第24話
「見たか! あのモンスターの弱点は、『炎の源』なんだ! さぁみんな、『炎の源』で、衛兵たちを援護するんだっ!」
効果を目の当たりにした赤血球たちに、もう迷いはない。
「よぉし! 今こそ、ボクらの世界を守るときだ! 普段は衛兵たちに守られてばかりのボクたちだけど、今度はボクらが衛兵を助けるんだっ! みんな、いくぞっ!」
「おーーーーーーっ!!!!」と赤血球たちは一斉に丘の上から駆けおりる。
扇状に散開し、遠距離からの掩護射撃を始めた。
麓からドライアイスのような白煙がもうもうとあがり、一気に形勢逆転。
「ハショォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!?」
「おおっ!? あれほど手強かったモンスターが、苦しんでる!?」
「どんどん小さくなって、逃げようとしているぞ!」
「逃がすな! このまま一気にヤツらを退治するんだっ!」
塩をかけられたナメクジのように、小さくなっていく破傷風菌を、衛兵たちが一撃のもとに葬り去る。
大地に満ちていた人々の悲鳴は、モンスターの断末魔に取って変わった。
破傷風菌が倒されるごとに、世界を席巻していた黒い竜巻も弱くなっていき、やがてただのつむじ風になって消え去る。
その一部始終を見ていた俺は、テンション爆アゲ。
「やったーっ! やったやったーっ! どんなもんだっ! 破傷風菌なんかに、俺の大切なソウルフレンドを殺させてたまるかってんだ! いやっほぉーーーーーーーっ!!」
俺はぴょんぴょん飛び跳ねていたけど、ルールルは唖然としている。
「まさか赤血球の酸素を使って、破傷風菌に対抗するだなんて……。思いもしませんでした」
お頭の脳内に戻って宇佐木さんの容体を確認すると、なんだか息苦しそうだった。
酸欠のように、ハァハァと激しい呼吸を繰り返している。
『動脈中の酸素が足りなくなって、低酸素血症を起こしているのでしょう。なにせ大量の酸素を破傷風菌の退治のために使ってしまったのですからね。でも大丈夫、しばらくすればおさまります』
ルールルの言うとおり、宇佐木さんはしばらく苦しそうにしていたけど、だんだん呼吸が落ち着いてきて……。
そのまま眠ってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
テヌタス毒素を生み出す破傷風菌がいなくなったおかげで、それからすぐに宇佐木さんは回復した。
山賊のお頭は、まだ寝ていろと心配していたけど、彼女は起きだして、またみんなの料理人として働きはじめた。
そして、宇佐木さんが全快したということは……。
俺はこの世界から、消え去らなくてはならないということになる。
それは、山賊のお頭の脳内にあるモニターで、元気になった宇佐木さんを見つめている時だった。
『……覚悟はよろしいですか?』
と、ルールルは言った。
俺は、ついに来たかと思い、せめて最後に宇佐木さんの笑顔と、お頭の笑顔を頭に焼き付ける。
「ああ、やってくれ。ソウルフレンドの
『……本当に、よろしいんですね? 宇佐木さんはカウルさんに生命を助けられたことも知らず、恩人であるカウルさんのことを憎みながら生きていくんですよ?』
「別に俺は、宇佐木さんに好きになってもらいたくて、助けたわけじゃないさ」
『……じゃあ、なんのために助けたのですか?』
「それは、俺がみんなのことを『ソウルフレンド』って思ってる理由と同じかな」
『……わたくしは、それが不思議でなりませんでした。教えてください。カウルさんはなぜ、嫌われてもなおクラスの方たちを「ソウルフレンド」と呼び続け……。生命にかえても守ろうとしていたのですか?』
「なんだ、お前はそんなことを気にしてたのか。簡単なことだよ、『俺がしたいから、そうしてる』だけだ。っていうか、逆にそれ以外の理由なんてあるのか?」
しかしルールルは、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
それも小さい豆粒じゃなくて、遺伝子組み換えで巨大化したジャイアントコーンを。
二の句も告げない様子だったので、俺がかわりに言ってやった。
「さぁ、やってくれ、俺の気が変わらないうちに」
『もう終わってますよ』「なに?」
食い気味で返すと、俺の目の前にステータスウインドウが現れる。
そこには、
名前 なし
LV 14
HP 140
MP 140
VP 100 ⇒ 90
スキル
……
『はい。どうせここにいるカウルさんを消したところで、また
それこそ意外だった。
俺はてっきり、俺の存在自体を、この人体だけでなく、この世界から完全抹消するものだと思ってたのに……。
ポケっとした様子でルールルを見つめていると、
『……なにかおっしゃりたいことがあるんですか? わたくしは無駄なことが嫌いなだけなのです』
なぜか急に不機嫌な様子になって、そっぽを向いてしまった。
たっ……助かった……!?
どうやらもうしばらくは、この世界で生きていていいらしい。
少なくとも『叡智の女神』は、そう判断したようだ。
なんにしても、良かったぁ……!
俺が、ありもしない胸をホッとなで下ろしていると……。
ふと、賑やかな笑い声が聞こえてきた。
モニターを見上げると、外の世界では宇佐木さんが、オヤツを振る舞っているところだった。
今日の山賊団のオヤツは、おはぎみたいなの。
『みたいなの』というのは、この世界には小豆がないようなので、似た豆で代用しているようだ。
『この世界にも小豆はありますよ。この国では一般的ではないだけです』とルルール。
いずれにしても甘く煮た豆というのは珍しいのか、山賊団のメンバーは初めて見る様子だった。
それでも彼らには大好評。
こんなうまいもんがあるだなんて知らなかった! と奪い合うようにして食べている。
宇佐木さんはいつになく真面目な様子で、みなに言った。
「あの、バンデラさん、みなさん……。実は折り入って、お願いがあるんですけど……」
バンデラというのはお頭の名前だ。
お頭はおはぎを頬張りながら、威勢よく応えていた。
「おうっ! なんだぁ、ミミ、改まって! 俺たちゃ家族じゃねぇか! なんでも遠慮しないで言ってみろ!」
「あの……私を……自由にしてほしいんです……!」
すると山賊団全員が、時が止まったかのように動かなくなった。
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