第11話 突然の襲来

「ワハハハハハ!」男の笑い声が響く。校舎に反響し複数の場所よりその声は聞こえる。

「あの不気味な笑いは・・・・・・まさか、一騎!」シオリはマット飛び降りて、黒煙を凝視した。煙の中に人影が見えた。それぞれの黒煙の中に、一人ずつ同じ姿をした男がいた。

「一騎が、四人いる!?」ムツミ達は、シオリの元に集まった。

「あんたらは、皆を避難させるんや!・・・・・・体育館がええ!早くいくんや! 」駆け寄ってきた美穂と有紀にムツミさんは指示した。

「はっ、はい!」二人は再び、生徒たちの元に駆けていった。

「みんな、準備はよろしくて?いくわよ!」シオリは自分の肩を握り締めて、戦闘スタイルに変身した。「おう!」「はい!」それぞれ返答をしてから、赤、緑、青、黄、四色の眩い光を発してそれぞれの色を基調にしたスーツ姿に変わった。

 運動場の中を割れんばかりの歓声が響く。

「すげー!こんな体育祭初めて!」

「アトラクションのショーみたい!シオリ様素敵!」勘違いした学生達のテンションが上がる。

「ムツミさん!ナオミさんを連れてきて!もう、美穂さんを呼んで説明している時間はないわ!」シオリがムツミに向かって叫んだ!

「・・・・・・えっ、ええかほんまに?」少し身を乗り出してムツミはシオリを見た。

「仕方がないわ・・・・・この状況では、少しでも戦力が必要よ!よろしくてね、フタバさん・・・・・・、ミコトちゃん、イツミさん」シオリは皆に意思確認するように聞いた。皆、ゆっくり覚悟を決めたように頷いた。

「わかった!」ムツミは特工科の校舎へ走っていった。

「二人が戻って来るまで私達で一騎を抑えるわよ!ミコトちゃんは、美穂さん達と学生を避難させてください!それから・・・・・・、お願いね!」

「うん! 分かった。皆、がんばって!」ミコトは、状況を勘違いしてテンションをマックスにして歓声をあげている学生達の元に向かった。


 四人の一騎達がシオリ達めがけて襲いかかってくる。シオリは美しい翼を大きく広げて空中に舞い上がり、イツミとフタバは左右に飛び突進を避けた。と同時に、イツミの手から激しい水流、フタバの手からは高温の炎が噴出し二つの攻撃が絡みあうように渦を作りながら一騎達を攻撃する。

 今度はこの攻撃を一騎は四方に飛び避けた。シオリが上空から黄金に輝く弓を構える。

 地上のうごめく四つの物体に向けて正確に矢を射る。一騎達は起用のその弓を避けていく。

「ちっ!」シオリが珍しく舌打ちをした。


 激しい勢いでムツミは階段を駆け下りていく。壁には一応「廊下を走るな!」の張り紙が張られている。

 相変わらず黒服のガードマンが立っている。

「そこ、どいて!」男達を突き飛ばすような勢いでムツミは部屋の中に飛び込もうとする。

「ちょっと、ムツミさん!何が!」男たちはムツミの勢いに思わず声を上げた。研究室のドアを認証作業をせずに回転しながら後ろ蹴りで蹴破り、部屋の中にムツミは転がり込んだ。

「どうしたの!なにが・・・・・・!」野澤が大きな音に驚いて声を上げる。

「一騎が暴れてるねん!そこをどいて!ナオミちゃんを起こさな!」ムツミは野澤を押しのけてパソコンのキーボードを叩きだす。

「待ちなさい!美穂さんがいないのに、そんなことをすればナオミは!」野澤はナオミを止めようとした。ムツミは野澤の制止を無視するように作業を継続していく。

「一体どうしたんだ!騒がしい・・・・・・、ムツミ!なにをやっているのだ!」北島が飛び出してきた。


 カプセルの中に浮いているナオミの口から小さな気泡が発生する。ナオミを覚醒させようとしている事に気が付いて北島も止めようとする。

「やめるのだ!そんな魂のない状態で、ナオミを覚醒させたら、取り返しのつかない事になるかもしれないんだぞ!」その北島の言葉を聞いてムツミはパソコンを叩く指を止めた。

「あんたら、もう、解っているはずや。美穂ちゃんはおらんでも、ナオミちゃんは・・・・・・!」そう言うと再び、キーボードを叩き始めた。

「あかんやめて!ムツミ!」野澤が叫ぶ。そのイントネーションはいつもの彼女と違うものであった。


 シオリ達は苦戦を強いられていた。

「どうして、一騎が四人もいるのよ!」一騎の攻撃を避けながら、イツミは他の二人に聞いた。

「そんなこと、解らねえよ!それよりムツミ達はまだか!」一騎のマントの中から鋭い槍が無数に飛び出してくる。フタバは一騎が発した攻撃をかわし手から炎を噴射した。

 執拗に一騎の攻撃が続く、フタバは後方に飛んで逃げるが校舎の壁に追い詰められた。


「ちっ!しまった! 」脇の下、股の下、頭の横に一騎の槍が突き刺さり、身動きが出来ない状態になった。「これまでか・・・・・・ 」フタバの表情が苦痛に歪む。

 新しい槍がフタバの顔目掛けて近づいてきた。その瞬間、一騎の頭に金色の矢が突き刺さった。

 一騎の目の中から光が消えて動かなくなった。フタバは目の前の一騎を蹴り体の自由を取り戻した。

「ありがとう!シオリ」上空で弓を構えたままシオリは微笑んだ。

「おまたせしましたー!」ムツミとナオミが立っていた。

「遅いわよ!」イツミは二本の槍を両手で防いぎながら叫んだ。

「本当だぜ!」フタバは後ろ回し蹴りで一騎の頭を蹴り千切った。

頭の無くなった一騎は力なくその場に倒れた。

「えっ、どうして、体育祭は来週のはずではなかったの?」ナオミは運動場の飾り付けを見て驚いた。

「ナオミちゃん!説明は後でするから・・・・・・とにかく、一騎を倒すで!」ムツミは戦いの中に飛び込んでいった。

「えっ、一騎を・・・・・・!?」ナオミは、すこし躊躇してから「はい!」と返事をして、ムツミのあとに続いた。

 ムツミは、残り二つとなった一騎の一方に飛び蹴りを放った。蹴りをかわした一騎がムツミに襲いかかってくる。ムツミは人差し指を向けた。指先は緑色に輝き閃光を放った。

 閃光は襲ってくる一騎の眉間を貫いた。生気を失った一騎はその場に崩れ落ちた。

「残りは、一つ!」ムツミは指先をフーと吹いた。まるでガンマンが拳銃の硝煙を吹き消すようであった。

 残った一騎めがけて上空から強烈な光線が照射された。その瞬間一騎の体が、氷が溶けるように消えていった。


「フハハハハハハ!」光線が放たれた場所から男の笑い声が聞こえた。

「やはり、レプリカでは歯がたたんか!」校舎の上に新たな一騎の姿があった。

ムツミ達は、運動場の中心に集まった。上空から翼を折りたたみながらシオリが舞い降りた。

「いいかげんにしなさい!私達は絶対にあなたと同じ道へは進まない!」シオリが叫んだ。

「俺の目的の為には、お前達の力が必要だ・・・・・・特に、ナオミ!お前の力が欲しい!」一騎はナオミを指差した。

「えっ!私の力?」ナオミは驚き自身の顔を指差した。ムツミが遮るようにナオミの前に腕を差し出し守るような姿勢をした。。

「ナオミちゃんは、ウチらの仲間や!お前に言うことなんか聞くかいな!」ムツミは拳銃を構えるように、一騎に向けて人差し指を向けた。再びムツミの指から閃光が発せられた。

 一騎の顔面に向け閃光は真っ直ぐ飛んでいく。軽く首を傾げて一騎は閃光をかわした。

「そうか! ハハハハハハ!」一騎が手をかざすと、運動場の隅に埋まってある大きな岩が宙に浮かんだ。

「テ、テレキネシス!一騎にそんな力が!」シオリが叫んだ。元々、バーニ達の補助をする為に作られたはずの一騎にそのような力が備わっているはずが無いと彼女が思った。

「これを受けてみろ!」大きな岩がシオリ達めがけて落ちてくる。

「なっ!」シオリ達は岩を両手で受け止める。「うっ!うう!」しかし受け止めたが岩の勢いは止まらない。「うそ!ちょっと!」イツミが声を漏らした。

「五人で押さえてもギリギリなんて・・・・・・!」バーニ達の顔が苦痛に歪む。

「そんな!そんな!」ナオミも力を入れて踏ん張る。

「ナオミちゃん!がんばるんや!」ムツミが励ます!


「やめて、やめて!・・・・・・お父さん!やめて!」その瞬間、ムツミ、シオリ、イツミの目が点になった。フタバは思わず岩から手を離しそうになった。

「皆さん、どうしたんですか!早く押し返さないと!」ナオミの体からピンクのオーラが発生し岩を押し戻した。「あっああ・・・・・・」ムツミ達も、再び岩を押した。

「私、私、私、お父さんには負けない!」

「えっ・・・・・・」ムツミ達はもう一度目を点にして驚きの表情でナオミの顔を見た。

「えい!」ナオミのオーラが色を増して岩を弾いた。岩は運動場の隅に大きな音を立てて転がり落ちた。

「さすがは、俺が見込んだ力だ・・・・・・。今回は、力を使いすぎたようだ!また改めて会おう!ワハハハハハハ!」笑い声を残して一騎は姿を消した。

 一騎が去った運動場に、ナオミ達は立ち尽くしていた。


「お父さん・・・・・・」ナオミが呟いた。

「ちょっと、ナオミさん。お父さんって、まさか?」シオリがナオミに声をかけた。口元がなぜかピクピクと引きつっている。

 その様子を見てムツミは背中を向けて何かを堪えるように肩を小刻みに揺らして口を手で覆っている。

「シオリさん・・・・・・私、決めました。例え、一騎が私のお父さんでもあったとしても私は一騎と戦います!」

「ぶははははははははははははははは!!!!!!!!」いきなりムツミが爆笑した。

「お父ちゃんって!ナオミちゃん、まさか一騎がお父ちゃんって思ってたんか!?」シオリ、イツミも笑いを堪えている。

 ムツミは地面に寝転び、腹を押さえながら爆笑を続けている。目には笑いすぎで涙が流れている。


「ちょっと!何なんですか?人が真剣に・・・・・・!」ナオミはムッとした顔をした。

 フタバは地面で胡坐に腕組みで下を向いている。

「腹が痛い!ナオミちゃん、違うって、ヒヒヒヒヒヒッ」ムツミの笑いは止まらない。

「ムツミさん!ちょっと・・・・・・!」ナオミは更に怒ったように顔を赤くした。

「ナオミさん、何を勘違いしているのかは知らないけれど、一騎はあなたのお父様ではなくてよ・・・・・・」言いながらシオリも笑いを堪えている様子であった。

「えっ、でも、被験者名簿の中に『吉富 健一』って、私のお父さんの名前が! それにこの前、ムツミさんも・・・・・・」ナオミは困惑した表情を浮かべた。

ナオミの言葉を聞いた、シオリ、イツミが一斉にムツミの顔を睨んだ。

「そうか・・・・・・、ごめん。ごめん。説明不足やったわ!でも、まさか一騎がお父ちゃんって・・・・・・そんな勘違いするやなんて思わんかったから!」ムツミは両手を合わせて謝罪の仕草をした。でも口元はまだ笑っている。

「えっそれじゃあ、私のお父さんは一体・・・・・・?」

「あの人や!」

「えっ?」ムツミが指差した先には、胡坐に腕組をしたフタバが座っていた。

 ナオミ達の視線に気づいたフタバは「よう!」といいながら右手を上げた。


 体育館の中に防高の生徒達が集合している。生徒達は運動場で起こった騒動を目にして騒いでいる。中には、未だ勘違いしていて、アトラクションを見れなかったと文句を言う生徒もいる。

「みなさーん!こちらを注目してくださーい!」壇上から可愛らしい声が聞こえる。ミコトがマイクを持って生徒達にこちらを見るように指示している。

 生徒達の私語は止まらず館内はザワザワしている。

「皆さん、静かにしてください!」一部の生徒達は興奮が冷めやらずに話しを止めない。

壇上にシオリ達がやって来た。


「どう、ミコト。うまく出来そう?」シオリ達の姿を見た生徒達から再び歓声が上がる。

「シオリ様―!」

「ムツミさーん!フタバさーん!イツミさーん!」声援が勢いを増す。

「ミコトたーん!可愛い!」

「キャー!ナオミさんも登場よー!」生徒達のテンションは絶頂に達しようとしている。

「えっ!どうしてナオミがいるの?」美穂は混乱した頭を整理しようとした。しかし、どう考えても自分がここにいるのに、ナオミが壇上に居ることを理解することが出来なかった。


 状況を確認する為に壇上に向かった。舞台袖の階段を上ろうとした。その時・・・・・・。


 ブチッ!


 何かが切れたような音がした。

「いい加減にしやがれ!」ミコトの安全装置が切れた音だった。一瞬にして場内は沈黙に包まれた。

「喋っている奴がいたらぶちまわすぞ!テメエらガタガタ言ってねえで、私に注目しやがれ!」言いながらミコトは、右手を生徒達にかざした。 

 ミコトの体から大量の赤いオーラが発生する。生徒たちは魔法にかけられたように固まった。

 ミコトのオーラは体育館の中の生徒達を包み込んだ。少し時間が経過した後、生徒達は動き出した。

「あれ、一体・・・・・・俺たちは、体育館でなにをしているんだ」壇上では、ミコトが力を使い果たしその場に倒れた。その体をイツミが受け止めた。

ミコトの手からマイクを取るとシオリは全校生徒に向けて発言した。

「急な雨が降りましたが、雨は止みました。皆さん、一年一組から順番に運動場に出てください。危険ですから慌てずにゆっくりとお願いします!」シオリはマイクを置くと舞台から降りた。

「そうか、そういえば、シオリ姫の高飛び見ていたら雨が降ってきて・・・・・・」いつの間にかシオリはお姫様になっているようだ。

「そうだ、続きだ!続きだ!」生徒達は、先ほどの騒動を覚えてないようであった。指示された通り、順番に運動場に移動していった。


 その様子を確認してから、シオリ達は別館に向かった。途中に美穂の姿を見つけて「あなたも一緒にいらっしゃい・・・・・・ 」と声をかけた。

ミコトはイツミの腕の中で眠っていた。


 運動場は何もなかったように静まりかえっていた。空中を舞った大きな岩も元の場所に埋まっている。その後、体育祭はプログラム通り種目を消化していった。ただ、特工科の競技出場は中止となり、特工エンジェルズ・ファンクラブからはブーイングの嵐が巻き起こった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る