第565話 謎の魔道具
「死ィねェェェェエエエッッッッ!」
レールガン・ソードから放たれた閃光が森を白く染め上げる。次いで耳をつんざくような轟音が響きわたり、激しい衝撃が森の空気を震わせた。
まるで雷が落ちたみたいだ。雷神の鉄槌かと見紛うばかりの攻撃によって、ジークフリートの前方数十メートルからは木々が消え失せていた。
何本もの樹木を根こそぎ吹き飛ばすほどの威力。それの直撃を喰らった敵兵は、にわかに動揺している。数こそそれほど減らせてはいないが、間違いなく敵の士気には大きな影響を与えたようだ。
「やっぱ凄ェな! 『迅雷剣』はよ! 流石は天下一の名工が鍛えただけあるぜ」
「いやぁ、照れちゃうなぁ」
「なんでテメェが照れンだよ」
「は? メイちゃんは俺の愛しのお嫁さんだぞ! お前こそふざけてんのか? 殺すぞ!」
「ファーレンハイト少将……。テメェ、自分の嫁に関わる時だけ本気になるよな」
「何が悪い」
いかんいかん。どうやら少しだけジークフリートの口調が移ってしまったようだ。もう少し距離置こうかな……。
「お二人とも! 呑気にお話ししているなら、敵の首は自分が頂いちゃいますよ!」
銃剣に『魔力刃』を纏わせた部下の一人(一号車の運転手だった伍長君だ)が、そう言いながら俺達を追い抜いていく。流石は殲滅隊に選別されているだけあって、深い森だというのにかなりの走破速度だ。
「構わん。どんどんやれーっ」
「おおおおォッ! 今日の撃破数一位は絶対に俺が取るぞォッッ」
激励してやると、彼は吶喊の声を上げて敵陣に突っ込んでいった。単身で乗り込んだ伍長は当然のように敵の
「そんなんじゃ俺は止められないぜ!」
叫びながら彼は『魔力刃』を振り回すと、それだけで数人の敵兵が薙ぎ倒されてしまった。
その光景を見て思わず逃げ出そうとする敵兵の一人。が、それより早く伍長の狙いすました一発が放たれ、あえなく敵前逃亡を試みた敵兵の命はそこで潰える。
「この分なら、こっちは大丈夫そうだな」
「ならオレはあっちに行く」
ジークフリート中佐は短くそう告げると、『迅雷剣』を担いで右の方向へと向かってしまった。あっちには
「なら俺は敵の指揮官をとっ捕まえるとするか」
重要な極秘作戦を任された指揮官である。もしかしたら貴重な情報なんかも持っているかもしれない。強くはないかもしれないが、戦術的な価値が高いのは間違いなくそっちだ。
「指揮官なら、指示を飛ばすために何らかの通信手段を持っている筈だ」
隠密行動が前提となる以上、野戦のように法螺貝や銅鑼で命令を出すわけにもいくまい。皇国側の魔導通信機ほどハイテクな魔導具を持っているとも考えにくい。
となれば、考えられるのはごくごく単純な波形にパターン化された魔力波を送受信する程度の、モールス信号機のような原始的な魔導具。俺はその微弱な魔力波を拾ってやればそれでいい。
「……見つけた。まったく、少し集中するだけですぐに位置が割れるなんてな。わかりやすいにもほどがあるというか、むしろ罠を疑うレベルだ」
信号のパターン自体は独自のものらしく、何を言っているかまではわからないが……貴重なデータである。記録を取っておいて、あとで参謀本部の解析班にでも共有しておくとしよう。
そんなことを頭の中にメモしつつ、俺は森の中を駆ける。敵の指揮官の周りには何人かのお供がついているようだ。いずれもエース級の魔力反応である。負ける気は欠片もしないが、かといって気を抜けるほどでもない。
「むっ」
鋭い風切り音が聞こえてきた。とっさに首を捻って躱すと、耳のすぐ横を矢が掠めていく。ご丁寧に風属性の魔力まで纏っているときた。どうやら敵には弓の名手がいるらしい。
「ならこっちは『衝撃弾』だ」
ようやく目視できる位置にまで接近したので、俺は右掌に魔力を集めて『衝撃弾』を生成する。それを見た瞬間、敵の様子が激変した。
「……『彗星』だッ!」
「総員、これよりプランBに移行せよ!」
「「「了解!」」」
敵指揮官は俺の正体を一目で看破するや否や、対俺用に練ってきたと思われる作戦へと切り替える指示を出す。果たしてどれだけ効果があるかはわからないが、敵が死に物狂いで見出した対俺戦法の詳細には少しだけ興味がある。
もしかしたら俺自身が把握していない弱点があるかもしれないのだ。とすれば、俺がより強くなるためには、この一戦は大事なものになる。
俺は距離を保ったまま、注意深く敵分隊の様子を観察する。果たして何をしてくるのか。
「!」
敵の隊長が懐から何かを取り出した。ラグビーボールのような楕円形をした……しかしもう少しだけ小さい、手で掴めるくらいのサイズの魔導具である。中心部の
この魔力……魔人のものに近い?
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