第2話 優しい子

 私とクラーナは、森で犬の獣人の女の子と出会っていた。

 なんでも、お腹が空いているらしいので、私達は家に連れて帰って、食事を振る舞うことにした。


「あむ、あむ……」


 という訳で、私達は家に戻って来ていた。

 クラーナが、すぐに食事を作り、女の子はそれを食べている。その食べっぷりは、本当にお腹が空いているのだと思える程、見事なものだ。


「さて、事情を聞いてもいいかしら?」

「あ、うん……」


 そんな女の子に、クラーナが切り出した。 

 私達は、この女の子を何も知らない。何故、あの森に一人でいたのかなど、わからないことだらけだ。


「まずは……自己紹介からね。私は、クラーナ」

「あ、私はアノンだよ。あなたの名前は?」

「ラノア……」


 女の子の名前は、ラノアというらしい。

 それでは、もっと深いことを聞いてみよう。


「どうして、あの森にいたのかな?」

「……どこにも、行く場所がなくて……」

「行く場所がない……?」

「お母さんが死んじゃって……最期に、獣人の里を探しなさいって……」

「……そっか」


 ラノアちゃんの事情は、かなり厳しいものだった。

 母親が亡くなってしまい、その母親が言っていた獣人の里を探すために、あの森に来ていた。とても厳しくて、悲しいものだ。


「でも、見つからなくて……」

「あの里は、時々しか姿を現さないのよ。だから、ある一時しか、わからないわ」

「そうなんだ……」


 ラノアちゃんに、クラーナが獣人の隠れ里のことを伝える。

 隠れ里は、秘匿のために、時々しかその入り口を表さない。そのため、タイミングが悪く、ラノアちゃんは森をさまよい続けることになってしまったのだ。

 こればかりは、仕方ないことである。だが、それでも可哀そうだ。


「それなら、どうしよう……」

「大丈夫。あそこの入り口が開くまで、ここにいればいいよ。ね? クラーナ?」

「ええ、そうね」


 落ち込むラノアちゃんに、私達はそう声をかける。

 この子を放っておこうなどと思うはずはない。獣人の里の入り口が開くまで、ここにいてもらえばいいのだ。


「いいの……?」

「もちろん!」

「あ、ありがとう……」


 私達の言葉に、ラノアちゃんは明るい表情になる。

 こうして、私達はラノアちゃんにしばらくここにいてもらうことにするのだった。


「さて、そうとなったら、色々と買い物に行かないと駄目かもしれないわね」

「え?」

「食材とか、色々と二人分しかないもの」

「あ、そっか……」


 そこで、クラーナがそう呟いた。

 確かに、しばらくは二人暮らしから、三人暮らしになるのだ。色々と今のままでは足りないだろう。


「それなら、買い物に行かないとだね」

「ええ。それに、依頼の報告もしないといけないわね。私一人で行ってくるから、アノンはその子を頼めるかしら?」

「うん、わかった」


 クラーナの言葉に、私は頷いた。

 一人で行かせるのは、少し心配だが、まあ買い物くらいは、大丈夫だろう。

 ラノアちゃんを一人にする訳にもいかないので、これは仕方ない。


「あ、私なら、一人でも大丈夫。それより、二人で行った方がいいよ」

「え?」

「あら……?」


 そう思っていた私に、ラノアちゃんがそんなことを言ってきた。

 まさか、この子からそういう言葉が出てくるとは思っていなかった。


「だって、犬の獣人一人は、危ないもん……」

「あっ……」


 ラノアちゃんの言葉で、私もクラーナもなんとなく事情を察せてしまった。

 ラノアちゃんは、その経験から、犬の獣人が差別されることを認識している。それにより、数々の危害を加えられたのだろう。その考えは、とても悲しいものだった。


「私は、アノンとクラーナ以外の人が来ても、戸を開けないから……匂いでわかるから、絶対大丈夫……」

「ありがとう、ラノアちゃん」

「うっ……」


 私はゆっくりと、ラノアちゃんの頭を撫でる。

 優しい子だ。こんな子が、厳しい現実にさらされているのは、本当に悲しい。


「……クラーナ」

「ええ、ここはその言葉に甘えさせてもらった方がいいようね」

「うん」


 私とクラーナは、ラノアちゃんの言葉に従うことにする。

 一人にさせるのは心配だが、そういう風に不安にせるのは良くないと思ったからだ。

 それに、買い物は結構な荷物になるため、私がついて行った方がいいとも思った。


 私が買い物に行って、クラーナが残るというのも考えたが、そもそも、一人では何を買っていいかわからないのだ。

 私は、もう少しクラ―ナから、食材などについて聞かなければならないと思うのだった。


「早く行って、早く帰りましょう。全速力で行くわよ」

「うん、そうしよう!」


 こうして、私とクラーナは、二人で買い物に出かけることになった。

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