各地の戦い
天使兵の部隊は魔物討伐の命を受け、空と地上部隊に別れ南へ進軍していた。
「イベリア隊長、こんなこと今聞くべきではないのは分かっていますが、今回の作戦なにかおかしくありませんか」
「分かってる私も感じる事はある。だが命令なら行くしかないだろう」
ピッ!!
笛の音が鋭く響く。先行隊の進行停止の合図だ。
「なんだ、何があった」
イベリアの問いに隊員が素早く答える。
「敵と思われます。空中に立っています」
「立つ? 飛んでいるのではなくてか?」
イベリアは前を確認する。報告通り緑髪の女性が空中に立っている。
女性はゆっくり歩いてくる。足が着いた空中に波紋が広がる。
「だれだ!」
イベリアの問いに答える事なく女性は通りすぎると同時に心地よい風が吹く。
イベリアを含め12人の隊員は糸の切れた人形のように地上に落ちていく。
「人を殺める趣味無いんだけどな。
こっちも余裕無くてね、恨むなら予定より早く動き出した自分らにして欲しいね。
寝起きの悪いメイは怒ってるよ多分」
ため息をつきながらアイレは地上に降りていく。
***
「完全に寝坊したのじゃ!! どくのじゃ!」
雷鳴とともに森を駆けていくメイ。通った場所にはそこにいたであろう者の跡だけ残る。
「新種の魔物が多いの、もう少し前線に上がってみるかのう」
更に新種の魔物が増える、そしてメイの前には魔物を鎌で斬っている舞がいた。
「マイ! なにをやっておるのじゃ、こんなところまで下がって来おって」
メイが辺りの魔物を雷で焼き払う。
「おぉ! さすがだな、助かった。
ちょっと魔物の発生源探してたら思いの外、下がり過ぎた。てかお前も上がり過ぎじゃないか?」
「そんなことはどうでもいいのじゃ。発生源はわらわが潰しておくから、マイは行くのじゃ」
「メイも来るか?」
舞の言葉にメイは真剣な表情になる。
「前も言ったであろう、わらわが出ても仕方ないのじゃ。
昔、こことは違う場所で小さな国の手助けをしたとき何があった。悪政を終わらして次に渡しても結局、魔女様、魔女様じゃ。
自分達でやろうとせん。そしてすぐ同じような道を歩む。自分達の手でゆっくりで良いから建て直して自分達の国を作って行くことが重要じゃ。
ただ今回は葵がいてミカとマイがいる。戦いが終わった後お主ら3人の存在は大きいのじゃ。
何より葵は天使と魔女と魔物の架け橋になれる、いや現にもうなっておるのじゃ! だから──」
熱く語るメイを見て舞は笑う。
「ふーーん言うようになったな。あの泣き虫が立派になったもんだ」
「なっ! 泣き虫ではないのじゃ! 言うでないぞ! わらわの魔女としての威厳に関わるのじゃ!」
メイは顔を真っ赤にし尻尾の先まで毛を逆立てる。
「はいはい、じゃあ頼んだ! あたしは行くわ」
舞は一旦進みかけてメイの方を振り返る。
「メイ、寝坊するなよ。頭と尻尾寝癖ついてるぞ、じゃ!」
そう言って走っていく。
「ぐぬぬぬ、あいつの前だとやり辛いのじゃ」
そう言いながら頭を押さえ尻尾を確認する。
「本当じゃ、寝癖があるのじゃ……」
***
天使の町を囲うように高さ10メートル位の土壁があちこちの設置されている。
これにより地上から攻める部隊と魔物の動きがある程度制御出来る。
「なあ、これはなんだ?」
ある1区画を警備している竜人族の男は狼の獣人族の男に聞く。
「ああこれか?
「ほう、凄いな。まあ我々だけで対処出来るだろう。魔女様の手を煩わせる事はないさ」
「だよな、我々も日頃の鍛練の成果をみせる時だからな」
「敵だーー!! 天使の軍隊80人はいるぞ!! みんな配置につけ!」
仲間が敵襲を知らせる。
竜人族の男は獣人の男に言う。
「それ叩いた方が良いと思うぞ」
「だな」
獣人の男が土に埋まっている鉄の棒を小さな木槌で叩く。
グワーーーーン
低く小さな音がする。
「こんなんで良いのか?」
「ああ、そう習ってる」
2人が心配そうに棒を眺めている。
天使の軍隊の先頭が確認出来るぐらいになり防衛する皆に緊張が走るそのとき──
「ひゃほーーーーいですぅ!!」
この場に相応しくない明るい声が響く
砂をサーフボードのようにして地面を滑り物凄い勢いで砂塵を撒き滑りながらノームが現れる。
「よっとぉ!」
天使の軍隊に近づくと空中でボードごと宙返りし飛び越える
「もぐらーーーーやるですぅ」
ノームの後ろを走っていた砂塵が意思を持ったように動きだし大きなワニの口のように開き天使の軍を全て飲み込む。
このとき周りの木や草1本倒さず天使兵だけ飲み込む。一瞬砂の中に赤いものがバッと混ざるが直ぐに消え、ノーム走る方へ向かっていく。
「次はあっちですぅ」
声が遠くなっていく。
「魔女怖いな」
「だな」
この後この2人は種族を越えて親友となるがこの話とは関係ない。
***
前線の簡易病院に怪我をした者が運び込まれる。今のところ魔女達のお陰で命を落とすものはいないが戦闘が始まれば怪我をする者はいる。
エルフのエルシリアをはじめとした回復師は忙しそうに走り回る。
「サキ様どこへ行かれるんですか?」
コルの声でサキは止まる。
「ああ、ちょっとな」
手袋をはめながら答える
「止めてもダメですか?」
「あぁ何が出来る訳じゃないけど何かやりたい」
ふーーと深いタメ息をつくとコルは体を起こしベットの端に座る。
「リング」
コルは頭上のリングを取る。
「サキ様、止めても行くのなら止めません。ですからコルが出来ることをやらせてくれませんか? 武器を出してください。
コルのリングは道具の整備が出来ます。刃こぼれまでは直せませんが切れ味は良くなります」
「それは助かる。コルはリングが出せるんだな。うちの隊にくるか?」
「前線はもう嫌です。それよりミカ様にコルを売り込んでください」
「ああ、約束しよう」
サキの返事にコルのリングを持つ手に力が入る。
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