メアリ1‐4

 何か話題を作らないと。


 でないと、しゃべれなくなる。

 私が。恥ずかしさで。


「あ、えと、俺はジャック・ガーランド。よろしくね」


 のぼせた頭なので、ありきたりな自己紹介しかできない。


「じゃっく、ぐあ……」


 人魚姫は言葉に詰まる。いきなりフルネームは厳しいか。


「ジェイ、で良いよ。レイヴンもそう呼ぶから」

「ジェイ?レイヴン?」


 いけない、情報を増やしすぎた。彼女は新しい言葉に戸惑とまどっている。

 順序を考えなければ。恥ずかしさでのぼせている場合じゃない。


「まず、俺のことは“ジェイ”と呼んでくれる?」

「ジェイ、でいいの……?」


 愛称と名前の違いについては、また今度で。


「うん!俺はジェイ。で、こいつが――」


 リュックから黒い球体を取り出す。


「レイヴン、喋っても良いぜ。相棒」


 青い単眼は瞬時にこちらを捉えると、『どうも、いた相棒のレイヴンです』と悪態あくたいをついてから人魚姫に視点を変えた。

 警告をされるのが嫌で、音声機能を切ったのが相当不服だったようだ。


「悪かったよ。でも、危険はなかっただろ?」

『そうですね。ですが、今は彼女の体調を』


 相棒の言葉で我に返る。

 いけない。何を浮かれていたんだ。

 彼女の様子を真剣に見ていれば気付けたはずだ。

 人魚姫は緊張が解けたのもあるのだろう、姿勢がふらついて呼吸も浅い。


 そりゃそうだ。

 私だって暑いのに、弱っている彼女が炎天下えんてんかで無事なわけがない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る