第15話英雄は遅れてやってくる
ジャックが指揮をとり、魔物との戦いが始まった頃、アルバートは北門にやっと着いた。
屋敷から1時間以上もかかってしまった。
なぜかというと理由は単純で、アルバートの屋敷は街の中心にありそこから常闇の森がある方向の北門を目指した。
しかし、ここは商業都市、王都に次いで人口が多い街なのだ。北門付近から押し寄せる避難する人々が多すぎて前に進めなかった。
アルバートはジャックのように貴族の象徴である白馬に乗っていなかったので道を開けてもらえなかった。
そして今に至る、というわけだ。
「はあ~やっとたどり着いた~、誰も見当たらないな」
北門付近の住民は例外なく逆の南方向に避難していた。
「アクア、俺と契約したけど、契約したらどんな事が出来るんだ?」
『言い忘れてたの。私に命令する事が出来るの。私は水の大精霊だから水魔法に関しては完璧になるの。後魔力増幅で威力を上げる事が出来るの。今できるのはそのくらいかな?」
少し考えてからアクアに聞こえないよう、ステータスと唱えた。
【名前】アルバート・フォン・ハワード
【種族】人間族
【性別】男
【年齢】5歳
【称号】異世界転生者、神々の使徒、ハワード侯爵家四男、水の大精霊の契約者
【レベル】1
【能力ランク】SSS
【体力】92/100
【魔力】3520/25800
【魔法レベル】
火魔法LV10
風魔法LV10
水魔法LV10
土魔法LV10
光魔法LV10
闇魔法LV10
創造魔法LV10
【スキル】
アイテムボックスLV10
魔力運用効率化LV10
身体能力強化LV10
物理攻撃耐性LV10
魔法攻撃耐性LV10
隠蔽LV10
無詠唱LV10
手加減LV-
言語理解LV-
魔力操作LV8
精霊召喚LV- 召喚時、魔力増幅
【加護】
創造神の加護、水の大精霊の加護
【契約】
水の大精霊
うん、確かに称号と加護の欄に水の大精霊の文字がある。新しく契約っていう欄がある。これは嬉しい。
魔力増幅は『魔力運用効率化』のスキルに似てる感じがするってのは大体分かった。これもいい。
しかし、さっきアクアが言ってたけど水魔法が完璧になるってどういう事だ?俺はいわゆる神様からもらったチート能力で水魔法LV10なんだが?
ちょっと聞いてみるか。
「なあ、アクア。水魔法が完璧になるってどういう事?」
『自分の水魔法の限界にプラス私の能力が合わさるの。私は水の大精霊だから格下の精霊より能力が高いの。』
そんなの、最強じゃん。いや待て、最恐?なのか。
この世界の標準がイマイチわからない。チート保持者の俺は強いのは確定だが。
まあ、今そんな事を考えても仕方ない。
「そっか。ありがとう。門の外から戦闘音がしてる。アクア急ぐぞ!」
『りょーかいなの』
そうして北門をくぐって戦場の最前線へ走っていった。
戦闘が始まっておよそ10分、魔物の大群はその個体それぞれが強く、兵士や冒険者は中々倒せないでいた。
逆に負傷者が続出し、戦線の状況が魔物優勢になっていた。
なにか、おかしい。
そこでジャックは気づく。
こんなに魔物が黒かったのか?と。
常闇の守りの魔素の濃度が高くなっているのかもしれない。それで魔物の体の表面が黒くなった可能性がある。しかも以前見た魔物と同種なのに明らかに強い気がする。いや、強い。
冒険者達は必死に魔法を撃ち続けていたが体内の魔力が少なくなり魔法の勢いがなくなっていた。
兵士も同様だ。
ジャックはこのままではまずいと思い、必死に街を守る方法を考える。
「もう、あれしかないのか?」
あれとは、王と上位貴族である公爵、侯爵、伯爵本人しか知らない魔法のことだ。その魔法は国を守る時にしか使えない制限付き魔法で、自分の死と引き換えに標的に向けて体内にあった魔力を爆発させる魔法だ。
いわゆる自爆魔法。
自分が死ぬ代わりに大勢の命を救う魔法でもある。
そんな事を考えている時だった。
後方から誰かが走ってくる姿が見えた。
目を凝らして見てみると、こちらに走ってくるアルバートの姿が見えた。後ろには少女が、浮いている?
「父上!父上の帰りを待つ事ができませんでした!申し訳ありません!」
「ここは戦場だ!なぜここに来た!!」
「父上を助けるためです!」
俺は冷静に答えた。
「お前になにができるんだ!まだ5歳の子供なんだぞ!」
そこで俺はアクアを紹介することにした。
「この子は水の大精霊ウンディーネ、僕の契約精霊です」
アクアがうなづく。父さんには言葉が通じないと分かっているのだろう。
「水の大精霊?ウンディーネ?契約精霊?意味が分からん」
「ではもう一度説明します。僕は水の大精霊であるウンディーネと契約を交わしました」
「な、なんだとーーーー!」
はじめてみる父のリアクションだ。
「う、ウンディーネ様がなぜお前と契約したのだ?」
「たまたまウンディーネが僕を見つけたんです。父上がここに向かった後、僕は後悔をしていました。それをウンディーネに話すと契約してくれました」
アクアがうなづく。
「そ、そうだったのか。ウンディーネ様は文献に姿が記述してあるだけでその姿を見たものはほとんどいない。お目にかかれて光栄ですウンディーネ様」
アクアが嬉しそうににっこりと笑う。
「父上、なのでウンディーネ様と契約した僕はその土塁の先にいる魔物を倒す事ができます。参戦させて頂けませんか?」
「現在の状況は魔物達が優勢だ。加えて兵士や冒険者の負傷者が見ての通り続出している。このままでは土塁を突破されるのは時間の問題だ。5歳のお前に頼むのは心苦しいが、水の大精霊ウンディーネ様の力で魔物達を倒してくれないだろうか」
「分かりました、父上。僕たちに任せて下さい」
「すまないっ!」
父さんは涙を流していた。我が子を戦場に送り込まなければならないのだ。親として心苦しいのだろう。同時に自分の力のなさに情けないと思ってしまう。
父さん、俺たちに任せてくれ!
そうして土塁付近に走っていく。
「アクア、父さんとの話聞いてた?」
『うん、聞いてたの。魔物達を倒すの。大丈夫、私は水の大精霊ウンディーネ。お父さんを助けなきゃなの』
「そうだな。何か策はあるのか?」
『溺れさせるの』
「………………。」
言葉が出なかった。そんな可愛い顔して、とんでもない事をいう。
ん?誰か変態って言った?僕は5歳の純粋な子供だよ?
『どうかしたの?』
「い、いや何もないよ」
『水球の中に魔物達を入れて溺れさせるの』
「ああ、分かったよ。でも俺、水魔法使った事ないんだけど?」
『私が補助するの。だから大丈夫なの』
そんな事もできるのか、すごいな契約精霊って。
「頼りにしてるぞ、アクア」
『任せてなの』
そんな会話をしていると土塁付近に着いた。近くにはほとんど兵士や冒険者はいなかった。魔物が撃つ魔法に被弾してしまったようだ。
魔物達は土塁の下の堀に集まっている。水にとってはかなり相性の良い条件だ。
『水球って言えばいいの。後は任せてなの』
そうして言われた通りに俺は言った。
『水球』
言った途端、目の前に直径5メートル程の水球がいくつも現れた。それが魔物達に動いていきやがて魔物達を水球が覆った。
魔物達はもがいて苦しそうにしている。
『ググググガガガーーーーーー』
数分後全ての魔物が沈黙した。
「終わったのか?」
誰かがそう呟く。
「ああ、見てみろ。俺たちが見ている光景は本物だ」
「なんだ、あの子は。あんな魔法、俺には撃てない」
「英雄…。英雄だ!あの子は。俺たちは英雄の誕生をこの目で見たんだ!」
ジャックが涙を流して近づいてくる。
そうして俺に抱きついた。
「大丈夫か?すまない。俺が不甲斐ないばかりにお前に戦わせてしまった」
「父上、貴族として当然のことをしたまでです」
「それでもだ。ありがとう、本当にありがとうっ!」
こうしてハワード領魔物掃討作戦は1人の少年、いや5歳児の手によって静かに幕を閉じた。
後世の書『英雄の誕生』にはこう書かれている。
『ハワード領に魔物の大群が押し寄せ、窮地に立たされた。街の兵士や冒険者達が力を合わせ討伐を試みるも失敗。もうダメかと思われたその時、1人の勇敢な男児と大精霊ウンディーネが姿を現した。2人の活躍は凄まじく、一瞬で高ランク魔物を溺死させ、討伐に成功。街の平和は守られた。英雄は遅れてやってくる。この言葉はこの出来事が語源となった。
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