第17話

「……目の前に囚われている少女を、盗賊団の料理人として据えるのですっ!」



 すると、評議会は紛糾した。



「なんだとっ!? この小娘を、料理人にっ!?」



「それは、我が盗賊団に入れるということではないか!」



「そんなことができるか! だいいち、なぜそれで『オーワンファイブセヴン』が撲滅できるんだ!」



 王様のまわりにいる法衣の者たちは、山賊のお頭の脳内といっていい。

 そのすべてが、俺の意見に反対している。


 しかし、俺はあきらめなかった。

 お頭をヤンキー軍団のボスだと思えば、なんてことはない。


 だって俺はすべてのスクールカーストに顔が利く、『カーストウォーカー』だったんだからな……!


 ヤンキーを説得するには、ふたつの方法を用いればいい。


 それは、『冷静と情熱』……!



「『オーワンファイブセヴン』は、生肉に乗って口からやって来るんです! ではどうすればいいのか? それは、肉をよく焼けばいいんです!」



 これが、『冷静』。

 まずは論理的に諭すんだ。


 すると王様だけでなく、周囲にいた者たちも「おおっ……!?」と唸った。

 しかしルールルだけは、



『論理というには幼稚すぎますね。「よく焼く」という表現も曖昧です。正しくは、75度の熱で1分間加熱すればO-157は死滅します』



 と口を挟んできたが、いまは黙殺する。

 俺はさらに論理を積み上げた。



「みなさんの言いたいことはわかっています! 焼いてしまっては、せっかくの肉が台無しになると思っているのでしょう!? しかし、囚われのあの子は料理が得意なんです! あの子に任せれば、今よりもずっと、安全でおいしい肉を食べさせてくれるでしょう!」



「安全で……」「おいしい肉だと……」「そんなものがあるのかっ……!?」



 俺の論理に、評議会の者たちは心を動かされているようだった。

 『相手がカウルさん以上の愚劣でよかったですね』と声が聞こえたが、俺は最後の仕上げに入る。


 そう、あとは『情熱』をぶつけてやるんだ。


 俺は全身の毛がボワッと膨らむくらいに、ありったけの大声を出して訴える。



「……あるんですっ!!」



 俺の魂の叫びに、脳内は、しん……と静まりかえった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺は、山賊のお頭の説得に成功した。


 厳密には、山賊のお頭の脳内にいる、バンデラ国王を説得したんだが……。

 なんにせよ、宇佐木さんは売り飛ばされず、山賊の料理人にするという意思決定がなされる。


 これには、ルールルもめずらしく素直に驚愕していた。



『人間の脳に入り込んだうえに、「連合野」や「辺縁系」たちを説得して、意思決定を変更させるだなんて……。

 これはウイルスの働きとしては、前代未聞のとんでもないことです。

 よくフィクションには、人間をゾンビにして操るウイルスなどが登場しますが、その場合は宿主は自我を失います。

 カウルさんの場合は宿主は健常なので、ウイルスによって操られているのが傍目にはわかりません。

 これは、余計にタチが悪いといえるでしょう』



 お……俺がしたことって、そんなにヤバいことだったのか?



『意思決定を操るというのは、人間だけでなく、運命を操っているのも同然なんですよ。

 よく考えてみてください。

 カウルさんが国王を説得しなければ、宇佐木さんは奴隷として売られていたことでしょう。

 言うなればこれは、盗賊団と宇佐木さん、6人の運命を変えてしまっていることになるんです』



 そ……そう言われると、なんだか、ヤバいような……。

 いやでも、良いことに使ったんだからいいだろう!


 しかし、良いことばかりでもなかった。

 なぜならば王様から、宇佐木さん解放の条件を付けられてしまったから。


 その条件とは、宇佐木さんを料理人にしても『オーワンファイブセヴン』が発生するようなことがあったら、俺は『最果ての洞窟』で一生、オーワンファイブセヴン狩りを続けるというもの。


 ようは辺境の地の洞窟で、ゴミにまみれてウイルス人生を終えろというわけだ。

 しかし宇佐木さんの運命には変えられないので、俺はその条件を承諾する。


 そして俺は結果がハッキリするまで、王城に留まるように申し渡された。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺とルーコとチコは王様との謁見を終え、城の外に出る。

 俺はまた城に戻らなくちゃいけないのだが、ルーコとチコは仕事があるため、次の配属先に行かなくてはならないという。


 俺はソウルフレンドたちに、いっときのお別れをする。



「ううっ……! カウルくんはついに、王城に召し抱えられることになったのでありますね! それはとても喜ばしいことですが、正直、寂しいであります!」



「うわぁぁぁん! お別れなんて嫌なのだーっ!」



「ふにゃりともにゃくにゃって、こにょせかいはつにゃがってるにゃから、いつかみゃたあへるって」



 ふたりがかりで揉みくちゃにされて、せっかくの別れの言葉も伝わったかどうかわからないが、ともかく俺は、馬に乗って去っていく少女たちの背中を、いつまでもいつまでも見送る。


 その最中なぜか、ステータスウインドウが表示された。



 名前 なし

 LV 4

 HP 40

 MP 40

 VP 0


 スキル

  潜伏ステルス

  吸収ドレイン

  憑依ポゼッション

  看破インサイト

  増殖レプリカント

  血栓フィブリン

  耐酸レジストアシッド

  膨張エクスパン

  NEW! 遊走フリーラン



 そうか、お別れのときにルーコにさんざんモフモフされたせいで、パッシブスキルの『吸収ドレイン』が発動し、白血球のスキルである『遊走』を吸収したのか。


 ってことは馬に乗れるってことだから、これでいつでもアイツらに会いに行けるかもしれないな。


 俺は晴れやかな気分で王城に戻ろうとしたんだけど、橋のところでまた厳重な身体検査をさせられた。

 さっき一回通ったんだからいいだろ、と抗議したんだけど、規則の一点張りで聞いてくれない。


 面倒くさくなった俺は、いったん橋から離れ、ある人物たちが来るの待つ。

 しばらくすると、ウイスキーのラベルに描かれていそうな貴族たちがやって来た。


 俺はすかさず彼らの前に飛んでいって、かわいくおねだり。



「ふわふわ。ぼくをモフモフしてもいいふわよ」



 貴族たちは大喜びして、高級なペルシャ猫でも愛でるように、こぞって俺の身体を触りまくった。

 すると狙いどおり、新しいスキルをゲットする。



 NEW! 溶性ソルブル



 このスキルのおかげで、俺は脳血液関門の検査をフリーパスで通れるようになった。

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