第38話 そんなとこだけアニメ通りでなくてもいいんですけど。
おじいさまのことになってしまうと歯止めが効かなくなってしまうのが我がご主人様。
人見知りの設定は一体どこに行ったのかとツッコミを入れたくなってしまいますが、それについては私の心の中に留め置いておきましょう。
学園に来てからなかなかおじいさまにお会いすることが出来ない期間が続いていますから、少しくらいは大目に見ることにしましょうか。
平時であれば私も彼女の話に耳を傾けるところ。
ですが今は警戒心を解くわけにはいきません。
だっておじいさまの話を振った、当の本人が今はつまらなさそうな顔をしているんですから。
そう。どうにもテオさんのことが気になってしまう。
昨日の身勝手な行動といい、そしてこのつまらなさそうな表情といい……やはり違和感を拭うことが出来ませんよ。
でもまぁ、おじいさまの話をして、こんなにも幸せそうな表情を浮かべているので良しとしましょうか。
何かあれば、その時は私がどうにかしてあげますよ。
自分がどんな怪我を負ったって、どれくらい誰を傷つけたとしてもですよ。
……かなり物騒な事を考えてしまいましたよ。いけないいけない。どうにも昨日から血の気が多いですね……反省しなくてはいけませんね。
「―――やっぱりおじいさまはカッコいいですよね? テ……リヒトホーフェン様もそう思うでしょう?」
一瞬テオさんの事を名前で呼びそうになりながらどうにか踏みとどまるエルフリーデ。
彼女もエルフリーデになる前はきっとテオさんの事をずっと名前で呼んでいたのでしょう。身についてしまった習慣はなかなか簡単には変えることはできませんよね。
でもうっかり名前で呼んでしまったら、また痛い目にあうかもしれない。
そう思ってしまうよりも先に身体の方が動き始め、私は4本の脚で立ち上がりながら低い唸り声を上げてしまいます。
その声に少し怯んだ様子を見せますが、すぐに表情は元に戻ります。
「呼びにくいのであればテオをと呼んでくださって大丈夫ですよ」
まぁ私の唸り声なんかよりももっと強い衝撃を昨日見舞われましたからね。さすがにこれくらいでは、すぐに平静を取り戻すでしょう。
「えっと、先日は気が抜けていただけでして……本当にご無礼を申し訳なかったです。あの後ハルカさんにも少し怒られましたし」
「そうですか。彼女、ハルカさんと言う名前なのですね」
……なるほど、分かっちゃいましたよ。
テオさんが昨日の今日でエルフリーデに話しかけてきた理由、わざとらしく彼女が気を良くするような話を振ってきた理由が。
「ん? 家名をご存知でしたので、面識があるモノだと思っていました」
「そうではないのですが。まぁ有名な方ですからね」
「たしかにそうですよね。ハルカさんって有名ですもんね」
そう。グライナー商会の跡継ぎということで元々有名であったハルカさん。
見目麗しい容姿と柔らかい物腰、そしてその頭脳明晰さから周囲に人が集まってくるのに時間がかかるものではありませんでした。
ここで無粋な事を考える人がいるわけですよ。
アニメでそうだったんだから当然だ。予定調和じゃないかってね。
ヒロインが人気あるのは当たり前じゃないかってね。
かつて、OLであった頃もそんな書き込みを良く目にしましたよ。
でもそんなツッコミは無粋というものですよ。あえて言ってしまう事も様式美ではないですか。そんなものにしておいてください。
そんな風に自分一人でニヨニヨとしているとわざとらしく咳払いをするテオさん。
「……カロリング様、一つお願いしたいことがあるのだが」
やっぱりですよ。やっぱり下心があって近づいてきたんじゃないですか。さっきの謝罪もそれのついでかと思うとさすがに憤ってしまいますよ。
エルフリーデさん、一言嫌だって言ってやりなさいよ!
「えぇ、良いですよ」
は? なんで? さすがにこれには私もびっくりさせられます。
だって考えてみてください。よく分からない理由で突然自分に危害を加えてきた人のお願い事なんて聞く必要ありませんよ。
それに内容も少しも聞いていないのに即答で”良いですよ“だなんて答えるなんて……心配になってしまうじゃないですか。
「内容を聞かないで即答とは」
ほら、言った側のテオさんも少し呆れていらっしゃいますよ。
ですがそんな呆れすらも吹き飛ばしてしまうくらいの言葉が、エルフリーデの口からこぼれてきました。
「だって人を傷つけるようなお願いなんていないでしょ?」
それはアニメの中でテオさんの事を知っているからでしょうか。もしそれが答えなのだとしたら、あまりに早計であると私が思います。
ここは確かにアニメの世界なのかもしれません。
私たちが楽しんで見ていた、あの夢のような世界だったのかもしれない。
でもエルフリーデさん、それを大きく変えてしまったのは貴女と私なんですよ?
何もしなければきっとアニメの筋書き通りになっていたでしょう。
でもそれが嫌だから、どうにかしたいからと動き始めたじゃないですか。
だから『アニメで見ていたから』なんて、便利な言葉で誤魔化しちゃダメですよ。
「全く……そんなことではつけ込まれてしまいますよ」
不意にそう呟いたのは少し心配そうな表情をエルフリーデに向けたテオさん。
なんでしょう。さっきまで警戒していたはずなのに、今はテオさんの存在がすごくありがたく感じます。
「で、リヒトホーフェン様。お願いって一体?」
「本当は人に頼るべきことではないのだが……自分ではどう動いても彼女の周囲にいる者たちに邪魔をされてしまうのです」
「彼女って、やっぱりハルカさんのことですか?」
私たちを取り巻くおかしな空気。それを打開しようと矢継ぎ早に言葉を返すエルフリーデ。
まぁ次にテオさんが呟く一言でまたおかしな雰囲気に戻ってしまうのですが。
「えぇ、その通りです。ハルカさんと……話をする機会を、貴女に設けてもらいたいのです」
そんな事を言いながら顔を赤くするテオさん。
本当、こんなところはアニメ準拠なのは何故なのか、簡単に納得なんてしてやりませんからね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます