第309話 知り合いを探して三千里
翌日。行動は早いに越したことはないので、俺は早速学院に出向いて知り合いを探していた。
今は夏休みなので、流石に構内は人が少ない。すれ違う人も、ほとんど全員が顔すら見たことがないような人達だ。
ちなみに実家のほうには昨日の夜のうちに連絡を入れてある。オヤジ曰く
「『わかった。悪いのは敵だ。存分にやれ。家族のことは俺に任せろ』」
とのことだった。頼れる父親って感じだ。カッコいいね!
その後は特魔師団にも影響があるかもしれないので、上官であるジェット・ブレイブハート中将にも通信を飛ばしておいた。数コールの後に通話に出た奴は
「『がはははは! それは災難だったな! まあ頑張れ!』」
と大声で笑って通話を切りやがったのだった。大方、俺のことだからなんとでもなると思ってるんだろうが……いい加減にも程があるだろ! とはいえ仕事はきっちりしっかりやるジェットのことだ。今頃は憲兵団の長官に連絡を入れて情報共有を迫っているに違いない。
ついでと言ってはなんだが、必要ないかもしれないとは思いつつ同じ中将繋がりでマリーさんにも連絡を入れたところ……
「『うむ、そうか。まあ人生、そういう敵に出くわすこともあるものよの。……良い機会じゃ。妾もそちらに出向いて、そういった手合いにどう対処すべきかを教えてやろう』」
と、僅か一コールで通話に出て一方的に
などと愚痴ですらない何かを呟いたところ、イリスが
「ハルトも相当な自由人」
と辛辣なことを言ってのけたのであった。地味にショックを受けてメイの豊満な胸に飛び込み、ひたすらよしよしされていたのは恥ずかしいから内緒である。母性ェ……。
ちなみに、そんな俺を撫でながら見つめるメイの瞳に邪な光を見たとは、
さて、そんなこんなで閑散とした構内をプラプラと歩いていると、屋内演習室から見知った顔が出てくるのが見えた。
「よう、エレオノーラ」
「あら、エーベルハルトじゃない。どうしたの?」
どうやら今日も自主トレーニングのようだ。勤勉で何よりである。
「いや、実はな……」
かくかくしかじか、昨日起こった出来事について伝えると、エレオノーラは眉を
「ふーん」
「ふーん、ってお前」
「まあ確かにムカつく奴らね。でもその程度じゃ不意打ちでも私を傷つけるのは無理ね。……これは自惚れじゃないわよ。エーベルハルトもそんな奴ら、さっさと見つけてぶっ殺しちゃえばいいのよ」
「ぶっ殺すって……いや、まあ確かにそういう展開になるかもしれんけどさぁ。表現が直接的なんだよ」
「婉曲表現はわかりにくいから嫌いよ!」
「さいですか」
ここにもいた自由人である。
それからエレオノーラに通信魔道具を(あいつなら別に要らないと思うけど一応)手渡して、もう一セット自主トレをするから付き合えという彼女に丁寧に断りを入れて、その代わり今度修行に付き合うことを約束させられ、ようやく解放された俺は再び他の知り合いを探すべく構内をうろつく。
魔法哲学研究会の部室は閉まっていたし(珍しく部室の住人ことヒルデがいなかった)、文藝部室も無人だった。後者に関しては鍵が開いていたので、おそらくユリアーネは学院構内のどこかにいる筈だ。
魔哲研のメンバーに関しては皆さんそれなりにお強いので、後回しでも多分大丈夫だろう。まずはユリアーネ探しだ。
「ユリアーネさーん。どーこですかー」
キョロキョロ見回しながら構内を練り歩く俺。花の綺麗な中庭も、ステンドグラスの光が綺麗な螺旋階段にもユリアーネの姿はない。というか人の姿自体が見当たらない。
そりゃまあそうだ。夏休みに入ってかれこれ三週間以上は経っている。全国から学生が入学してきている都合上、夏休みのような大型の休暇に帰省する学生はとても多い。ユリアーネはそもそも皇都住みだから帰省する必要はないが、本当なら俺やメイはハイトブルクに、リリーはベルンシュタットに、イリスはカルヴァンに帰省していてもおかしくはないのだ。
まあ何故帰省していないのかというと、それは転移門で普段からちょくちょく帰っているおかげで、わざわざ夏休みに帰省しなくても別に構わないからなのだが……。あとはメイとイリスの二人との結婚式が近いが故に、その準備で忙しいということもある。
そんなことはさておき。ユリアーネだ。どこだ、ユリアーネ!
「ああ、図書館はまだ見てなかったな」
本の虫のユリアーネが真っ先に行きそうなところなのに、むしろ何故最初に思いつかなかったのか。
「ついでだし俺も何か借りようかな……」
もちろんユリアーネが図書館にいれば、の話だが。いなかったら悠長に本など借りている場合ではない。まあほぼほぼ確実にいるだろうから、そんなのは杞憂なんだろうが。
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