第13話謎の声
ハワード領内のほとんどの兵士とギルドに集まっていたBランク以上の高ランク冒険者たちは街を守りたい一心で常闇の森がある北門に集まり始めていた。
その頃、ハワード侯爵家では、アルバートの父であるジャックが北門へ向けて出発しようとしていた。
「俺は魔物を討伐しに行かなければいけない。これはアルが言ったように、貴族の務めなのだ。」
それを聞いた三男のマークと長女のリディアは目に涙をいっぱい溜めて涙を流していた。
「ち、父上っ…。」
「お父様…。」
そんな顔を見たジャックは2人を慰める。
「泣くんじゃないよ2人とも。アルを見てみなさい、まだ5歳なのにこの堂々とした態度、この子は貴族の責務を理解している。だから泣いちゃだめだよ。貴族とはときに過酷な事を成し遂げなければならない。それが今なんだよ」
そうしてマークとジェシカはその言葉を聞いてうなづいた。
子供を安心させるのは親の責務でもあり特権なのだ。
母のスーザンが口を開く。
「あなた、無事に帰ってきてくださいね」
「ああ、分かっている。この家の事頼んだぞ」
そしてアルの方を向いてジャックは口を開いた。
「無事に帰るのを祈っていてくれ。頼んだぞ?」
それを聞いた俺はうなづいた。
「家族として当たり前です。母さんも、マーク兄さんも、ジェシカ姉さんも、そしてこの家の使用人たち全員が父上の帰りを待っています」
これは本当の気持ちだ。親しい人を失って悲しくならない人なんていないのだから。
「そうだな。それでは行ってくる」
そういってジャックは用意していた白馬に乗って屋敷を出て、兵士達や冒険者が集まっている北門へ急いだ。
俺は父さんの背中を見えなくなるまで見ていた。
屋敷の門から父のジャックが見えなくなってから部屋に戻った。
部屋に戻った後ベッドに飛び込んで仰向けになり呟いた。
「何で俺、俺も行かせてください!って父さんに言えなかったんだろ…。」
そりゃ確かに異世界に来て自由に生きたい。でもだからといって家族の迷惑になるようなことはしたくない。恐らく父さんと別れる時に言っていたら怒られていただろう。俺はまだ5歳、何もできない非力な5歳児。師匠に魔法を教えてもらったけどまだ初級魔法しか教えてもらってない。神様からチート能力をもらったのに何もできないなんて…。
そんな事を考えている時だった。
『チカラがほしいの?』
俺はびっくりしたがすぐにベッドを降りて警戒態勢をとる。
「誰だ!!」
そして部屋をゆっくりと360度見渡すが特に妙なものはなかった。
あるのはいつもの見慣れた勉強机、それなりに整ってあるベッド、書庫から持ってきた本が雑多に並んだ本棚。
そんないつも見慣れた光景が目に映っただけだった。
「気のせいか」
そう独り言をいって気を緩めてベッドに座ろうとした瞬間またさっきの声が聞こえた。
『気のせいじゃ、ないヨ』
「誰なんだよ!姿をあらわせ!」
『あなたにはこの声が聞こえるの?』
「ん?聞こえてるからこうして話してるんだろ?」
『あなたは何者?』
それを聞いてすこしドキッとした。
この声の持ち主は俺の正体を知っているのか?
「そっちこそ誰なんだよ?」
そう言い放った後すこし間が開いた後、部屋全体が虹色の光に照らされた。
そこに現れたのは綺麗な水色の髪を腰辺りまで伸ばしていて、純白の肌を持っその体は宙に浮いていて体の周りには水滴が浮かんでおり、光を反射して輝いていた。とても綺麗だ。まるで幻を見ているかのようだった。
『私は水の大精霊ウンディーネ』
俺は思わず聞き返してしまった。
「大精霊?」
『そう大精霊。この街の西には湖があるの。そこの奥深くで眠ってたの。魔力の塊が一斉に動き出したから空を飛んで様子を見にきたの。その帰りに不思議な魔力を見つけたの。あなたのことなの」
「そうなんだ。で、さっきの発言だと君は俺以外の人と喋れないっていうこと?」
「私の声は普通の人には届かない。下級精霊が何を考えてるのかが分かる人間を見たことは沢山あるの。でも私の声が分かる人は今までいなかった。あなたを除いて」
それを聞いて思いついた事があった。
『ステータス』
【名前】アルバート・フォン・ハワード
【種族】人間族
【性別】男
【年齢】5歳
【称号】異世界転生者、神々の使徒、ハワード侯爵家四男
【レベル】1
【能力ランク】SSS
【体力】100/100
【魔力】25800/25800
【魔法レベル】
火魔法LV10
風魔法LV10
水魔法LV10
土魔法LV10
光魔法LV10
闇魔法LV10
創造魔法LV10
【スキル】
アイテムボックスLV10
魔力運用効率化LV10
身体能力強化LV10
物理攻撃耐性LV10
魔法攻撃耐性LV10
隠蔽LV10
無詠唱LV10
手加減LV-
言語理解LV-
魔力操作LV8
【加護】
創造神の加護
やはりか。恐らくスキル『言語理解』が働いているのだろう。でもこの考え方だと今まで見てきた動物の声は聞こえるはずだが聞こえた事がない。一体どういう区別がされてるんだろう?今度神様と会った時に聞いてみよう。
『どうしたの?なんかさっきからおかしいよ?』
ステータスはステータスオープンと唱えないと自分以外に見えないんだった。
すごい不審に思われてる。
「あっ、いや何でもないよ」
『あの、私、姿をあらわすまであなたの事すこし見てたの。何かあったの?暗い顔してたの』
精霊相手なら大丈夫かなと思って後悔している事を話した。
そしたら、ウンディーネは口を開いた。
『私が手伝ってあげるの。あなたは私の声を聞いてくれたはじめての人間。私、嬉しかった。だから、あなたを助けたいの!』
なんかすごく、いい精霊だった。
「でも、兄上や姉上に助けに行くとバレたらダメなんだ」
『大丈夫なの。私があなたを作ればいい』
創造魔法があるが何が起きるか分からないから任せることにした。
すると俺と同じ身長、同じ容姿の偽の俺が出来上がった。すこしつついてみると跳ね返りを感じた。全て水でできているのだが膜で覆っている感じ。肌の色も再現されていて知らない人は本人だと勘違いしてしまうだろう。
偽の俺をベッド人寝かせた後、ウンディーネは口を開いた。
『私の力を貸すには契約がいるの。契約にはたくさんの魔力が必要。それでもやる?』
俺は何もできないままここにいたくない。答えはもう決まっている。
「もちろんだ」
『それじゃ、手を出して』
言われるがままに手を出す。
そうして呪文のようなものを唱え始めた。
『我は汝の僕となり、汝は我の主となる』
そして一息吸った後、言った。
『契約』
すると2人の足元に円形の魔法陣が現れ、アルバートの魔力がどんどん吸われていく。
そして数十秒後、魔法陣が消えた。
『これで契約は終わったの。思う存分、お父さんを助けてあげるの!でも、その前に名前をつけて欲しいの…。』
なんかもじもじしてて可愛い。
名前かー、水だからアクアでいいよね。
「分かった。君の名前は今日からアクア」
『私の名前、アクア…。すごくいい響きなの。嬉しいの』
その後、アクアと共に屋敷の使用人に見つからずに北門を目指した。
アルバートがはじめて父との約束を破った日だった。
父上、申し訳ありません。どうやら無事に帰りを祈ることはできないようです。
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