第8話 恥ずかしいけど、どうしよう?

 私とクラーナは、しばらくソファで話した。

 その後に、クラーナがある提案をしてくれる。


「そろそろ、お風呂に入ろうかしら……」

「あ、お風呂か……」

「溜めてくるから、少し待っていてくれるかしら?」

「う、うん、もちろん」


 そう言って、クラーナはお風呂場に向かったようだ。


 それにしても、お風呂か。

 食事の時もそうだけど、クラーナは怪我した私の生活を助けてくれている。

 ならば、これも手助けしてくれるのだろうか。


「……もしかして、一緒に……?」


 お風呂の手助けというと、そういうことになるはずだ。


「う……」


 なんだか私は、緊張してしまうのだった。




◇◇◇




 結局、私の思っていた通りの展開になった。


「さあ、お風呂に入るわよ」

「あ、えっと……」


 お風呂を溜めてから、クラーナは、私と一緒に入浴することを提案してきたのだ。

 

「……あの、クラーナ?」

「何かしら……ア、アノン」


 クラーナに呼びかけると、恥ずかしがりながら、私の名前を呼んでくれる。

 それは、とても嬉しいのだが、今の状況を整理しなければならない。


「その……本当に一緒に入るの?」

「ええ、そうしないと、あ……アノンが大変じゃない」

「それは、そうだけど……」

「もしかして……嫌なの?」

「え!?」


 クラーナは、そう言って悲しそうな顔をする。

 

 どうやら、勘違いさせてしまったみたいだ。

 別に、私はクラーナとお風呂に入ることは嫌ではない。

 ただ、ちょっとだけ、恥ずかしいのだ。


「嫌じゃないよ。むしろ、嬉しいし……」

「う、嬉しい?」

「あ……」


 私は、間違えて言わなくてもいい言葉を放ってしまった。


 クラーナがそう誘ってくれること自体は、とても嬉しい。

 なぜなら、心を開いてくれているのだと、実感できるからだ。今まで、私に、そのような人はいなかったから、なおさら嬉しいと思う。


 だけど、恥ずかしさは別だった。今まで、裸なんて、母親くらいにしか見せたことがない。


「恥ずかしいだけだから、気にしないで……」

「そう? それなら、別々に入る?」

「……うーん」


 しかし、別々に入るとなると、確かにクラーナの言った通りの問題はある。

 怪我のため、満足に手を使えないため、一人で入るのは厳しそうだ。


「ごめんなさい、一緒に入らせてください」

「……どうしたの? まあ、いいけど……」


 結局、私はクラーナの厚意に甘えることにした。


 せっかくクラーナが善意で言ってくれたのに、それを否定して、最終的には手の平を返す。

 なんだか、自分がやったことがとても申し訳なく思ってしまった。


「本当にごめん……私、変なこと言っちゃって……」

「別に気にしていないわよ。それに……私だって、恥ずかしくない訳じゃないのよ?」

「え……?」

「誰かとお風呂に入るなんて、初めてだもの。ちょっとは緊張するわ」


 どうやら、クラーナも恥ずかしいらしい。

 それでも、私のためを思って、この提案をしてくれたのだ。


「クラーナ、ありがとう」


 それが、とても嬉しくて、私は思わずお礼を言ってしまう。


「変なアノンね。まあ、いいわ。行きましょう」


 こうして、私はクラーナとお風呂に入ることになったのだ。

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