2-1 

 人魚。

 上半身は人、下半身は魚。御伽噺の存在。

 

 絵画や伝承によっては男の人魚もあるそうだが、有名なのは「人魚姫マーメイド」だろう。その影響からか私を含む世間一般で人魚は女性というイメージが強い。さらにいえば、絵本や彫刻の人魚は容姿端麗な美人として表現される場合がほとんどだった。

 ただ以前の私はそれら人魚のイラストや石像を見ても、残念ながらロマンや美しさといったものを感じるタイプではなかった。


 だが今はどうだろう。自分でも動揺している。

 何も考えられず眼下の人魚姫をただ見ている。


 薄暗い穴の下でただ一人、スポットライトのように照らされているから?

 あるいは私が人にも会わずに突然人魚を目にしたから?

 それに何か……何か気付くべきことがあるはず。

 こう、なにか……


 違う。

 それよりもアレは彫刻ではないのか。

 そもそも地球に人魚はいない。次にこの都市は放棄されている。そして、この都市に住んでいたのは間違いなく人間だ。


 人魚はその間も体を横にしたまま動くことはない。


「……」


 彫刻なのだろうか。

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