2-2

 いや、彫刻なのだとしても。


 あの人魚をもっと間近で見たい。

 近づいたら作り物と分かるそれであったとしても。


「レイヴン。起きてくれ」

 リュックから野球ボールほどの黒い球体を取り出す。

 球体レイヴンは青い点滅を繰り返す。


『ごきげんよう、ジェイ。体調は――問題なさそうですね。どうかされましたか?』

 レイヴンは機械的に青光りする単眼でこちらを見上げる。


「目の前にある地下空洞を降りたい。安全な入口はあるかな?」

『了解、走査スキャンします。あと会話を続けても?』

「どうぞ、レイヴン」

 では、と間をつくるレイヴン。


『本場イタリアのピザ屋はありましたか?』


「いや、固焼きのパンすらまだ買えていなくてね」

『おや、これは失礼』

「いいさ、ジョークをどうも。レイヴン」


 この球体はレイヴン。旅のサポート役。

 私の体調管理や周囲の調査を手伝ってくれる。


『4時方向の構造物に階段と思しき傾斜あり。そこから指定座標に到達可能』


 振り返ると広場に並ぶ建物のなかでも地味な建物が目に入る。

 普段は使わない点検用の入り口といったところか。


「レイヴン。もう一つお願いが」

『何でしょう?』

「地下を含め周囲に生体反応は?」


 レイヴンは弧を描くように青い目を1周させてから、『小動物の反応、周囲15メートルに複数。脅威なし』と答えた。人や犬猫サイズの反応はなし。


「そうか」

『さらに広範囲を調査しますか?』

「いや、いい」

『何か懸念でも?』


「地下の小島に人魚の像があるんだが、よくできているなと思って」


 レイヴンは目を回転させ、しばらくそちらを見ていたが、『よくできているのでしょうね』と答えるだけだった。

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