第26話
「かっ……カウルくん! ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!!」
その魂の謝罪は、山賊団のアジトの中に、熱くこだまする。
しかし当の宇佐木さんはスッキリした様子はなく、むしろ罪悪感に押しつぶされるように喘ぐ。
「ごっ……ごめんなさいっ……! カウルくん……! ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
とうとうテーブルに突っ伏して泣き出してしまった。
彼女は、俺がこの世界のどこか、手の届かない場所にいると知っている。
いくら叫んでも、決してこの気持ちが届くことはないと思っている。
俺は指呼の距離どころか、彼女のもっとも近くにいるのに……。
彼女の気持ちは、痛いほどに俺に届いているというのに……。
それを彼女にわからせる手段がないことが、歯がゆかった。
その思いとは別に、俺の胸はじいんと熱くなる。
やっぱり俺のしたことは、間違っちゃいなかったんだ……!
前世でしたことも、今世でしたことも……!
じれったいような嬉しいような、複雑な気持ちを噛みしめていると……。
水を差すような冷たい声で、隣にいる妖精が言った。
『前世での行いが今になって認められたからといって、調子に乗らないでくださいね。これはたまたまうまくいっただけなのですから』
なんだかルールルは不機嫌そうだった。
宇佐木さんの俺に対する気持ちの変化が、そんなに面白くないんだろうか。
そして山賊団の下っ端たちは、もらい泣きしていた。
「うっ……うっ……ううっ! なんで今になって、カウルなんてヤツが……!」
「でも、ミミちゃんに心底惚れられるのも、わかる気がするぜ……!」
「チクショウ、ここにきて恋のライバル出現かよ……!」
どうやら下っ端たちはみんな、宇佐木さんのことが好きだったらしい。
彼女は大人しすぎるところがあるけど、素直でかわいいし、なにより胃袋を掴まれてしまったのかもしれないな。
そして肝心の、お頭はというと……。
厳しい顔をさら厳しくして、「ムム……」と唸っていた。
いったい、何を考えてるんだろう? :
と思ったけど、いま俺はお頭の脳内、王様の執務室にいるんだった。
執務室の中では、お頭と同じ表情の王様が、玉座の上にあぐらをかいている。
「あの、王様……。いま、なにを考えてるんですか?」
ストレートに尋ねてみると、
「俺はなんとかして、ミミの願いを叶えてやりてぇと思ってる。なんとかして、カウルってヤツに会わせてやりてぇ」
もう会ってるんですけどね、とは言えなかった。
宇佐木さんのイメージしている『カウル』は人間の姿をしていて、こんな毛玉ではないからだ。
俺は第三者のフリを続ける。
「それで、俺……いや、カウルを探す方法を考えてるんですか?」
「ああ。異世界人ってのは、世界のいろんな所から現れるらしい。だからそのカウルも、世界のどこにいるのかわからねぇ。いったいどうやって探せば、見つけられるのかと思ってよぉ。うぅ~ん……」
王様は我が事のように悩んでいる。
宇佐木さんのことを、本当に娘のように思っているのだろう。
もうダメ元で、俺がそのカウルだと打ち明けてしまいたくなったが、
『たとえ信じてもらえたとしても、この世界にはウイルスが見られる電子顕微鏡などはありませんので、カウルさんを見ることは不可能ですね』
ルールルにそう言われて思いとどまる。
もし顕微鏡があれば、プレパラートの中で人文字ならぬ、『ウイルス文字』を作って交信できると思ったのに……。
こりゃ、八方塞がりかなぁ……。
でもそんな時こそ俺は、前向きに考えるようにしている。
たとえ俺が見つけられなくても、宇佐木さんには悲しみに暮れて生きてほしくない。
俺を見つけるのはついでくらいの目標にして、自分の人生を歩んでいってもらいたい。
そこで俺が、思いついたのは……。
「レストランをやるっていうのはどうでしょう?」
「なに?」と顔を王様。
「宇佐木さんは料理の腕があるから、街で店を開くんです。もしそれが評判になれば、カウルの耳にも届くかもしれません」
「そっ……! そうか! そりゃあいい! レストランが評判になれば、新聞に載ることだってある! そうすりゃ、カウルが店に来てくれるかもしれねぇ!」
脳内の王様がそう叫んだとたん、
……ダァンッ!
リアルのお頭が、振り上げた拳でテーブルを叩いていた。
宇佐木さんと手下はびっくりして、お頭に注目する。
「おいっ、ミミ、野郎ども! レストランをやるぞっ!」
「れ……レストランっ!?」とハモる一同。
「ああ、レストランをやって評判になれば、カウルが店に来てくれるかもしれねぇ!」
すると、手下たちの反応はまっぷたつに分かれた。
「な……なるほど! 名を売って人捜しとは、考えもしなかった! さすがはお頭っ!」
「ミミちゃんがシェフになれば、評判になるのは間違いなしっすね!」
「ま、待ってくれ、お頭! ミミちゃんの料理はたしかにうまいけど、そんなに上手くいくとは思えねぇ!」
「ああ! それにお頭、山賊団のほうはどうするんですかい!?」
お頭は、さらにテーブルを叩いて反対派の意見を打ち消した。
……ズダァーーーーンッ!!
「山賊団は、今日かぎりでおしまいだっ!」
この宣言にいちばん驚いたのは宇佐木さんだった。
「ええっ!? バンデラさん、私のために、そこまでしていただかなくても……!」
「いいや、ミミ! どのみち俺は、山賊団をやめるつもりだったんだ! なぜなら俺は、ミミが倒れたときに神に誓った! ミミがまた元気になるなら、真っ当に生きるってな!」
やにわにお頭は立ち上がると、椅子の上に登り、テーブルに脚をかける。
時代劇に出てくるヤクザとかがよくやる、仁義を切るポーズを取った。
「だから俺はもう決めたんだ! 俺のこれからの一生は、ミミを笑顔にするためにあると……! 頼む、ミミ! この俺の生命を、お前のために使わせてくれぃ!!」
それは、男の一世一代をかけた宣誓。
見るもの全てを黙らせ、貫きとおすほどの迫力があった。
しかし、さんざんテーブルを叩いてきたせいか、天板はまっぷたつに割れ、
ガッシャァァーーーンッ!!
そこに片脚を置いていたお頭は、バランスを失って前のめりに倒れ、情けなく地面に叩きつけられていた。
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