第11話
しかしそこで、いきなり足止めを食らってしまう。
道は途切れ、底の見えないほどの深い穴になっており、両側にある壁だけが奥のほうへと続いている。
リアカーを押してやってきた坑夫たちは、積んできたゴミを穴に向かって落すと、そそくさと逃げ帰っていた。
ルーコ曰く、ここは最果ての地とされており、ここから先へは誰も進めないらしいのだが……。
今この洞窟には、壁を利用した人工的な足場が組まれていて、さらに奥へと進めるようになっていた。
しかも足場の上には『オーワンファイブセヴン』のオッサンたちがうじゃうじゃいる。
となるとこの足場は、ヤツらが悪さをするために作り上げたものと見て間違いないだろう。
彼らをまとめてお縄にできればよかったのだが、数が多すぎてできない。
街にいたオッサンたちは最大で2人組だったのだが、ここには何十人といる。
となると、俺がいま呼びにいっている応援を待つのが得策かと思われた。
もうひとりの俺は大勢の衛兵と僧侶を引きつれ、この洞窟に向かっているところだ。
しかし、その猶予すらも許されそうになかった。
……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
足場の果てのあたりから、地鳴りが響いてくるのだ。
それは地獄の釜蓋が開いていくような、なんともいえない不吉な音だった。
「……この音は、なんなのでありますか!?」
「分からないのだ! でもきっと、良くないことが起ころうとしているのだ!」
俺たちは焦燥する。
このまま奥へと突っ走っていって、音の正体を確かめたかったのだが、それをすると袋叩きにあってしまう。
かといって援軍の到達を待っていては、取り返しの付かない事になるような気がする。
『これは、まずいかもしれませんね』
まさかルールルまで、そんなことを言うとは思わなかった。
まずいって、なにがまずいんだ!?
『食中毒を起こすような細菌というのは、100万個以上が体内に入らないと発症しません。でも「Oー157」は、100個程度入っただけで発症します。ようは、今ここにいる数が、脅威を及ぼす数だということです』
ううっ……!
このまま放っといたら、ヤバいってことか!
せめて音の正体が確かめられれば、なんとかできるかもしれないのに……!
そこで俺はふと、ゴミ捨てを終えて逃げ帰ってくる坑夫の存在に気付いた。
彼らに聞けば、何かわかるかもしれない!
俺は、坑夫のひとりを呼び止める。
「おっちゃん! この先で、なにが起こってんだ!?」
すると坑夫のおっちゃんは言い渋っていたが、かわいくおねだりしたら教えてくれた。
「よ、よく知らねぇけど……あの賊どもは、たまに俺たちをさらっていくんだ。これは見張りの賊が言ってたんだが、なにかを作るために強制労働させてるらしい。俺たちは目を付けられないようにするだけで、精一杯なんだよ」
「おっちゃんたちをさらって、強制労働!? なんで衛兵に助けを求めなかったんだ!?」
「言えるかよ、仲間たちが人質に取られてるんだぞ。本当はこの事も黙ってなきゃいけないんだが、お前がかわいいから、特別に教えてやったんだ。いいかボウズ、この事は誰にも言うなよ!」
そう言うと坑夫のおっちゃんは一方的に話を打ち切って、さっさと戻っていった。
うう……下手に情報を聞いたから、奥でなにをやっているのか、余計気になってきた……!
するとルールルが、なんでもないことのように俺に行った。
『では、確かめに行ってみればいいではないですか。カウルさんは
そういえば……。
見張りのオッサンたちは俺を見ても、イタズラ小僧が来たくらいのリアクションだったな。
となると、俺ひとりでも奥に行って、確かめてみたら……。
いや、いざという時のために、ルーコとチコも連れていけたら……。
でもふたりは、
そこでふと、あるスキルの存在が頭をよぎる。
そしてルーコとチコにも相談してみたのだが、いちかばちかやってみよう、ということになった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は物陰から出て、最果ての穴から伸びている、足場の階段を登っていく。
足場に登りつくと、さっそく多くのオッサンたちが、俺をギョロリと睨みつけてきた。
「なんだぁ、テメェ?」
「ぺらぺら。ぼくはこどものウイルスぺら」
「なんだ、お前ウイルスの坊主だったのか。それにしちゃデケェなぁ」
「ぺらぺら。さいきんのこどもははついくがいいぺら。それよりも、かっこいいあしばぺら」
「そうだろぉ? 坑夫どもをとっ捕まえて作らせたんだ。奥にはもっとすげぇのがあるぞぉ、坊主はかわいいから、特別に見てもいいぞ。でもこの奥には『明日穴』があって風が強いから、飛ばされないように注意しな。いざとなったら手すりに掴まるんだぞ、いいな?」
オッサンたちは社会見学に来た子供に接するように、奥へと通してくれた。
ウイルスの俺どころか、細胞であるルーコとチコまでも。
実は俺は
そのおかげでルーコとチコの姿は隠され、俺の
シーツおばけ状態の俺たちは、足場を伝ってさらに奥へと進んでいく。
周囲にいた『オーワンファイブセヴン』のオッサンたちの姿はまばらになっていき、地鳴りのような音はどんどん大きくなっていく。
それにあわるように、風が強くなってくる。
吸い込まれるような追い風だ。
北風に吹かれる旅人が、コートを押えるように、俺をしっかりと掴んだまま進む、ルーコとチコ。
「風が強くなってきたであります! もうじき、『明日穴』が開こうとしているようであります!」
「『明日穴』が開いたら、もっと風は強くなるのだ! 『明日穴』に吸い込まれて、戻ってきた者はいないのだ! 吸い込まれないように、注意するのだ!」
ごうごうと鳴る風は、待ち受けるラスボスの厳しさを物語るように吹いている。
俺はゲームのクライマックスを迎えるような気分で、すっかり高揚していたのだが、
『この人体は、便意を感じているようです。もうじき排泄が始まるみたいですね』
誰かさんの一言で、だいぶ萎えてしまった。
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