?」



 あらがち褒めてはいるようで嫌味に言っただけなのでノーコメント。



 香坂 澪はさっきも言っていた通り行政の者達との太いパイプを持っており、彼女自身は財閥のご令嬢で自分の会社をいくつも持っているのだ。



「まぁ、瀧川が素直に裁判を受けるとは思ってはいなかったし、裏で何かするだろうと考えていたがーー」


「あぁ、なら警察に圧を掛けるか、金を積んで裁判官や検事でも買収するつもりだったがーー」



「「香坂 澪と言う女がそれを邪魔をしていた」」



 そう言うと香坂は嬉しそうにし、一枚の書類を達也に提示した。


 その書類には、瀧川派閥幹部の5人の内、二人の中年男性の写真が載っていた。



「この二人は?」


「瀧川の幹部の二人でな、内部分裂を起こした本人達でもあるんだ」


「それを知っていると言う事は……」


「私が裏で手を引いていた……という事だな」



 自信いっぱいで言ってきた香坂にやっぱりなと思い、じっくりと書類を黙読した。それと同時に香坂は話を続けた。



「この二人は瀧川派閥の幹部だったんだが、瀧川に不満を持つ者でもあったんだ」


「………それで?」


「私が瀧川 響を裏切るように裏で促したんだ」


「それでも簡単には裏切らないだろ?いくら馬鹿な奴でも裏切った後の失敗した時のデメリットぐらいは考える」


「それでーー他の派閥の登場だ」



 なるほどね、疑問に思ってた事が全て合点が付いたよ。約七割は考えていた予想が全部当たり、スッキリした。



「瀧川派閥幹部の二人には裏切った後、他の派閥に入れる用の道を作っておいたんだ」


「それに関しては他派閥は言って無かったのか?」


「他の派閥の主達は、大々的に活動している瀧川派閥を元々邪魔だと思っていたし、喜んで協力してくれたよ」


「可哀想だねぇ、瀧川は自分が何もしなくても自分の派閥が助けてくれると思ってたんだろうなぁ」



 だから、瀧川が警察に捕まると同時に内部分裂が起き、他の派閥が迅速に行動出来たんだな。


 しかし、香坂がそんな手間をするような事を何故するのか?自分にとって利益があったのか?と新たな疑問が浮かんできた。




「お前がそれをする理由はなんだ?金か?地位か?」




 目を細め、少し睨みつけるように香坂を見たが、それを気にも止めずソファーから立ち俺の後ろに回った。


 一応は、警戒したが香坂は問答無用で俺に近づき耳元で言ってきた。






「全ては、君の為だよ」






 耳元に香坂の吐息が当たった。



「俺の為……?」


「そう、全ては君の為。瀧川が君に関係していなかったら私は気にも止めずそのままスルーしていただろう」


「しかし、俺は瀧川と関係していた」


「だから、潰す事を決めた。私の達也に手を出すやつは誰であろうと許さないーーとね」


「お前が俺を思う気持ちは重過ぎて持ち切れないわ」




 どんだけこいつは俺の事好きやねん、重いわ。俺の為に政治家の一人を潰すって……狂気の沙汰やな。


 かと言って、香坂が裏で手を引いて無かったら、また面倒な事になったのは確か。今回ばかりはお礼を言っておこうか。




「今回ばかりは助かった。一応礼は言っておく、ありがとう」



 

 普通にお礼を言っただけで、特に意味とかは無いが後ろでは香坂がいつも以上に喜んでいた。



「あ、あの達也が……私にお礼を言った!?」


「ちょ、ちょっと待て!首が……しまる……」


「達也よ、私は心の底から嬉しさと言う感情が溢れ出て自分の体を制御出来てない」


「そんな事は良いからこの腕をどかせ!逝ってまう、ほんまに逝ってまう!」



 後ろにいた香坂は俺にお礼を言われた嬉しさの余り、俺の首を絞めるように抱きついてきたのだ。


 香坂の大きな胸が当たっているが、そんな事よりほんとに逝ってしまうかの瀬戸際で俺は必死に香坂の拘束を解いた。




「お前ぇ……本当に……殺す気やっただろ」


「つい、達也LOVEの思いが溢れ出てきてしまって……」


「そんな思い捨ててしまえ!」




 何やねん、達也LOVEって。某アイドルグループのTシャツみたいな言い方すな。そのおかげで香坂の腕締めで逝きそうになったんだからな。


 香坂の周りにはハートがポワポワと飛んでいるように見えた。

 

 


「で、もう用事も終わった事だし、さっさと帰れ」


「そんな冷たい事言うなよ……私だって本題を言って帰ろうとしたけど、こんな事になったら……もう帰れないな」


「もう、良いから帰ってくれても良いよ」




 瀧川の件でも疲れているのに、ここで肉体的にも精神的にも疲れないといけないんだよ。しかも、お礼を言っただけやで?




「さぁ、達也よ。ホテルに行こう」


「何でやねん、何で行かんといけねぇんだよ」


「私の体は今、最高に熱くなっている。それを、冷める為にラ○ホテルに行こう」


「もう……頼むから……帰ってくれ」




 何故か、気分が最骨頂にいる香坂は何処とは言わないが大人と大人がイチャイチャするホテルに行こうと迫ってきた。




 そんな香坂を見て、俺は大きなため息をついた。









「あー、ゲロ吐きそう」










ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。


短くてすみません。

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