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いや、彫刻なのだとしても。
あの人魚をもっと間近で見たい。
近づいたら作り物と分かるそれであったとしても。
「レイヴン。起きてくれ」
リュックから野球ボールほどの黒い球体を取り出す。
『ごきげんよう、ジェイ。体調は――問題なさそうですね。どうかされましたか?』
レイヴンは機械的に青光りする単眼でこちらを見上げる。
「目の前にある地下空洞を降りたい。安全な入口はあるかな?」
『了解、
「どうぞ、レイヴン」
では、と間をつくるレイヴン。
『本場イタリアのピザ屋はありましたか?』
「いや、固焼きのパンすらまだ買えていなくてね」
『おや、これは失礼』
「いいさ、ジョークをどうも。レイヴン」
この球体はレイヴン。旅のサポート役。
私の体調管理や周囲の調査を手伝ってくれる。
『4時方向の構造物に階段と思しき傾斜あり。そこから指定座標に到達可能』
振り返ると広場に並ぶ建物のなかでも地味な建物が目に入る。
普段は使わない点検用の入り口といったところか。
「レイヴン。もう一つお願いが」
『何でしょう?』
「地下を含め周囲に生体反応は?」
レイヴンは弧を描くように青い目を1周させてから、『小動物の反応、周囲15メートルに複数。脅威なし』と答えた。人や犬猫サイズの反応はなし。
「そうか」
『さらに広範囲を調査しますか?』
「いや、いい」
『何か懸念でも?』
「地下の小島に人魚の像があるんだが、よくできているなと思って」
レイヴンは目を回転させ、しばらくそちらを見ていたが、『よくできているのでしょうね』と答えるだけだった。
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