第28話
俺はいつの間にか、アルコールに対する耐性も手に入れていたらしい。
そう考えると自分がますますバイキンかなにかのような気になってくるな……。
『バイキンかなにかというより、バイキンそのものですよ』
うるさいな。
ついお前の説明に聞き入っちゃったけど、今は早いとこ街の人たちに
いま俺が持っている
『経口』ってのは食べ物とかと一緒に、口から体内に入ることだよな。
じゃあ『創傷』ってのは……。
『それは、人間が外傷などを負ったとき、その傷口から体内に侵入することです。宇佐木さんが破傷風菌にかかったのも、飛び出た釘で肩をケガしたのが原因だったでしょう?』
なるほど、ケガからの侵入か。
とはいっても、ふたつとも実行には難しそうだなぁ。
まず経口のほうは、食べ物に混ざらなくちゃいけない。
街の人たちがレストランに来てくれれば料理に混ざることができるけど、今はそもそもそのレストランに誰も来てくれなくて困ってるんだ。
となると創傷のほうはになるんだけど、ケガしてる人なんてそうそういるわけはないし……。
そこでふと、俺はある疑問に気付いた。
……あれ、待てよ?
となると、俺はどうやって外に出ればいいんだ?
『それは簡単ですよ。最果ての洞窟に行って、外に排出されればよいのです』
うっ……それはなんか嫌だなぁ。
お前のおかげでビジュアルはゴミだけど、ようはアレってアレなんだろ?
なんかもっとこう……スマートに外に出る方法はないのか?
『はぁ、カウルさんはアレ以下のバイキンのクセして贅沢ですねぇ。排泄以外の方法となると、あとは
飛沫……? なんだそれ?
『会話している時や、咳やクシャミなどの時に飛ぶ唾のことですね』
ようは、口から出るってことか!
そりゃいい、お尻から出るよりはよっぽどスマートだ! それにしよう!
『口から外に出たウイルスの感染方法としては、「
それは、どう違うんだ?
『飛沫感染というのは、感染者が咳やクシャミなどで
なるほど、ようは『風邪』っていうヤツだな。
『はい。飛沫は水分を含んでおり重さがありますので、地面へと落ちます。
そのため飛ぶ距離としては、
会話 1~2メートル程度
咳 3~4メートル程度
クシャミ 5~6メートル程度
となっています』
ようはその距離で、相手の口、もしくは鼻に吸い込んでもらわなくちゃいけないってわけだな。
『はい。またそれとは別に、「空気感染」というものがあります。
これは飛沫に含まれていた水分が蒸発し、ウイルス本体のみになって空気中を漂うことです。
「はしか」や「結核」などがこれにあたるのですが、この場合は飛距離は無限になります』
ふーん、ようはタンポポの綿毛みたいに風に乗って、遠くに飛んでいけるというわけか。
滞空できるぶん、「空気感染」のほうが確実性はありそうだな。
俺は風に流されても、ある程度は自分の意思で空を飛べるから……。
『あ、ちなみにカウルさんは破傷風菌と同じ、「嫌気性菌」ですので、飛沫が蒸発した時点で意識不明になりますよ』
なにっ!?
俺って、空気に触れると死んじゃうの!?
『即死というわけではありませんが、多少の耐性がある程度です。また死滅はしませんが、仮死状態になります。お頭の「明日穴」から外に出たときも、意識が途絶えたでしょう?』
そういえば、外に出た俺が意識を取り戻したのは、宇佐木さんの身体の中に入ってからだったな。
ってことは……。
『飛沫感染』で飛び出して、意識のあるうちに口か鼻に飛び込むしかないってわけか……。
というわけで俺は、『飛沫感染』を狙ってみることにした。
幸い、宇佐木さんやお頭はビラくばりで街の人と接している。
その時に口から飛び出して、なんとかして乗り移ってやるんだ。
それでルールル、ここから口へはどうやって行けばいいんだ?
『はい。ただ単に、口に行きたいだけなのであれば、消化器系……。つまり、胃から食道をあがっていくほうが簡単です。でも飛沫となって口から飛び出したいのであれば、呼吸器系のほうがいいでしょうね』
それって、『気管』ってことか?
『そうですね。人間が口から取り入れるものとしては、食べ物や飲み物などがありますが、その他にも呼吸のための酸素がありますよね。
それらは「
食べ物や飲み物(消化器系)ルート
口 ⇒ 【咽頭】 ⇒ 喉頭 ⇒ 食道 ⇒ 胃 ⇒ 十二指腸 ⇒ 小腸 ⇒ 大腸 ⇒ 肛門
酸素(呼吸器系)ルート
口(鼻) ⇒ 【咽頭】 ⇒ 喉頭 ⇒ 気管 ⇒ 気管支 ⇒ 肺 ⇒ 肺胞 ⇒ 血管
咽頭が、食べ物などを飲み込む動きに連動して、気管に蓋をして閉じるようになっているんです。
そのため、食べ物や飲み物などが肺に行ってしまうことは、基本的にはありません』
そういえばずっと不思議だったんだよ。
同じ口から入ったのに、食べ物はちゃんと胃に向かって、酸素はちゃんと肺に向かうのが。
ゴックンする時に気管の蓋が閉じるのであれば、そりゃちゃん分かれてくれるよなぁ。
メチャクチャ喉が渇いているときに、麦茶を一気飲みしようとしたら、たまにひと口めで気管に入っちゃったりして、スゲー萎えることがあるけど……。
あれは『咽頭』がサボってる時だったのか。
『それはサボってるというよりも、咽頭が開閉するタイミングを誤ってしまったんでしょうね。
喉が渇いているあまり、慌てて飲んだのが原因です。
これからは、飲む前に一度深呼吸などをして気持ちを落ち着かせるとよいですよ』
そうか、今度からは咽頭に知らせてから飲むようにすればいいんだな。
『そうですね。
って、そんなことはさておいて……。
人間が吐き出す二酸化炭素、咳やクシャミは食道からではなく、気管から出るものです。
そのため、飛沫感染を狙うのであれば、まずは血管を通って肺胞に行ってみるのをオススメしますよ。
……あっ、でも、いくつか問題があって……』
なんだ? 問題って?
『まずひとつめの問題としては、ほぼ一本道の消化器系ルートに比べて、呼吸器系ルートはかなり複雑なんです。そのため、どなたかに案内してもらったほうが……』
ルールルがそう言い淀んでいると、
「太陽太陽、
へんな歌を口ずさみながら、俺の前をお姉さんが通り過ぎていった。
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