オー・ドゥ・シェーヌ
ニサはナグアルの姿を求め走り始める。
途中矢が飛んで来るが弾き、飛んで来た方目掛けウンディの穂先を投げてみるが手応えは全くない。
「矢が飛んで来た方にいる訳ないじゃん! 本当にバカじゃん」
住宅地にナグアルの声が響く。
「くっ、必ず見つけ出してみせるわ!」
ニサの声は虚しく響く。
とにかく走ってナグアルの姿を探す。住宅地の裏道や家の中、とにかくあちらこちらを。時には玄関を破り、溝の中に入って探す。
何度もナグアルの罠に阻まれるが、血を流しながらも必死で走り探し回る。
必死に探しているニサを家の中に隠れ窓から見てナグアルは、ほくそ笑んでいた。
「あいつ本当にバカだ。姉があれだけ頭良いから警戒してたけど、笑える、プププ、ハハハッ」
ナグアルは体格や才能に恵まれず部隊でも天使兵の1人として雑務を行っていた。
リングの能力、索敵により他のメンバーより重宝されていたが戦闘においては役に立たず、中途半端に重宝されるので仲間から妬まれる事もあった。
ある日仲間の1人が森の巡回から帰ってこないので捜索を命令された。
自分を含め4人で捜索を行った。
仲間の場所はすぐに把握出来たけど、大体この辺りにいるから別れて探しましょうと嘘をついた。
仲間の反応は動いていなかった。これの意味するところは大体が死んでいる。
最初に自分が一番に発見してちょと誉められようと思って嘘をついたのだった。
ちょっとした虚栄心。
仲間を見つける。自分を妬み時に邪魔をしてくる奴だった。トラバサミに挟まれ動けないようだった。
賢い魔物は罠を仕掛け天使を狩ったりする。恐らくその類いだろう。
ナグアルを見つけると、パッと明るい顔をして涙を流した。孤独と恐怖から解放された顔。
繋がれて動けない仲間。ちょっと嫌いな奴……
剣を召喚する。斬る、刺す、叩く……動かなくなる。
「なーーんだ、ナグアルにも出来るじゃん」
それから覚える、相手に見付からずに一方的に敵を倒す方法。
強い相手が何も出来ず、恐怖で怯えながらゆっくり弱っていく様がたまらない。
足の自由を奪い動きを制限し、手を痛め付ければ攻撃も出来ない。逃げれない相手をゆっくり弱らせていく。
死ぬ時まで絶対に姿を見せない。最後に自爆覚悟で何かされてはいけないから。
玉砕覚悟ほど怖いものはないと知っている。
だからこそナグアルは強い。あいつはどうしてやろうか。バカみたいにナグアルを探してるけど位置を完全にこっちが把握している状態で見つけられる訳がない。
一定の距離を保ちつつ移動しているのだから。
さて、罠の種類はまだ沢山ある。どれにしよう。串刺し? 張り付け? 顔だけ燃やすのもおもしろそう♪ 檻に閉じ込めて弓を射ってみようか、考えただけでワクワクする。
ナグアルは移動を開始しようとする。
ジャラッ
小さな音がする
「なに?」
ナグアルは音のした右足の方を見る。細く青い線が足首に巻き付いている。
手で触る、ひんやり冷たい。よく見ると細い鎖のようだ。
周りを見回す。さっきまでは絶対になかったはずの青い鎖があちこちに張り巡らされて淡い光を放っている。外へ出る。
住宅地の至るところに細く青い光が張り巡らされている。
さっきまで確かに無かった。と言うことはナグアルが何らかの発動条件を満たしたと言うこと。
ニサが無意味に走り回っていた訳でないことに気がつく。
おそらくニサは魔力の宿った線を引いて、ナグアルがそれを踏んでしまったと推測出来たが一足遅かった。
「罠!? 嘘だ! なんでナグアルが罠に!」
1本の青い鎖が ピン! とテンションを持つと建物を細い線で切り裂きながらナグアルの元へ向かってくる。
ザシュ!!
鎖が体に食い込むが魔女化のお陰で完全に切られない。
「あぁぁぁ、なんでナグアルが、こんな、おかしい、おかしい、おかしいよ」
また1本、1本と鎖がテンションを持ち建物ごと切り刻んでいく。
やがて円を描くように住宅地の1区画が倒壊する。
真ん中には青い色の鎖が複雑に絡まり集まる様は芸術性すら感じさせるものがそびえ立つ。
恐らくその中心にはナグアルがいたと思われる。
ニサはウンディの柄の方を持って立っている。
その柄の先にある丸い石からは青く細い光が繋がっていて、倒壊した住宅地に繋がっている。
「オー・ドゥ・シェーヌそう名付けるわ。罠にかかる感想はどうだったかしら?」
空に映る映像を見るメサイアは勝ったみたいだ。
最後の映像が飛んでいる感じがするのは住民に見せられないような勝ち方をしたに違いない。
「ま、わたしも人の事言えないかしらね。城へ急ぎましょう」
ニサは青く光る羽を広げ飛び立つ。
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