第27話 「魔術の双六は自分で動く」

「何が起きたんだ……? 教室が草原に変わったぞ!?」

 周囲の光景が一気に変わって驚いたのは俺だけだった。サナはこうなる事を知っていたようで、「こういうゲームです」と呟いた。

「空間のテクスチャを更新したんです。転移魔術より低コストで使えるから、体育祭で便利ですよね」

 へー。そんな魔術もあるのか。魔術って戦う以外にも使えて便利だな。

 俺が感心していると、サナは慌てて両手をしきりに動かした。

「す、すみません! うちなんかが偉そうに解説して……! 決して知識をひけらかした訳じゃないんですうううう! 馬鹿にはしてません! 許して下さいいいい!」

「いやそんな歪んだ解釈してないぞ俺!? 素直にお前の知識に感心したよ!」

 サナはどうして自分が悪いかのように勘違いするのだろう。誰もサナを責めていないのに、サナは勝手に謝る。だから話していると少し疲れる時もある。そんな事を本人に言ったらさらに謝られそうだから、言わないけど。


「一年生は初めてか? これが魔術双六の醍醐味だ! 自ら駒となって、マスを移動するように移動する! まぁ動いているのは空間の方だが、そーいう理屈っぽい話は日頃の授業だけでお腹いっぱいだろ? 細かい事は気にせず楽しめ楽しめ!」

 そう言うシャルロット自身が一番楽しそうだった。これが魔術双六。空間を行き来して、ゴールを目指す競技。インドア派かと思ったら滅茶苦茶活発的なゲームだった。


「じゃあ、この『マス』のイベントは何だ?」

 「1マス戻る」とか「報酬が貰える」とか、あると思うけど。

「とりあえず軽く戦っとくか! 相手はゴーレムでいいよな? 二つ星クラスだから油断すんなよー!」

 シャルロットが言うや否や、草原に岩のゴーレムが現れた。これを倒せばイベント攻略か?

「分かりやすくていいな。行くぞサナ!」

「は、はいいっ! うちも微力ながら……いえ本当に微力ですがお手伝いします!」


 戦いはすぐに終わった。戦うだけなら俺の得意分野だ。粉々になったゴーレムを見下ろすと、草原にファンファーレが鳴り響く。

「やるなてめえら! イベントクリアだ! 賽子振っていいぞ!」

 シャルロットが許可した途端、俺の持っていた賽が光り出した。『マス』をワープする度に賽子の光が消えて、イベントをクリアするとまた光る。この繰り返しか。

「す、すごいですアレイヤ君。一瞬で倒しましたね……。一応、二つ星級のゴーレムなのに」

 ゴーレムの欠片を突っついて、サナは嘆息した。

「そうか? まぁ容赦無く殴っていい分、学生と戦うより気楽だったな」

「うちが出る幕無かったです……。微力どころか無力……。何をやってもうちは駄目ですね……」

 サナは声を低くして落胆した。

「いやいやいや! 無理に協力する必要も無いし! 早く済んだならそれでいいだろ?」

「この競技は協力が鍵なんです。だからうちもアレイヤ君の力にならないといけないのに……。うちはあまりにも無力っ! せめて土下座させて下さいいいいい!」

 サナは凄まじい速度で土下座した。

「だからやめてくれそれ!」

 サナに謝られると、こっちが悪い事した気分になる。サナは本当は優しくて、悪い事なんて一つもしてないのに。


「じゃあ賽子振るぞ。次はサナが振ってみるか?」

 俺はサナに賽子を渡そうとした。しかし彼女は受け取らない。

「うちがやったら……きっと良くないマスに行っちゃいます。いえ、多分アレイヤ君でも……うちが一緒にいる限りは」

「え?」

「と、とにかく! アレイヤ君が賽子担当でお願いします!」

 サナは賽子を嫌がった。何故かは知らないけど、本人が嫌がってるなら仕方ない。

 じゃあ俺が振る。えっと、今いる場所はどこだろう。


 俺は地図を開いた。「戦闘:二つ星級」と書かれたマスの文字がゆらゆらと蠢いている。ここが俺とサナの居場所だろう。

 他のグループの居場所は分からないのだろうか。一定の情報制限が、一層プレイヤーを焦らせる仕組みか。


 1、3、6の目が出たらラッキーだな。マスに難しそうな事が書かれてない。「戦闘:一つ星級」とか「魔力測定:レベル1」とか。

 逆に2、4、5の出目だと厳しいな。「魔術クイズ:レベル4」とか「215秒間賽子が光らない」とか。


「簡単なマスばかり行けたら楽だな」

「でも難しいマス程ボーナス点が貰えますよ」

「あぁ、そうなのか? 今の戦闘でも点が貰えた?」

「はい。50点だけですけど」

 低得点だな。上位勢と数千点の差がある事を思えば、もっと点数が欲しい。時にはハイリスクなマスを狙ってハイリターンを狙う戦法もありか。


 ゴールを急いで大きな数字を出すのがいいか、あるいはマスのボーナス点を狙ってゆっくり進むがいいか。賽子の目で大きく結果は変わるな。


「じゃあ行くぞ。高得点のマス来い!」

 俺は賽を投げた。出目は2だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る