土と光

「ほらほら、なんか面白い事してよ。思い付かないの?」


 ケルンの攻撃に対し防戦一方になる。

 光の閃光が私の右肩を貫く。血が吹き出す肩を手で押さえる。


「うーーん、もう少し追い込んだ方が良いのかな? 目が死んでないからまだ行けるよね」


 ケルンがウインクしながら私を指差す。


 そのまま私に突っ込むと2本の剣を振る。私も盾と剣で対抗するがすぐに防戦一方になってしまう。


「強い、ちょっとでも自分の力が通用すると思ってたのがバカみたい」


 ぼやくがどうにもならない。額の汗を拭う暇もない、心が焦りで満たされそうになり始めたとき、


 ドーーーーン!!


 大きな音がして地面が爆発し高さ4メートル程の砂煙が上がる。

 その爆発が移動しながら次々と起こり砂煙が舞い始める。


 まばたきをする間もなく気付けば、ケルンがノームに両足で蹴られ吹き飛ばされて転がっていく。


「後輩! よく耐えたですぅ。後は任せるですぅ」

 

 傷だらけの私に背中を向けたまま話しかけて、前に1歩踏み込んだと思ったら姿が消え、次に見えたときには倒れていたケルンを蹴り飛ばし壁に叩きつける。


「ちぃ! ノームが何でここに、魔物の群れはかなりの範囲でばらまいたはず。いくら弱くてもあの数では時間がかかるはずなのにさ」


 すぐに体制を立て直しノームと向き合うケルンに自信満々にノームは答える。


「そんなの簡単ですぅ、ほったらかしてきたに決まってるじゃないですかぁ。先輩方に押し付けたんですよぉ」


 再び視界から消えケルンを蹴りあげ空中へ打ち上げると、ノームも追従し拳で連撃をくわえる。その背中に砂を背負っておりその砂が無数の拳のようにノームの拳と一緒にケルンに打撃を与える。


 その攻撃から逃げるように地上へ戻るケルンの足に地面から伸びた砂が巻き付き地面に叩きつけられる。


「足元を見ないとすくわれますよぉ」


 ノームは地上に降りると砂の球体が体の周りを浮遊し始める。


「もぐら、本気で行くですよぉ」


 目が茶色い光を放ち始め、茶色い髪に小さな粒のような光がさらさらと流れ始める。

 手足は茶色い光に包まれ光る。


「魔女の力を完全に発現してなくてこの強さとかふざけてるね」

「ケルン先輩がちゃんと修行しないからですよぉ」


 ノームがバカにしたように言う。


「ノーム、きみは1番他人に興味ないと思っていたけど、灰の魔女は気に入ってるみたいじゃないか」


 口から溢れている血を拭いケルンが立ち上がる。


「ノームにとって初めての後輩ですからねぇ。先輩として助けてやるのは当然なのですぅ」

「へぇ、自由奔放でワガママなきみがね」

「勝手に言ってるといいですぅ。ノームも成長するですよぉ」


「それは面白い、ね!」


 とケルンが言うと同時に無数の閃光がノームではなく、私の方へ向かってくる。


 地面が爆発し土柱が立ち、土に閃光が飲み込まれていく。

 砂塵が宙を舞い視界がゼロになる。

 その砂塵の中で茶色の光が激しい光を放つ。


 茶色の光が駆け抜けてから大分遅れて、その砂塵を吹き飛ばすような暴風が起き砂が撒き散る。

 次に状況が分かったときにはケルンの右肩から先は無く、ノームに一方的に殴られていた。


「そう言うとこが嫌いなんですよぉ! ちゃんと戦える力があるのにすぐズルしようとするぅ!

 お前は効率って言うけど、効率とズルは違うって言ってるですぅ!」


 ケルンが立ち上がろうとすると足が砂に飲まれ地面に沈む。ノームが砂の刃でケルンの右足を切り離し、左胸を貫き宙吊りにする。


「ケルン! お前はそんな事をしてまで何を求めるですかぁ!! そこに満足はあるのですかぁ!!」


 ノームが動かないケルンに怒鳴ると死んだと思っていたケルンが喋る。


「ふふふ、ノームは気付いてたんだね。流石だよ」


 ノームが砂の刃を抜いて間合いをとるとケルンは地面に落ちるがすぐに上半身を起こし右足を引っ付ける。

 そのまま立ち上がり右腕を拾い引っ付ける。


「ふむ、動作良好っと」


 準備運動のように手足をぐるぐる回す。


「魔物と天使の魂を取り込んだのですかぁ。本当にバカな奴ですぅ! そこまで行くと本当にただの化け物ですよぉ!!」


「そんなに言わないでくれる。こっちも色々苦労したんだからさ。

 でさ、ノームにお願いあるんだけど。きみさ、まだ本気じゃないよね。正直に言うけどわたしはノームには敵わない。

 だからそこの灰の魔女と1体1で戦わせてよ。実力が近いもの同士でこの戦いに決着をつけたいんだ」


 いたずらっ子ぽい笑みでノームにお願いする。


「お前はバカですかぁ、そんな事了承するわけ……」

「うっそーー♪ 油断しちゃって!」



 さっきよりさらに多くの閃光が私に飛んでくる。傷が大分癒えてきた私は後ろに下がりながら閃光を受けようとする。


「しまったですぅ!!」


 ノームが言ってる間にも閃光は進む。

 私は受け止める為に力を入れるが閃光は私に届くこと無く霧散していく。


「大丈夫? 葵ちゃん」


 リエンさんが目の前に立っている。水の壁で光は打ち消されていた。


「あ、ありがとうございます。ってリエンさん離れられないんじゃ!?」


 ちらっと私を見て微笑む。


「良いの、ほったらかしてきたわ。ちょっと位良いでしょう。

 環境も大事だけど、わたしは葵ちゃんの方がもっと大事なの!」


 ケルンはリエンさんの姿を見てかなり動揺しているようだった。


「リエン! きみが動くとかどうかしてる。魔界の森の修復はどうしたのさ」

「ふふ、久しぶりね、ケルンちゃん。大切な人を失う後悔を2度としたくないの。だからじっとなんかしてられないわよ。

 森の修復はたとえ初めからでもまたやれば良いのよ」


 そう言ってリエンさんがノームさんを見る。


「ノームちゃん、私たちの作戦を無視した動き良いわ! その行動力感心しちゃった。これでわたしもメイに怒られるわね」


 いたずらっぽく笑う。


「あれ? 怒られると思ったですけどぉ。リエン先輩が味方なら心強いですけどぉ」


 ちょっと怒られるのを警戒する感じでノームさんは私に近付いてくる。


「後輩、大丈夫ですかぁ?」

「ええ、大丈夫です。ノームさん助けてくれてありがとうございます」


 ちょっぴり照れた感じでノームさんが頭を掻く。


「先輩として当然ですぅ。後輩は寝ておくと良いですぅ。こいつはノームとリエン先輩がやるですぅ」


「あの、私がやります!」

「葵ちゃん意地を張ってもしかたないのよ。ここはわたしがやるわ」


 私の訴えをリエンさんが否定する。


「ケルンとの戦いは私がケリをつけたいんです。

 我が儘言っているのは分かってます。それでも!」


 リエンさんは空に映る映像を見る。トリスがアイネと共に散る。ミカがアリエルと死闘を繰り広げている。

 少し諦めた顔をしてリエンさんが優しく話す。


「はぁ~、そう言う意思の強い目をするのは何なんでしょうね。

 これが終わったら修行の続き厳しく行くわよ。それとお茶にもちゃんと付き合ってもらうわね。

 後、最後に無理と判断したらすぐに止めて交代ね。

 ノームちゃんは何かある?」


 ノームさんは初めから考えていたようで即答する。


「人間界を案内するですぅ! メサイアに聞いたですよぉ、お買い物に行くって。

 ノームと後輩の2人で別の日に行くですぅ!それでこの場は譲るですよぉ」


「分かりました、約束します」


 3人の会話を大人しく見ていたケルンはニコニコしている。


「話しまとまった? 灰の魔女が相手してくれるならわたしにも希望が見えてくるよ。リエンとノームの相手は勘弁してほしいからね」


 私は1歩前に出てケルンに宣戦布告する。


「私が相手するよ!」

「いいよ、やろう」


 ケルンが嬉しそうに答える。

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