フロート1-4

「本物を出せたら良かったのだけど」


 こればっかりは無理だ。

 最新技術をもってしても、ゼロから生物を生み出すことはできない。

 それができるのは神話の世界だ。


 まぁ、それはそれとして。

 魚に関してメアリが不思議がる様子はなかった。

 映像には驚いた様子だったが、魚そのものにはすぐ手を伸ばしていた。

 本人の記憶はともかく、彼女の中に経験や感覚は残っているのかもしれない。

 それがメアリのことを知るきっかけになるかもしれない。


「メアリ、晩は魚料理にしてみるよ」

「りょうり?掴めないものを?」


 食事は分かっても料理の意味は厳しいか。

 何より昨日の様子を見た感じ、魚を生きたまま丸呑みっぽい。

 もちろん、私の料理も海や川で魚を捕まえてくるわけじゃない。その形と味のするものをレイヴンに作ってもらうという意味。


 とりあえず私がそばにいる間は、こちらで食事を用意するつもり。

 いや、人魚が野生的な生活を送っているのならそれはマズいか。

 かといって、メアリが生きた魚を丸呑みにするさまは見たくないのだが――


「ジェイ?」

「あ、いや。動く魚を食べるためには出せないだけで」

「そうじゃないの、レイヴンのこと」


 レイヴンの方を見ると、浮き輪のようなものがそこにあった。

 完成したのかと思ったが、相棒から何のコメントもない。


 それよりも相棒から煙が上がっているではないか。

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