第5話 鉄を殺した技術
”魔法”
かつて銀髪の賢者が作り出したとされる時代を変えた技術。
森の民にのみ伝承された秘術を、どうにか人間にも使えないかと考えた彼は、一人の森の民を攫い、秘匿されていた神秘を解析した。
そして彼独自の解釈を加え、人間にも使えるように改良した技術が ”魔法”。
その技術は、かつて文化の根幹にあった ”鉄” の技術を遙かに凌駕する利便性で、瞬く間に世界中に広がっていった。
それから数千年、いまや ”鉄” の文化は完全に廃れ、世界は魔法が支配している・・・。
◇
◇
「・・・という事です。理解しましたかお嬢様?」
屋敷の書斎で、歴史書を広げながら、リノが懇切丁寧に ”魔法” について解説してくれた。
小一時間ほどリノの講義を受けたシャーロットは、難しい顔をして頷く。
「あー、オーケィ? とりあえずオレの常識がクソほどの役にも立たねえ事は理解した」
シャーロットは混乱していた。
先ほどまでシャーロットは、死んだ後にどこか遠い国の、貴族の少女に生まれ変わったくらいに考えていた。
まさか ”全く別の世界” に生まれ変わっているなんて、予想外にもほどがある。
「それで・・・今のオレには ”魔力が無い” ん・・・・・・だっけ?」
シャーロットの問いかけにリノは小さく頷いた。
「・・・残念ながら。お嬢様は何者かによって、強力な呪いをかけられました・・・対象者の生命力と魔力を根こそぎ吸い尽くす、死の呪いを」
そんな呪いが、こんな少女にかけられる理由・・・・・・考えられるのは、大貴族だという親が恨みをかっていたか、もしくは ”シャーロット自身が” 恨みをかうような事をしていたのだろう。
流石のシャーロットも、その話を目の前の長身のメイドに聞くことは躊躇われた。ただでさえ、シャーロットの素行の悪さで気苦労をかけているのだ、これ以上彼女に負担をかけるのは本意ではない。
故に、シャーロットは別の質問をすることにした。
「・・・この呪いを解く方法は?」
「呪術者が解除するか・・・もしくは呪術者自身を殺すことです。お嬢様が呪われたその日から、旦那様は全力を持って呪術者を探していますが・・・・・・まだ見つかっておりません」
旦那様・・・まだ見ぬシャーロットの父親は、聞くところによると随分と苛烈な人間らしい。
しかし、真剣な顔で語るリノの姿を見て、シャーロットにはとある疑問が浮かんだ。
「・・・でもさ、魔法が使えないことで、デメリットなんてあるの?」
意外にも、その問いに対しての答えはNOであった。
「いいえ。平民ならばともかく、貴族のアナタにとってデメリットはそれほどありません。学園では少し辛いかもしれませんが、お嬢様は卒業後の事も決まっておりますしね」
「卒業後?」
「? ・・・ああ、そうでしたね。記憶を無くされているのでした。お嬢様は卒業後すぐに、婚約者であらせられるノワール殿下と籍を入れるのです」
「・・・・・・WHAT?」
婚約者?
「さて、少し長引いてしまいましたね。今日はここまでにしましょうか。お嬢様の体力も回復してきたようですし、明日は旦那様と会っても大丈夫かもしれませんね」
そう言って書斎から連れ出されるシャーロット。あまりの情報量に、シャーロットは心此処にあらずといった様子でフラフラと歩いて行った。
(・・・・・・婚約者だって?)
シャーロットは深い深いため息をつくのだった。
◇
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