3-2


『ジェイ、起きていますか』


 人魚から星空へ目を移したところで声がかかる。

 レイヴンから話しかけてくるのは珍しい。そちらを見ると青い単眼だけが暗がりに浮かんでいる。


「起きているよ」

『良かった。今のうちに尋ねたいことがあります』

「質問?いいよ」


 タイミング的に察しはつくが――


『人魚のことです』

「人魚、ね」


 やはりか。


『彼女の回復を確認したらで良いのですが、それ以後は距離を置くべきかと』

「彼女のために?」

「あなたのためにです。ジェイ」

 私のため――ね。

「住む世界が違うって?」

『それよりも、です』


 レイヴンは時折、単眼以外にも小さな光の線を周囲に伸ばしている。

 周辺警戒をしているのだろうが、何よりも人魚を警戒しているのだろう。


『ジェイ、あなたは人魚から攻撃を受けています。危険です』

「あれは錯乱によるものだよ」

『それでも、至近距離では攻撃を受けるリスクがあります』


 噛まれた右手を見る。強く噛まれたのは一瞬であったが、それなりの出血はあった。あの時は痛みを感じなかったが、今は包帯を巻いた右手が少し痛む。

 彼女が弱っていたからこの程度で済んだが、そうでなかったら大変なことになっていた可能性はある。そうでなくとも、首筋など急所を狙われていたら彼女の手当どころではなかったのも事実だ。


 彼女が意識を取り戻したら間合いには気を付けるべきか。

 そんな私にレイヴンは『言いにくいのですが、ジェイ』と、こう忠告してきた。


『あなたは彼女をとして見ていませんか?』


 不意の言葉だった。

 レイヴンも言葉を選んでいるのか、少しの間が空く。


『私も人間ではありませんが――。彼女もまた人間ではないのです。その点は警戒すべきだと思います』

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