第5話 鉄を殺した技術

”魔法”


 かつて銀髪の賢者が作り出したとされる時代を変えた技術。


 森の民にのみ伝承された秘術を、どうにか人間にも使えないかと考えた彼は、一人の森の民を攫い、秘匿されていた神秘を解析した。


 そして彼独自の解釈を加え、人間にも使えるように改良した技術が ”魔法”。


 その技術は、かつて文化の根幹にあった ”鉄” の技術を遙かに凌駕する利便性で、瞬く間に世界中に広がっていった。


 それから数千年、いまや ”鉄” の文化は完全に廃れ、世界は魔法が支配している・・・。










「・・・という事です。理解しましたかお嬢様?」


 屋敷の書斎で、歴史書を広げながら、リノが懇切丁寧に ”魔法” について解説してくれた。


 小一時間ほどリノの講義を受けたシャーロットは、難しい顔をして頷く。


「あー、オーケィ? とりあえずオレの常識がクソほどの役にも立たねえ事は理解した」


 シャーロットは混乱していた。


 先ほどまでシャーロットは、死んだ後にどこか遠い国の、貴族の少女に生まれ変わったくらいに考えていた。


 まさか ”全く別の世界” に生まれ変わっているなんて、予想外にもほどがある。


「それで・・・今のオレには ”魔力が無い” ん・・・・・・だっけ?」


 シャーロットの問いかけにリノは小さく頷いた。


「・・・残念ながら。お嬢様は何者かによって、強力な呪いをかけられました・・・対象者の生命力と魔力を根こそぎ吸い尽くす、死の呪いを」


 そんな呪いが、こんな少女にかけられる理由・・・・・・考えられるのは、大貴族だという親が恨みをかっていたか、もしくは ”シャーロット自身が” 恨みをかうような事をしていたのだろう。


 流石のシャーロットも、その話を目の前の長身のメイドに聞くことは躊躇われた。ただでさえ、シャーロットの素行の悪さで気苦労をかけているのだ、これ以上彼女に負担をかけるのは本意ではない。


 故に、シャーロットは別の質問をすることにした。


「・・・この呪いを解く方法は?」


「呪術者が解除するか・・・もしくは呪術者自身を殺すことです。お嬢様が呪われたその日から、旦那様は全力を持って呪術者を探していますが・・・・・・まだ見つかっておりません」


 旦那様・・・まだ見ぬシャーロットの父親は、聞くところによると随分と苛烈な人間らしい。


 しかし、真剣な顔で語るリノの姿を見て、シャーロットにはとある疑問が浮かんだ。


「・・・でもさ、魔法が使えないことで、デメリットなんてあるの?」


 意外にも、その問いに対しての答えはNOであった。


「いいえ。平民ならばともかく、貴族のアナタにとってデメリットはそれほどありません。学園では少し辛いかもしれませんが、お嬢様は卒業後の事も決まっておりますしね」


「卒業後?」


「? ・・・ああ、そうでしたね。記憶を無くされているのでした。お嬢様は卒業後すぐに、婚約者であらせられるノワール殿下と籍を入れるのです」


「・・・・・・WHAT?」


 婚約者?


「さて、少し長引いてしまいましたね。今日はここまでにしましょうか。お嬢様の体力も回復してきたようですし、明日は旦那様と会っても大丈夫かもしれませんね」


 そう言って書斎から連れ出されるシャーロット。あまりの情報量に、シャーロットは心此処にあらずといった様子でフラフラと歩いて行った。


(・・・・・・婚約者だって?)


 シャーロットは深い深いため息をつくのだった。




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