アイネと葵

 私の目の前にいる元天使のアイネ。背中に羽はなく代わりに2本の腕が生えている。

 失った右手にも黒く脈打つ腕がついておりこの3本の腕が自由に延び左手に持つ剣と合わせ4本の剣で襲ってくる。


 一番厄介なのは火が絡みとられること。前に見たリングの力だと思われる。恐らくだが私に対抗する為だけに火の対策をしてきたのだと思う。


 イグニスをショットガン状にして火の銃弾をばらまく。

 流石に避けきれないのか数発当たるがダメーは無さそうだ。

 火の粉を集め渦巻きファイヤートルネードを放つが4本の腕で絡めるように火をすくって飛散させる。


「どうした灰の魔女! 自慢の火が役に立ってないじゃないか!」


 4本の腕が私を襲う。

 剣と空中に配置してある盾のイグニスを使ってアイネの剣をさばいていく。

 今のところお互い決定打がない状況だ。


 前回アイネと戦ったことを思い出す。

 魔女になってここまで強くなれるものなのかと感じていた。全く負ける気がしなかった。

 命を奪える自分を作るためにもっと残酷なことをしても平気なのか試した。

 その結果アイネの腕を切り飛ばしてしまったのだが……


 意識を戦いに戻す。目の前にいるアイネ。魔女化して手を増やし体を改造? してこの戦いに望んで来た訳だ。その覚悟は凄いものに違いない。


 アイネの剣を弾き体をイグニスで斬るが火は絡みとられ斬る前に飛散する。


「私を斬ることは出来ないぞ! お前に私を倒す術はない!」


 アイネは叫ぶ。


「アイネ……さん、1つ聞きたいんですけど、その力を手に入れる為に魔女食いをしたんですか?」


 私の質問に目に狂気の光を宿し笑いながら答える。


「ああ! 食べたさ! 怯える魔女を殺して食べてやったさ!」

「……」


 一瞬怒りの感情がよぎる。だがもう1人の冷静な自分がそれを諌める。

 ここまで追い詰めたの私のせいだ。あの時ちゃんと戦えば良かったのか? それとも殺してしまえば良かったのだろうか?……分からない。

 結局何をしても大なり小なり後悔は付いてくるものなのだ。後悔することも覚悟して生きていくつもりだったものの、いざその場面になるとやっぱり悩んでしまう。

 弱いな私……


「アイネさん、凄く勝手な事を言わせてもらいます。貴女をその姿にした原因は私です! 

 それでも今、私にはやるべき事があります。その邪魔をするなら全力で行きます! 

 引けとは言いません! 全力で来てください!!」


 私はアイネの剣を避け左足を一歩踏み込む。右足で回し蹴りをしてアイネの左首の根本に打ち込む、その右足を軸に回転し左足の裏で顔面を横から蹴り飛ばす。私の手足の赤い火が赤い軌跡になり円を描く。


 アイネは横に吹き飛ぶ。


「な、なに!」


 なんとか倒れずに前屈みになりつつ踏ん張るアイネに、間合いを詰めていた私は左拳でアッパーで無理やり体制を起こさせると無防備なお腹に右の拳を打ち込みイグニスに爆発を起こさせる。

 爆発が起きてアイネは大きく後ろに下がる。

 

 口から血を流すアイネに追い討ちをかける。拳や蹴りを打ち込む度に爆発を起こす。私が動いた後には赤い火の軌跡が引かれ、爆発で火の粉が舞う。

 10発位打ち込んでやめる。効いてはいるがアイネの回復スピードが早いのか致命傷にならない。

 左目か……

 

 私はアイネが落とした剣の持ち手を踏みつけ、空中に浮いた剣を手に取りアイネの左目を斬る。


「あぁぁぁ!!」


 アイネが左目を押さえなが悶える。


 体の内側から感じる。イグニスの渦巻く力の流れを。

 小さな火が空気を取り込み大きく成長しやがて空気をも焼くような熱量を持ち、息をするだけでも肺が焼けるであろう熱さを放つ。

 炎の渦の中心に灰が燃えるようにチリチリと火の粉が髪の毛を初め、いたるところから舞い上がる私が立つ。


 イグニスの剣を振り上げる。アイネが受け止めた剣ごと焼き始め火を絡めようとするアイネの腕をも焼く。


「ぐうぅぅああああああ!」


 一瞬火に巻かれるが、耐性のお陰か消える。だが、いたるところに火傷を負っていて苦しそうだ。


 私はアイネを見る。目が合うとアイネが叫ぶ。


「なんで、なんでお前に勝てない! なんで!!」


 アイネは叫ぶと背を向けて走って逃げ出す。


「追いかけ……なくても良いかな。とにかく舞をこっちに──」


 舞を確認しようとしたら魔物の群れが現れる。


「町中にもいる訳だ。惹き付けながらアリエルの方に向かった方がいいのかな」


 私は魔物を惹き付けお城の方へ向かって走り始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る