第7話 苦味成分には抗ストレス作用がある。

 酒場に着いた。


「バーテンダー、魔王討伐の情報が欲しい」


「ありません」


 ダメだった。




「はあ、どうしよう」


「そんながっかりしないでくださいよ」


 俺はテーブルに座って、頭をかかえた。


 テーブルには豪華な料理が並んでいる。


 女神のスロットで得たお金で、酒場で一番高い料理を注文したのだ。


「落ち込んだ時は、お酒でも飲んで、気分転換してください」


「お酒は飲まないんだ」


「それじゃ、私がお酒を飲みますね」


 なんで?


「女神でも、お酒って飲むのか?」


「飲んだことありませんよ?」


「だ、大丈夫なのか?」


「当たり前じゃないですか! 私を何歳だと思ってるんですか!?」


「・・・さあ」


 怖いから、聞かないでおこう。


「何を飲むんだ?」


「んー、何がオススメですか?」


 知るかあああああああああああああああああ!!!


 俺はお酒は飲まないって言っただろ!!!


 喉から出そうになる声を飲み込み、俺は穏やかな声を出す。


「おっさんが居酒屋に行くと、『とりま生中なまちゅうで』って言うらしいから、生中なまちゅうにしたら?」


「え? あなた、おっさんが好きそうなヤツを、女神にオススメするんですか?」


 いいだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 不満があるなら好きなヤツ選んで飲めよおおおおおおおおお!!!


「まあ、せっかく、あなたがオススメしてくれたんです。細かい事は言いっこ無しにして、すいませーーーーーん! とりま生中なまちゅうで!!!」


「ッざあああっす! 8番テーブル生中なまちゅう1つ入りましたあああああ!」


「元気ですね」


「ああ」


 お前もな。




「おお! 生中なまちゅうきましたね!」


「ああ」


「どんな味なんでしょう?」


 ペロ。


「・・・苦いけど、おいしいです」


「人はストレスを感じたとき感覚が鈍くなって、苦味をあまり感じなくなるらしい。仕事が終わった後の一杯目の生中なまちゅうがより一層おいしく感じるのは、ストレスが溜まっているからかもしれないと言われている。また、苦味成分には抗ストレス作用があることが知られている。上司からのストレスを感じている女神には、苦味のある生中なまちゅうはオススメなんだ」


 ペラペラペラペラ。


 俺はそれっぽい理屈うんちくを並べ立てて、生中なまちゅうをオススメする理由をテキトーにペラペラ言った。


生中なまちゅうおいしいです。ゴクゴクゴク」


 ジョッキがからになった。


「え! もう飲んだの!?」


「すいませーーーーーん! 店員さーーーーーーん! 生中なまちゅう追加で!」


「ッざあああっす! 8番テーブル生中なまちゅう1つ入りましたあああああ!」


 ゴクゴクゴク。


「店員さーーーーーーん! 生中なまちゅう!」


「ッざあああっす! 8番テーブル生中なまちゅう1つ入りましたあああああ!」


「店員さーーーーーーん!」


「ッざあああっす! 8番テーブル生中なまちゅう1つ入りましたあああああ!」


生中なまちゅううううううう!」


「ッざあああっす! 8番テーブル生中なまちゅう1つ入りましたあああああ!」


 女神は生中なまちゅうびるように飲んだ。







 次の日。


「・・・あ、頭が割れそうです」


「そうか」


 俺は女神の背中をさすってやる。


 女神は二日酔いだ。


「俺、魔王を倒しに行ってくる」


「・・・い、異世界を、・・・た、頼みます。ウッ!!! ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ」


 テーブルに、頭痛薬と胃薬と水を置き、


 俺は一人で、魔王城へ行くのだった。

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