第103話 一瞬の疑念は

 私とクラーナは、ボール遊びを終えて、家の中に戻っていた。

 今は、夕食を食べている。


「うん、今日もおいしい」

「ふふ、ありがとう」


 今日も、クラーナが作ってくれた料理はとてもおいしい。

 もちろん、今回も私は手伝った。少しずつ料理の腕が上達してきたため、戦力になっていたと信じたいものである。


「あ、そういえば……」

「あら? 何かしら?」


 そんな中、私はあることを思い出した。

 それは、ボール遊びをしている時に、少しだけ気になっていたことだ。


「クラーナって、あのボールどうして買ったの?」

「え?」

「ほら、あれって一人じゃできないし……」


 私が疑問に思ったのは、クラーナがあのボールをどうして買ったかということである。

 あの遊びは、投げる人がいなければできない遊びだ。

 そのため、純粋に疑問に思ったのである。


「……も、もしかして、疑っているの?」

「へ?」


 そんな私に、クラーナは変なことを言ってきた。

 疑っているとは、どういうことだろうか。

 この質問で、どうしてそのようなことを言われたか、私は全く理解できない。


「ど、どういうこと?」

「あ、いや、なんでもないわ」

「うん?」


 私が質問を返すと、クラーナは首を横に振った。

 どうやら、クラーナが何かを勘違いしていたようだ。


 それが何か、私は考える。

 先程の言葉は、私がクラーナに対して、何かを疑っているかを確認する質問だ。

 それは、私が何故ボールを買ったかを聞いたから起こった。


「あ!」


 そこで、私は理解する。

 クラーナは、自身が過去に誰かと一緒にいたのではないかと、私が疑っていると思ったのだ。

 確かに、私の質問はそういう意味にも聞こえなくはない。だが、私はそんなことをまったく考えていなかった。


 しかし、そういわれると、気になってしまう。

 クラーナは、ここで過去に誰かと暮らしていたのだろうか。

 別に、そうだとしても責めるつもりもないが、純粋に聞いてみたい。


「クラーナ、ここで誰かと住んでいたの?」

「……そんなことはないわ」


 私の質問に、クラーナはそう答えてきた。

 ただ、それが本当のことかどうかはわからない。

 なんだか、とても気になってしまう。


 恋人の過去が気になるなんて、きっと駄目なことだ。そうわかっていても、疑問に思ってしまうのだ。


「……アノン、何か勘違いしているようね」

「え?」

「私は、アノン以外と住んでいたことなんてないわ。あのボールだって、単に一人で遊ぶために買ったものだわ。全然楽しくなかったけど……」


 そんなことを思っている私に、クラーナが声をかけてきた。

 その目は、とても真剣だ。


「アノンが初めてなのよ。舐めるのも、撫でられるのも、あれで遊んだのも、全部……」

「クラーナ……」


 私は、自身の過ちを理解する。

 クラーナの言葉を信じないなんて、絶対にあってはならないことだ。

 クラーナは、今とても悲しそうな顔をしている。それは、私が引き起こしてしまったことだ。


「ごめん。クラーナを疑った」

「私も、勘違いさせるような言葉を言ってしまったわ。ごめんなさい」

「いいよ、そんなのは……」


 私は、クラーナの手をとった。

 あんなくだらないことを疑問に思い、クラーナを悲しませた自分が本当に嫌だ。

 

「ん……」

「ん……」


 私は、クラーナに唇を重ねた。

 謝罪と、親愛の気持ちを込めたキスだ。

 これで、許されるとかではなく、単にそうしなければならないと思ったのである。


 私とクラーナは、しばらくそうしているのだった。

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